
長野風花は、大きくはばたく時を待つ。 いつか、もう一度世界の舞台へ。日本を代表する選手になるために【前編】
Interview
FOOTBALL
今年1月に発表された「宮澤ひなた選手 完全移籍加入のお知らせ」は、WEリーグ開幕へ向かう日本の女子サッカー界に驚きをもたらしました。高いサッカーIQを誇り、持ち前のスピードで守備網を突破するドリブラーの宮澤選手。多くの代表選手が所属する常勝軍団の日テレ・東京ヴェルディベレーザから、新しく生まれたマイナビ仙台レディースへの完全移籍でした。主力選手の移籍が盛んに行われず、長く大きな勢力図の変化がなかったなでしこリーグから、個性と強い競争力を持つチームが生まれるWEリーグへ。マイナビとWEリーグの新たな時代を切り開くキーパーソン、宮澤選手にお話を伺いました。(全2回)
―開幕が近づいてきた今の心境はいかがですか?
「やっとここまで来たという思いがありますね。2月に始動してここまでの時間が長かったので、早く試合をやりたい気持ちでワクワクしています」
―チームの立ち上げからこの半年間はどんなことを考えながら過ごしてきましたか?
「あっという間だったなという気持ちもありますね。個人的には仙台で一人暮らしが始まりました。仙台に来たのも初めてでしたし、監督も仲間も変わった中での6ヶ月でした。吸収するものも多かったし、練習が毎日楽しい。環境もいいですし、充実した毎日でした」
チームには同世代の選手も多い。充実した新生活を笑顔で送っている
―いよいよWEリーグが開幕します。プロ選手となって、プロリーグでプレーすることについてはどのように捉えていますか?
「どのチームも意識が変わってくると思います。自分自身も、まだ学生という身分ではあるのですが(法政大学在籍中)、プロのWEリーグに挑戦するということで生活もがらりと変わりました。サッカーをする環境も変わったことで、周りからの視線も違うと思います」
―周りからの見られ方はどんな風に変わると感じていますか?
「私自身、選手が周りに影響を与えられる存在だなというのは、東京オリンピックを見ていても感じました。私もそこに(日本代表として)達したかったという思いがあります。でも、テレビなどを通したとしても『こんなに伝わるものがあるのだな』と競技者としても感じたことはありました。プロとなって自分と向き合う時間は増えました。だからこそ、影響力がある人になりたい。サッカーを通じて、というのが今の自分にできることだと思います。プロとして、そういう意識はさらに強くなったと思います」
―影響力を持つことや誰かの憧れの存在になるというのはWEリーグが目指しているところでもありますね。
「そうですね。女子サッカーの競技人口はまだまだ少ないです。男子サッカーの方が認知度は高い。WEリーグはDAZN中継が始まり、見て頂ける機会もこれまで以上に増える。コロナ禍という難しい状況でもサッカーができているということに感謝しています。会場にきていただければそこで感じてもらえることもあるし、画面越しでも伝えられることもあれば嬉しいです。そういうことが、自分たちが『サッカーをやっていて良かった』という瞬間につながると思います」
ひとつのパスで局面を変える。宮澤選手の視野は広く、判断も速い
―新しいチームで新しい仲間と取り組む、松田岳夫監督のサッカーはいかがですか?
「当初よりも、みんなの松田さんのサッカーに対する理解度は高まっています。今まで、それぞれいろいろなサッカーをしてきたと思うんです。半年という期間で松田さんのサッカーを体現するというのはそう簡単なことではない。でも徐々に練習を積み重ねてきて、キャンプで選手同士がたくさん話し合える時間がありました。松田さんご自身も選手一人一人と向き合って話してくれるので『チームとしてこうしたい』ということは、すごくまとまってきているように思います」
―チームの攻撃の核となる宮澤選手。全体を引っ張っていくという気持ちはありますか?
「特にそういう意識はないです。自分がチームにどう貢献できるかということが一番大事だと思います。それがチームにとっていい影響であれば嬉しいなというくらいで……。『自分が引っ張る』という気持ちはないわけではないですが、サッカーはチームプレーなので、助け合ってみんなで頑張れたら強くなる。それがいいチームだと思います。ただ、ゲームの中で、プレーが停滞した時間や攻撃にスイッチが入りづらい時に、自分のワンプレーでチームを変えられたら。そういうことは年間を通してたくさんできたらなと思います」
―松田監督から宮澤選手個人に求められていることはどんなことですか?
「昨年までベレーザではサイドの選手でしたが、『サイドに張っていても持ち味が出ないから。(良さが)消えるから』と最初に言われました。『今までサイドやっていたんだけどな』っていうことは思いましたけどね(笑)でも考えてみると確かに私はドリブルで仕掛けて、打開していきたいタイプ。中央のちょっとしたスペースでターンして、スルーパスを出すのが楽しいですね。ただ周りに生かされる選手ではなくて、逆に人を生かしたいタイプ。『どんどん相手と相手の間を割っていけ』とも言われるので、そういうところはどんな相手と対戦していても、自分に求められているものだなって思います。自信を持ってやっていきたいですね」
6ヶ月かけて松田監督の色に染まるチーム。宮澤選手はその中心にいる
―プレシーズンマッチが終わってからも、数多くの練習試合を行ってきました。そこで高まったことは?
「チームとして、今まで『逃げ』で蹴っていたボールを、近くでつないで、ボールを動かし相手を動かすというシーンが増えたということはゲームを通して感じています。どうしても速いサッカーになりがちで、それがだめという訳ではないですが、90分を通してそれができるのかと言われたら、今までのサッカーではできなかったんじゃないかと。そういうことは、ボールを繋げるようになってから感じることです」
(提供:KYODO NEWS)
―細部ですがとても大事なところですし、これまでとの大きな変化ですね。
「はい。でもまだ良い時と悪い時の差が激しいところがあるので、相手のリズムに飲まれてしまう時間帯があります。ボールを動かせば自分たちのリズムになるところをちょっとリズムが遅くなって、相手の守備にはまってしまって……。自分たちが主導権を持ってゲームを支配するというところは、より意識していかなければいけないのかなと思います」(続く)
Photo by 土田有里子
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。