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Interview
BASKETBALL
「スポーツの力で地元仙台に恩返しを」仙台89ERS社長志村雄彦が描く一貫したビジョンの原動力【前編】

©SENDAI 89ERS
現役時代、長年「ミスターナイナーズ」としてチームを引っ張り私たちを魅了し続けてきた志村雄彦さん。現在は経営者としてクラブを牽引、チーム編成にも携わりフロントスタッフだけでなく選手とも自ら積極的にコミュニケーションを取り続けています。
選手時代から一貫して「スポーツの力で仙台を盛り上げたい。地元に恩返しをしたい」と発言。震災、コロナ禍と続く逆境のなか、選手、GM、経営者と立場を変えながらも、そのブレない背中で仙台89ERSを導き続ける力の源はどこにあるのか。経営者として奮闘する日々、コロナ禍での「B2優勝、B1昇格」実現に向けた今季の覚悟について話を聞きました。
経営者としての毎日
―昨年7月に代表取締役社長に就任されました。今のお仕事について教えてください。
「チームとクラブが目標達成するところまで連れて行くのが1番の業務だと考えています。そして、地域の皆さんにクラブを通じて幸せを感じてもらうことですね」
―具体的には?
「僕らも株式会社なので、ステークホルダーがたくさんいらっしゃいます。その方々にも仙台89ERSがあって良かったと思ってもらえるものを作っていくこと。それはチームの勝利だったり、たくさんのお客さんに見に来てもらってハッピーになってもらうことだったりするわけですが、その全てにおいて最終決定をするのが僕の仕事です」
―どんな毎日ですか? 1日のスケジュールを教えてください。
「朝、事務所に来て事務作業をしたら、外に出ていることが多いです。営業案件や打ち合わせですね。自治体との協業も大切ですし、スポンサーさん、株主さんなど全てのお客様に対してクラブとしてどういった方針を示せるか、僕自ら動いてやっていくという毎日です。基本的に日中こうして事務所にいることはあまりないですね」
―経営者なのに、泥臭い営業も自らされているんですね。
「いやもう、全然そっちの方が多いです。どのスポーツクラブの社長さんもそうですけど、チケット1枚売りに行くとかそういうことをみんなやってます。相手がどんな方であっても僕が先頭に立ってやらなければみんなは付いてこないですから」
その甲斐もあってか、今季開幕戦で観客動員数2,000人を突破しB2トップを誇っています。
あの悔しさを知ったからこその今シーズンの覚悟
2021年5月。B2プレーオフセミファイナルで惜しくも茨城ロボッツに敗れ、B1昇格の夢を果たせなかった仙台89ERS。「B2優勝、B1昇格」という言葉に今年はまた違った重みを感じます。
―今季をどのように捉えていますか?
「うちのクラブの問題は、いいところまで行くけれどなかなか勝てない。それを繰り返してきたこと。だから選手に頑張ってくれとかではなくて、どれだけチームに勝つための投資をして勝つための体制を作っていけるかだと思っています。そして、お客さんに対するサービスも含めてしっかりできた時にやっと勝てると思うので、B1のクラブ、チーム、フロントスタッフになれるようにみんなで汗をかいてやっているところです」
ー昨シーズンの悔しさがあるからこそ、なんですね。
「負けたときは本当に悔しかったです。フロントスタッフ全員にB1に上がる瞬間を見せようと思って(茨城に)行ったんですけど、負けてしまった。でもその瞬間、負けた瞬間を全員で見たということが彼らにとってのモチベーションになっています。アウェーで負けたということもあり、(次は)絶対ホームで“黄援”してくれる皆さんの前で闘いたい、僕らが勝たせてあげたいと(フロントスタッフが)言ってくれたんです」
ーあの悔しさがフロントスタッフのモチベーションになっている?
「はい、間違いないですね。選手は入れ替わりがありましたが、フロントスタッフは誰一人として変わっていない。一緒についてきてくれています。あの時、一人のスタッフに(最終戦が)終わった後に呼ばれたんです。やめるって言われるのかなと思ったんですけど(笑)、そうではなくて、すごく悔しかったからなんでもいいからやらせてくれって。絶対B1に上がりたい、そこに自分もいたいからと言ってくれた。それは……嬉しかったですね」
ーコロナ渦でコミュニケーションをとることが難しいなかでも、全員が同じゴールに向かえているんですね。
「そうですね。昔だったら飲んでしゃべってあーでもない、こーでもないと言って仲良くなれました。チームとフロント合わせて40人くらいいるんですけど、開幕前に集まることができた。でも、今はできない。どうしてもチームとフロント、みたいになりがち(壁ができがち)なんですが、去年の悔しさがあったから一つになれていると思います」
成長できる組織を作る
昨シーズンの悔しさを胸にクラブ全体が目標に向かって一つになっている今季の仙台89ERS。その経営者として、内外にビジョンを示し自ら動き続ける志村さんは、11名の組織のトップとしてどのようなチーム作りをされているのでしょうか。
ー組織のトップとして難しいことは?
「意思決定は大小ありますが、どこまで僕以外のメンバーに任せるか、そこが難しくもあり重要なところです」
―特に志村さんの場合は選手、GMなどいろんな立場を経験されているからこそ、自分でできることも多い。人に任せるのは特に難しいのではないですか?
「そうです、そうです。いろんなマネジメントの仕方がありますよね。こうやりなさいと言う方が簡単だし、そういうやり方もあると思いますが、それじゃ人は育っていかない。僕は、フロントスタッフもチームも成長できるような体制を作るのが大事だと考えています。そういう意味では、変な言い方ですが、どこまでこっちが我慢できるか、見守ってあげられるかなんです。もちろん最終的な責任は僕にありますが、お互いにフォローできる体制を作りたいですね。難しいですけど……」
選手時代とは全く異なるチームマネジメント
仙台89ERSだけでなく仙台高時代はウインターカップ連覇、慶応義塾大では4年次にインカレ制覇を果たすなど、学生時代からキャプテンとしてチームを上へ上へと引き上げてきた志村さん。選手時代の経験は経営者の今、どのように活かされているのでしょうか。
ーバスケットの選手としてのキャプテンと、組織のトップである経営者。違いはありますか?
「ゴールに導くためのマネジメントなので、根本的なリーダーシップという意味では共通しています。でも、そのやり方・手法はプレーヤーをやっている時と今では全然違います」
ー全然違うんですか……。
「プレーヤーの時は、バスケットボールのプロフェッショナルなので、自分がプレーすれば答えは自ずとわかりました。ここまでやればいい、それをチームに見せていけばいいというマネジメントができます。でも、クラブ経営となると領域が多岐にわたるので、一人で全部やろうとすると無理なんです。なので、それぞれのプロフェッショナルやフロントスタッフたちに任せて、でも最終的に何を判断材料にして意思決定をするかがスポーツクラブのトップのリーダーシップだと思います」
―任せるのに、最後は自分が決める。難しいですね。
「そうなんです。そして、いかに同じ熱量と気持ちでやってもらうかがポイントで。それぞれのポジションによって見え方も想いも異なるものなので。そうはいっても、みたいな」
ー意見が異なるなかでの意思決定は、どのようにされているんですか?
「みんなからの意見や想いは聞きます。でも、議論していて答えが見つからない時っていっぱいある。そうなると、(最後は僕に)決めてくださいってなるんです」
ーそこでリーダーシップを発揮するわけですね。
「はい。でも、みんなが議論し納得する場を作ることは大切にしています。僕がこうやりたいからやるっていうと独りよがりになってしまう。それだとフロントスタッフのモチベーションはどんどん下がっちゃうので」
ーいろんな意見を聞けば聞くほど最終的な意思決定は難しくなりませんか?
「そうですね。でもやっぱり最後は、お客さんだったり相手側に立つということが一番大切です。僕たちがやりたいことをやり通すのではなく、お客さんが何を求めているか。『それって何のためにやってるんだっけ』ってことをちゃんと説明できなければ、僕はやる意味がないと思っています。もちろん数字も追いかけなければなりませんが……。売りたいものを売るようになっちゃうと売り上げは立つんですけど、でもそれってずっとは続かない。苦しくなるんです。なので、やはり売る相手だったり提供する相手が何を求めてるのかをしっかりと感じることですね。とはいえ、綺麗事なんでうまく行かないこともいっぱいあるんですけど」
「できないことをやらせてもらってるときの方が楽しい」
―今はどんな気持ちで日々を過ごしているんですか?
「僕は経営者としては駆け出しですが、それでも一緒にやってくれているフロントスタッフやみんなには本当に感謝しています。いろんな経営の先輩方に話を聞くこともできますし、一緒にやっているデービット(代表取締役会長デービット・ホルトン氏)や監査役の山内さん(山内成朗氏)にも何かあると相談できるのでとてもありがたいです。現場は僕に任せてもらっているので、現場の声をクラブとしての意思決定にもしっかりと反映させられるようにやっていきたいです」
ーさまざまな立場の思いがわかる志村社長だからこそできる仕事ですね。
「(クラブ経営って)やりたくてもなかなかできないことだと思うんです。でも、やらせてもらってるんだからやりきりたい。難しいですが、やらせてもらって僕自身も成長できる環境なんです。僕が成長していかないと、みんなもクラブ自体も成長していかないと思うので、僕が一番がんばらなきゃと思っています」
ー難しいことの方が燃えるんですか?
「はい、できないことをやらせてもらってる時の方が楽しいですね」
今は選手の価値を上げるチャンス
ーコロナ禍で観客動員の制限などさまざまな制約があるなか、前に進んでいくために何か心掛けていることはありますか?
「僕らがこの1年間人間として学んだのは、我慢することではなくて、どうやってこういう状況下でも活動していくかっていうことだと思うんです。『コロナ禍だからできなかった』ではなく、『コロナ禍でも成長できた』としたら、状況が変わればもっともっと成長できるじゃないですか。ピンチはチャンスというか。例えば、今はファンサービスができないから、実はチャンスなんです。ファンサービスの価値を上げるというチャンス。今まではファンとの距離が近いというのが良さでもあり、それが当たり前になっていたのでどうしても価値は下がります。でも、今は選手と会えるという価値を上げやすくなる」
ー捉え方を変えるということなんですね。
「はい。今はまだ収容人数が制限されていますが、今後は徐々に緩和されていくはずです。なので今はそこに向けて、選手の価値を高めている段階です。皆さんにリアルで早く会いたいですね!」
(後編に続く)
■プロフィール
志村雄彦(しむら・たけひこ)仙台市出身。元プロバスケットボール選手。株式会社仙台89ERS代表取締役社長。現役時代は身長160センチの「小さな巨人」として知られ、高いバスケットIQと闘志溢れるそのプレーで多くのファンを魅了した。仙台高ではウインターカップ連覇。慶応義塾大では4年次にインカレ制覇を果たす。2008年ドラフト指名で仙台89ERSに入団。2017-18シーズンまでの10年間、チームを牽引。東日本大震災後、チームが一時活動休止に追い込まれた時には琉球ゴールデンキングスへレンタル移籍。背番号『89』を背負って闘い続け、「ミスターナイナーズ」と呼ばれた。2017-18シーズンで惜しまれながら現役引退。同年7月から仙台89ERSを運営する株式会社仙台89ERSの取締役GMを務める。2020年同社の7月に代表取締役社長に就任。
Photo by 土田有里子

フリーアナウンサー。元ミヤギテレビアナウンサー。自然豊かで住みやすい仙台・宮城が大好き。休日の楽しみは娘たちとのスポーツ観戦。ジャーナリズムを専攻していた大学時代からの信条は、話し手である前に“聴き手”であること。仙台のスポーツ界に携わる方々の熱いストーリーをじっくりと伺っていきます!