仙台スポーツ
COPY
URL
COMPLETE

Interview

FOOTBALL

若き社長・粟井俊介が挑む、WEリーグのクラブ経営。『女子サッカー選手』という職業を確立させるために【後編】

―クラブの運営というところで見ると、マイナビ仙台レディースは全員がプロ契約選手です。WEリーグの参入条件では「15人以上いれば良い」ということですが、なぜ敢えて全員をプロにするという選択をしたのでしょう?

「これはマイナビ仙台レディースとしてWEリーグを戦うとなった時に、(株式会社)マイナビの中川(信行)社長が決断したことなんです。『参戦する以上は優勝を目指せるチームを作ることが大前提だ』と。そういうコミットメント(約束)みたいなものがあって、そのために必要な要素は何だろうと考えた時に、まず『環境面を先行投資として整えるべし』という話になりました。アマチュア時代、選手たちは午前9時から午後2時頃まで仕事をして、平日は夕方4時から練習を始め6時にはアカデミーの選手たちがやって来て、せわしない感じになってしまっていた。2時間でグラウンドを明け渡し、体のケアをする時間も取れず、次の日も朝から仕事だから早く寝る。そして起きて、仕事をしてというサイクルを続け、土日には遠征、試合をしてという生活だった。それで強くなれるのか?という話になりました」

―それがこれまでは当然だったわけですが、確かに過酷ですよね。

「『二足のわらじでやっていてすごいね』とか、『好きなことと仕事を両立できて格好いいね』という見方もあるのかもしれないですが、プロリーグに参入して優勝を目指そうと言っているのにそういう状況では良くならないという考え方です。だからお金はかかるかもしれないけれど、先行投資として全員プロにすることで練習時間をコントロールでき、今のように午前9時半から練習できるようにすることは、やっぱり(強くなるための)大きな前提になると。そこは、割と早々に決まりましたね。アマチュアの状態を残してしまうと練習時間を合わせづらいじゃないですか。意識もまばらになってしまうし、ワンチームとしてやっていくのにふさわしくないと。早く決まったので、(昨年の)10月27日の記者会見で発表しようということになりました」

株式会社マイナビフットボールクラブ 代表取締役社長 粟井俊介さん

プロとして競技に打ち込むために、女子サッカー選手の練習環境を最大限に整える

 

―「全員がプロ」と発表されたときには、本当に大きな驚きがありました。

「全員プロというのは公表されている中ではうちだけですよね。他のチームにいろいろ聞いてみると、やはり全員がプロという状況は簡単ではない。(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザさんなどは、まだ学生だという選手も多いですが、たまたまうちは、去年の段階で大学生などの学生選手がいなかったんです。だからプロにしやすかったということはあるんです。そういう条件も整っていたなと今振り返れば思います」

―今年のサッカー界の話題で言うと、東京オリンピックに出場したなでしこJAPANにマイナビからは選手を送り込むことはできませんでした。どのように見ていましたか?

「浜田遥と宮澤ひなたが4月の(日本女子代表の)親善試合に出ることで、(オリンピック)候補に残るところまで行ったのですが……。ハカ(浜田の愛称)に関しては、初めてユアスタでA代表の試合に出ることができましたけど、限られた時間の中で決定機に絡むことはできなかった。ひなたは、ほとんど起用されなかったという状況で、オリンピックに出られなかったのは残念で悔しかったです、本当に。できれば出て欲しかった。彼女たちが出ていたらどうなっていたかなと思うこともありました。これを糧に、発奮材料にして次のワールドカップに向けては、一人でも多くの選手をうちから出したいと強く思いましたね。なでしこジャパンはグループステージで、宮城スタジアムで試合をするということは決まっていましたからね(7月27日チリ代表戦)。ここに地元チームの選手を出したかった。僕もオリンピックに行かせてもらったんですが、行っているのにうちの選手がいないのは悔しかったです」

株式会社マイナビフットボールクラブ 代表取締役社長 粟井俊介さん

チームを強くし、一人でも多くの選手を代表にという強い願いがある(提供:マイナビ仙台レディース)

 

―いよいよWEリーグが開幕しますが、粟井社長にとっての新しい挑戦とは?

「今緊急事態宣言が出ていて、気が沈むようなことが続いている中で、こういう機会を頂いて挑戦させてもらっているということは、通常時以上に意義のあることなのではないのかなと。自覚せねばならない役割があるのかなと思っています。ステイホームが呼びかけられている中でも、人が元気になるような要素を日常生活の中で一つでも多く提供しようと思った時に、スポーツは大きな役割を果たさなければいけないと思っています」

―どのような役割があると考えていますか?

「見てくれる人を熱狂させ、魅了するということだけではなく、『自分もできるかも』と思わせられるような、『明日を前向きに生きたらいいことあるかも』と思わせるようなものを提供したい。女の子たちが『マイナビ仙台レディースの女子サッカー選手たち、かっこいい!』『お母さん、サッカーやりたい。サッカーボールを買って!!』というようなことにつながると嬉しい。コロナ禍で、宮城県は子供の運動不足も深刻だという話もありますし、そこに対してできる役割があると思います。体を動かすことにつながって(サッカー人口が)拡大するかもしれません」

株式会社マイナビフットボールクラブ 代表取締役社長 粟井俊介さん

マイナビ仙台レディースは、きっと地域に愛される存在に

 

―子供たちも含め、いろいろな方に見て感じてもらうことで、地域に還元していけることもありそうですね。

「女子サッカーを定着させたい、メジャースポーツにしたい、マイナビ仙台レディースをひときわ輝く存在にしたい。そういうことに加えて、それ以上にこのところ気が沈むようなことが続く中で、スポーツに期待されることが大きいと思って取り組むべきだろうなと思っています。ただ、実際のところはそこまで俯瞰して物事を見ている余裕はなくて、いかに一人でも多くの方にチームのことを知って頂くか、一人でも多くの方にチラシを受け取って頂くか。配ろうと思っていた機会が、こういう状況で少なくなってしまいどうしよう……とかね(笑)」

―そうやって、ひとつひとつ取り組んでいく中で、地域の人々に愛される存在になっていけると良いですね。

「そうですね。幸いにも、仙台はこれだけ多くのプロスポーツがあって、チームを運営している球団があって、人々とスポーツの距離の近さがあると思うんです。それは外から来た人間として感じているところなので、その土壌をいい形で全国へ発信できるようにしたいですね。僕は全く仙台とも、サッカーとも縁のなかった人間ですが、外から入ってきて一生懸命フォーカスして見ていると、やっぱりやりがいや、やるべきことがいくつもあるなぁと思っています。それを一つ一ついい形に仕上げていきたいと思います。それが僕にとっての新しい挑戦ですね」(完)

 

マイナビ仙台レディース 公式Webサイト

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。