仙台スポーツ
COPY
URL
COMPLETE

Interview

BASKETBALL

改めて自己を見つめ直した今季 渡辺翔太は誰よりもアグレッシブなプレーでチームを引っ張る【後編】

今季注目の仙台89ERSポイントガード渡辺翔太選手へのインタビュー。後編は、自身が考える今の課題、仙台89ERSに来たきっかけや胸の内に秘めた熱い想いについて伺いました。

 

早朝5時からのワークアウト

自分の持ち味を「誰よりもアグレッシブに、誰よりもハードワークすること」と即答する渡辺選手。その言葉は決してコート上だけのものではありません。昨季から、早朝の自主練習を日々欠かさず続ける「努力の人」でもあります。

―早朝練習のきっかけは?

「きっかけは個人的な悩みからでした。昨季は午前10時からチーム練習だったんですが、7時起きで参加したら眠くて……。なので、起きる時間を早くしたら目が覚めるんじゃないかと思って、5時に起きることにしました」

―練習の質を上げるための早起きだったんですか。

「はい。でも、せっかく早く起きているので練習までの時間がもったいないなと思って。それで去年、東京にいるスキルコーチと朝6時過ぎからオンラインでワークアウトを始めました。今もその流れで5時過ぎから体育館に行っています。今は金城茂之さん(2020-21シーズンで現役引退。現在仙台89ERSのアシスタントコーチ兼スキルコーチ)も直接指導してくれています」

―昨季からずっと続けられているんですね。

「はい。でも、自分一人だけじゃないです。神里和選手とアレックスさん(喜久山アレックス選手)と3人でやっています。他のチームは朝から使える体育館があまりないと聞いたので、開いてるならやろうよ、みたいな感じで。一人でやるより、よりゲームに近い感じでワークアウトができるので、すごく充実しています」

―ちなみに、毎朝何時に起きていらっしゃるんですか?

「あ、今は4時半です(笑)」

 

ストイックさという「課題」

仙台89ERS 渡辺翔太選手

誰よりも練習すること。努力し続けること。毎朝4時半に起き、「夜も9時前にはベッドに入ってます」という一見ストイックな日常は、渡辺選手にとってはごく「自然」なことのようで、爽やかな笑顔でさらりと答えてくれます。でも、その「あたりまえ」なストイックさが課題でもあるようで……。

―オフの過ごし方は?

「大学生の時、コロナが始まる前まではアウトドア派でした。ずっと家にいるのが嫌で、散歩に行くなどどこかしら外に出てましたね。でも、仙台に来てからは感染リスクを避けて家の中で映画を見たりするくらいです」

―長くコロナ禍でリフレッシュするのが難しい状況が続いていました。オンとオフの切り替えが難しそうですね。

「確かに、オンとオフの時の差はあまりないですね。2連休の時は1日目にドライブすることもあるんですけど。今まで外に行かない、行けない状況が続いていたので、逆にドライブすると疲れてしまうかもしれないな、やめたほうがいかな、とかいろいろ思っちゃったりします。難しいです」

―渡辺選手はすごく真面目な印象を受けました。

「結構やらなきゃ気がすまないタイプなんです」

―やらないと不安が大きくなったりしますか?

「そうなんです。だから、去年はずっとオフの日も早朝練習をやって、休む暇を一切自分に与えなかったんですけど……。そこの部分に対して先輩から指摘があって。『休むのも仕事だ』と。なので、今は休む時はしっかり休むことを心がけています」

―コロナが終息したら、今後仙台で行ってみたい場所はありますか?

「えーっと……。ちょっとケータイ見ていいですか? 行きたいところ、いっぱいあって情報番組を見ていいなと思ったらメモしてるんです。(スマホのメモをチェックする渡辺選手)あ、この前テレビでやってた、登米で原木しいたけを栽培している高橋農園さんに行ってみたいですね。椎茸ご飯、大好きで……。農園とか牧場とか、自分は栃木出身で自然の中で育ってきたので、とにかく自然と戯れたい。仙台は自然が豊かな場所なので、これから仙台・宮城の楽しみを見つけていきたいです」

 

志村の再来と言われることについての想い

仙台89ERS 渡辺翔太選手

そのアグレッシブなプレーからは意外に感じるほど、穏やかな物腰でどんな質問にも笑顔で真っ直ぐに答えてくれる渡辺選手。身長168センチという小柄な体格ながら、コート内を縦横無尽に駆け回りどこまでもボールに食らいつく姿は「ミスターナイナーズ」と呼ばれた現クラブ社長の志村雄彦さんに重ねられることも多く、ゆえに今季はファンの期待も一身に背負っています。

―渡辺選手は大学3年生の時に特別指定選手としてチームに入りました。大学リーグを休部してのプロ入り、仙台89ERSでやると決めた理由は?

「大学3年生の時、エージェントを通じていろんなチームで練習させてもらいました。エージェントと志村さんが同級生というご縁で仙台89ERSにも1週間ほど参加して自分のプレーを見てもらったんです。仙台89ERSが掲げるディフェンスからの速攻、早いバスケというスタイルが自分に合っているんじゃないかと思ったのと、志村さんの存在がやはり大きかったです。自分自身が成長できるんじゃないかって」

―(体格面で近い)志村さんの存在は大きかった?

「はい。志村さんは、試合の前後でアドバイスをくれますし、自分が悩んでるときそこを誰よりも理解して接してくれます。フロントとしての仕事も大変だと思うんですけど、選手に寄り添ってくれる、選手の立場でアドバイスをくれるので、もう、絶対的に存在が大きいです」

―社長が直々にアドバイスってあまり聞いたことがないです。

「はい、珍しいと思います。他のチームもないって聞くので」

―志村さんの再来、と周囲から言われることについてはどう感じていますか?

「最初に思うのは、嬉しいということです。志村さんみたいに、プレーがすごいだけじゃなくて、存在自体でも仙台で欠かせない存在になりたいとすごく思います。とはいえ、本当に自分が志村さんのところにまでたどり着けるのか、期待に応えられるのかという気持ちも正直あるんですけど…。そこで不安ばかり感じてしまうと良い方向に向かないと思うので、いつも通りやっている練習を積み重ねていきたいと思ってます。不調な時でも、自分はここまでやってきたんだからという自信は絶対に持っておきたいなと」

―誰よりも練習してきたし、やれることはやってきたと?

「そうですね。そこは自信に変えていきたいです」

 

絶対に達成したいからこそ「簡単に口に出したくない」

仙台89ERS 渡辺翔太選手

―今季の「B2優勝、B1昇格」という言葉の重みをどう捉えていますか?

「そうですね……。個人的には、あまり簡単なことではないと思っています。どのチームも本気で掲げていることなので。本当は簡単に(その言葉を)口に出したくないって思ってます。でも、絶対に達成したいことではあります」

―軽々しく言えるものではない?

「はい。毎年仙台89ERSも掲げてきて、(叶わなくて悔しい思いを)繰り返してきた。でも今年は、今のチームの選手とチームの雰囲気なら大丈夫だと思ってます。例えば今季加入のジェロウム・メインセ選手は結構人見知りで、最初は話しかけてもそっけなかったんです。でも、今じゃチームを本当の家だと思ってるらしくて普通に叫んだりするんです。最初の状況からは想像できない(笑)。自分も、今のチームだから自分らしさを出せますし、すごく良いチームになってると思います」

―自分を分析したときにどんな人間だと思いますか?

「自分の世界に入っちゃう、と思います。自分で抱え込んじゃうというか。試合中も悪いプレーの時は、どうしたらいいんだろうって自分ですごく考えて、あまり周りに相談をしないというか、自分だけで考えちゃうのが悪い癖だと思います」

―すごく考えるって、良い部分でもあると思いますが……。

「そうかもしれないですね。でも、一人でベンチで考え込んでる時ってチームにあまり良い影響を与えていないと思うんです。雰囲気的にも。多分、(ベテランの)隼人さん(寒竹隼人選手)や大晴さん(片岡大晴選手)だったら、悪いプレーをした時でも自分だけじゃなくて自分以外の周りの人をサポートしていける。まだ自分のことしか考えられないというところでは全然ダメです。もっと視野を広げていかなきゃって思ってます」

―この先、どんなプレイヤーになりたい?

仙台89ERS 渡辺翔太選手

「今、日本のバスケは外国人選手が中心となってコート上でプレーを組み立てていくことが多いですが、そんな日本のバスケをポイントガードとして引っ張っている存在は明治大学の先輩の齋藤拓実選手(B1名古屋ダイヤモンドドルフィンズ)だと思うんです。齋藤選手のような、日本のバスケを盛り上げていく存在になりたいです。一方で、華のあるプレーだけじゃなくて経験をしっかり積んでいきたい。これから日本が世界と戦っていくためにサイズアップしていく時期があると思うんですが、そこで生き残れるように、志村さんのようにバスケットIQを高めていきたいですし、持ち前のアグレッシブさをどんどんアピールしていきたい。そうじゃなきゃ自分は生き残っていけないことを自覚してます。なので、さらにワークアウトを通して高める必要があると思ってます」

仙台89RESだけでなく日本のバスケット界を背負う未来を見据えている渡辺選手。爽やかな笑顔の下で、常に己と向き合い内に秘めた闘志を努力に変えられる、その類い稀な才能から今後も目が離せません。

 

Photo by 土田有里子

深井ゆきえ
深井ゆきえ

フリーアナウンサー。元ミヤギテレビアナウンサー。自然豊かで住みやすい仙台・宮城が大好き。休日の楽しみは娘たちとのスポーツ観戦。ジャーナリズムを専攻していた大学時代からの信条は、話し手である前に“聴き手”であること。仙台のスポーツ界に携わる方々の熱いストーリーをじっくりと伺っていきます!