
外国籍選手と通訳はワンチーム。異国で戦う選手を支えるJリーグ通訳・武腰飛鳥【後編】
Interview
FOOTBALL
(提供:ベガルタ仙台)
Jリーグに選手として登録された「フォギーニョ」という名前は、実は子供の頃からの愛称です。本名はギレルメ・ゼ―フェルト・クロロフ。ブラジル出身のギレルメ少年は、生まれ持った美しい金髪で「フォギーニョ」(「小さな炎」の意。ポルトガル語で火を表す「fogo」が由来)と呼ばれました。故郷から遠く離れた仙台の街で、フォギーニョ選手は多くのサポーターに親しまれています。仲間に信頼されるそのプレーと、彼の代名詞でもある「ひげ」について伺いました。
―フォギーニョ選手はボランチとして試合に出場していますが、プレー強度の高さに加えて、本当に丁寧にボールを扱う印象があります。そうしたプレーは意識していますか?
「もちろん、それは意識しているところですね。自分がプレーしているボランチというポジションでは動きや考えることについても『スピード』が求められます。基本的に、真ん中にいる選手というのは、360度どこからでもプレッシャーがかかってくるところですので、だからこそ、一つ一つの動きに強度を出して丁寧にプレーをしています。練習の時からそういうところは意識して出します。練習が終わった後にも居残り練習で足りなかったところを練習しています」
―フォギーニョ選手ならではの強さや丁寧さ。そうしたプレーのルーツはどこにありますか?
「ブラジル時代からそういうタイプのプレーをしてきたのですが、日本に来て、更に早く考え、速く動かなければいけないと感じました。プレースピードは、ブラジルと比べると日本の方が速いので、ボールが来る前に、次の判断は頭の中になければいけません。元々あった自分のプレースタイルに、日本に来てから更に磨きをかけようと取り組んでいるところです」
Jリーグの舞台で感じたプレースピード。更に判断や動きの速度に磨きをかける
―ここまでで印象的だった試合はどの試合ですか?
「(第15節)ホームの大分トリニータ戦。(2ー1で勝利)自分が低い位置でボールを奪って、パスを預けて走っていきました。速いカウンターアタックで、そのプレーがゴールにつながった試合でした。もう一試合は(第16節)名古屋グランパスとのアウェーでの試合です。(1-0で勝利)この試合も自分の心に刻み込まれています」
―連勝できたこの2試合で、フォギーニョ選手はサポーターの心をがっちりとつかみましたよね。
「サポーターの皆さんが、自分のことを信頼してくれて、好きになってくれたことはとても嬉しいですね。フォギーニョという選手はまだまだこれから伸びていくと思います。もっともっとベガルタのことを助けたい。チームメートたちと、強く練習を続けていきます。そして最終的に、サポーターの皆さんに幸せを届けることができたら本当に嬉しいです」
サポーターの声援が響かない今年のスタジアム。それでも、応援の気持ちは心に届いている(提供:ベガルタ仙台)
―さてサポーターの間では、その素敵な「ひげ」も話題になっています。「フォギーニョと言えばひげ」というほどのトレードマークですが、いつから伸ばしていますか?
「4年前からですね。その前はひげを伸ばしていなくて、毎日シェーバーで剃っていました。生やし始めたきっかけは、4年ほど前に、ブラジルでひげを生やすスタイルが流行り出したんです。やってみたら自分でも結構気に入って、その頃に妻とも知り合ったんです(笑)彼女が僕のひげを本当に気に入ってくれたので、『二度と切るものか』と心に決めました(笑)」
―それは……強い決意ですね。日々のお手入れはどうしているんですか?
「このひげには毎日のケアが必要です。髪の毛のように、洗って、クリームをつけて保湿し、乾かして……。髪の毛と同じように、愛を込めて育てています(笑)だって、しっかりと、いつもきれいにしていないといけないでしょ?」
フォギーニョ選手自慢のひげは、横顔も印象的
―仰る通りですね! しかし日本の夏は蒸し暑く、今年は特にコロナ禍でマスクも欠かせませんでした。それでも短く切ろうとか、剃ろうとは思わなかったんですね?
「はい。一度も『切ろう、剃ろう』という考えが頭をよぎることはありませんでしたね。実は僕の肌は敏感で、日差しにあまり強くないんです。このひげがあることで、夏の日差しから肌も守られているんです」
―フォギーニョ選手のひげにはそういう役割もあるんですね。
「そう、あるんです!」
―サッカーから離れると、どんなことをしている時に幸せを感じますか?
「やっぱり友達とご飯を食べに行く時、美味しいものを食べる時が幸せですね。妻が日本に来られれば、一緒にご飯に行ける。そうなれば本当に最高ですね」
―日本の食べ物で気に入ったもの、奥様に食べさせてあげたいものは何ですか?
「お寿司です。日本のお寿司は、ブラジルのものとは違う。ぜひとも『食べるべきもの』だと思います!」
仲間に駆け寄りゴールを喜び合う。すべての苦労が報われる瞬間(提供:ベガルタ仙台)
―様々なお話を伺いましたが、最後にこれからに向けて。降格圏を抜け出すために、まだまだ勝ち点を積み重ねていかなければいけないベガルタ。これからの戦いでフォギーニョ選手はどのように貢献していきたいですか?
「この先は、一試合一試合が『決定的なもの』になっていくと思います。毎試合、しっかり準備をしてかなければいけません。本当に『戦いに行く』というメンタリティで毎試合ピッチに出て行かなければいけない。コレクティブなサッカーをするといった面で、全員が共通理解を持ってピッチに入ること。試合から試合へ集中していくことによって、今の順位から、降格ラインから抜け出せるとそう固く信じています。最終的な目標はJ1に残留することです」
ピッチ上では、常に引き締まった真剣な表情を見せるフォギーニョ選手。インタビューでは、愛する奥様のことや自慢のひげについて語る時に、にこやかな笑顔を見せてくれました。彼がピッチの中央で燃やす炎は、仲間やチームを支える人々を巻き込み、勝利への熱気を生み出すことでしょう。フォギーニョ選手の心の火は、熱く杜の都を照らしていきます。(完)
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。