
「仙台は寒いけど、人は温かい」仙台育英・入江大樹がプロ野球選手になるまで
Interview
BASEBALL
2005年のプロ野球参入以降、東北に野球文化とスポーツ観戦文化を根付かせ、今や地元の誇りとも言える存在になっている東北楽天ゴールデンイーグルス(以下、イーグルス)。
あまり知られていないかもしれないが、イーグルスのオーナー企業である楽天は2019年に台湾プロ野球(CPBL)に所属する球団を買収し、2020年シーズンから楽天モンキーズ(以下、モンキーズ)としてリーグ戦を戦っている。
そしてモンキーズには、これまでイーグルスの躍進を事業面で支えてきた2人の日本人スタッフが参画し、異国の地でチャレンジしている。
スポーツとしての野球人気は高いものの、まだまだ現地ではスポーツ観戦文化やスポーツビジネスが浸透していないという状況。
東北での成功体験とノウハウを元に、海を越えて新しいミッションに挑んでいるモンキーズCEO川田喜則(かわだよしのり)氏にイーグルス時代の話、そして台湾での球団運営について聞いた。
栃木県出身。2006年に楽天グループ入社。
2008年より東北楽天ゴールデンイーグルスで主に球場長として数々のスタジアム改修に従事。楽天によるLAMIGOモンキーズ買収プロジェクトに参画、球団誕生の2020年1月よりモンキーズ総経理(ゼネラルマネジャー)、現在はCEOとして活躍している。
ー2008年にイーグルスに管理部門の役割で関わることになったのが私とスポーツビジネスの直接的な最初の接点になります。
それ以前には球団運営としてスポーツビジネスや野球と特別深い関わりがあったわけではありませんが、イーグルスに赴任後、球団運営に関わる期間も随分と長くなり、現在では縁を感じとても楽しんでいます。
2012年からは球場長(のちにボールパーク本部長を兼務)となり、宮城球場の数々の改修プロジェクトを実施していくこととなります。
私がイーグルスにいたのは2019年末までですので、球場長として8年間過ごしたわけですが、この間にフィールドが天然芝になったり、観覧車などスマイルグリコパークが出来たり、バラエティ豊かな座席が出来たり、スタジアムも大きく変わりました。
一番大変だったのは2013年の仮設スタンド作りでしょうか。
この年イーグルスは初の日本一を取ることができましたが、シーズン中にリーグ首位を走っていた7月頃、いよいよクライマックスシリーズ、そして日本シリーズが見えてきます。
また、イーグルスの快進撃により、レギュラーシーズンでもスタジアム満員の状況が多くありました。
日本シリーズに進出した場合を想定し、収容人数を拡大するために、イーグルスとしても日本一を決める場を多くのファンと分かち合いたいという想いから、スタジアムの改修を行うことになりました。
約2万3千席(当時)から仮設スタンドを含め短期間の改修で5千席ほど増やすプロジェクトがスタートします。
とはいえシーズンの真っ只中です。
もちろんスタジアム使用中に工事をするわけにいきませんから、試合が無い日や試合後の深夜などに工事を行い、試合日にファンをお迎えする際にはしっかりと安全対策を行って工事をストップする、というサイクルを繰り返します。
しかも8月に工事をスタートして、日本シリーズが開催される10月下旬までには完成させる必要がある、超特急のプロジェクトです。
工事を実施してくれる施工会社を探すのに本当に苦労しました。
日本全国の会社ほぼ全てに相談したといってもいいくらい、多くの会社に相談しては断られということを繰り返していました。
実質2ヶ月程で仮設スタンドを完成させなくてはいけませんが、とある会社からは工期が1年必要だと言われたこともあります。
そんな時に1社引き受けていただけると回答がありお願いしました。
1日3交代制でお盆もほぼ返上して工事を進めていただき、本当に感謝しています。
新しいスタンドができ、ファンの皆様の声援も大きくなったことで、本当に素晴らしい雰囲気の中で日本シリーズを戦うことができました。
ファンの方からもポジティブな声を多くいただきました。
そして見事日本一に輝けたことは本当にうれしいことで、私のイーグルス時代のハイライトの一つになっています。
その後も球団社長のアイデアや戦略をベースに、毎年工夫を重ねてファンに楽しんでもらえるスタジアム作りを行ってきました。
毎年のオフシーズンに改修工事を行い、いざシーズンが開幕する時に出来上がった新しいスタジアムを見ると、選手がプレーしやすいか、ファンに受け入れられるかといつもどきどきしています。
そして無事シーズンが進んでいくと、安堵するとともに、新しいスタジアムで選手もファンも輝いている姿を見て感動していました。
もちろん良いスタジアムを作るために、常に学ぶ姿勢を持ち続けていました。
どんなスタジアムならより満足度を高められるかを知るために、仕事及びプライベートを含め、アメリカを始め海外のスタジアムやアリーナに足を運んで視察をすることで学んできました。
毎年欠かさずに行くことを目標としていた中、たくさんのスタジアムを見てきましたが、ペトコ・パーク(サンディエゴ・パドレス)やカムデン・ヤーズ(ボルチモア・オリオールズ)などは非常に印象に残っています。
ペトコ・パーク(サンディエゴ・パドレス) KYODO NEWS
カムデン・ヤーズ(ボルチモア・オリオールズ) KYODO NEWS
メジャーリーグのスタジアムはどこも特徴があって面白いのですが、この二つのスタジアムは特に印象的な雰囲気に包まれていました。
今は日本でも各球団がスタジアム作りに力を入れていますので、プロ野球でもファンを飽きさせない特徴的なスタジアムが見られるようになっていくと思います。
KYODO NEWS
ー現在台湾プロ野球に所属するモンキーズのCEOをしていますが、楽天で球団買収の話が立ち上がった当初からプロジェクトに関わってきました。
台湾でプロ野球の球団を買収した大きな目的は、台湾における楽天経済圏を成長させることにあります。
日本では多くの皆様にご利用いただいている楽天の各サービスですが、台湾では成長段階で、ECショッピングモールを見ても台湾のローカルのショッピングモールが数多くあります。
楽天ではイーグルスの球界参入を通じ、グループ全体のビジネスを成長させるにあたり、スポーツがもたらす好影響を高く感じています。
イーグルスの球団運営でノウハウの蓄積を台湾で展開し、台湾でもそのノウハウを活かしてまずは球団運営を成功させようとチャレンジを始めたところです。
私自身としては、もともと経理など数字を扱う管理部門で仕事をしていたので、イーグルスの運営においても、ファンを満足させ、チームを強くしながら、いかにビジネスとして球団を成長させることが経営にとって重要であるか、球団社長のもと、肌で実感し、仕事をしてきました。
ファンに満足してもらう、強いチームを作る、球団の経営を成功させる、この3つはそれぞれが影響を与え、一つのサイクルになっています。
どれか一つが欠けてはうまくいきません。
ですから、台湾ではしっかりとした球団運営の素地を作るところからスタートしています。
台湾では各球団の経営の独立に向けて、まだまだオーナー企業が経営をサポートしているように感じます。
モンキーズでは健全経営を目指し、台湾において、プロスポーツはビジネスとして成長し、チーム強化と事業の両立はできることを実現していこうと考えています。
台湾でのチャレンジ1年目が新型コロナウイルスの影響で難しいシーズンとなりましたが、モンキーズが成功することで、台湾のプロ野球界全体の歴史が変わっていくのではないかと考えています。
現在は台湾に来て2年目を送っていますが、これまでで一番嬉しかったことは、台湾の方々はじめ、台湾に在住する日本人の方に本当に親切にしていただいたことです。
特に野球コミュニティだけでなく、企業関係や台湾在住日本人のコミュニティでもモンキーズを広げていく機会を多くいただきました。
日本から台湾球界に参入したとはいえ、コロナの影響もあり、楽天モンキーズの試合観戦をした方は当初は少なかったです。
そのようななか、いろいろな企業の方にモンキーズを紹介する機会をいただいたり、いろいろなコミュニティーに参加させていただたりと、本当に懇意にしていただきました。
私は73年生まれなのですが、台湾には73年会というものがあり、約50人近くの起業者だったり経営者だったり、日系企業に勤める方のコミュニティーがあります。
この方たちが昨年は球場のレストランエリアでBBQをやったりと、野球を楽しむ機会を広げてくれました。
その他、住んでいるエリアだったり、異業種交流会だったりと、徐々に地元に馴染むことができ、今ではモンキーズを代表して講演を行う機会も増えました。
2021年内に今後3つの団体でモンキーズの取り組みを講演させていただく予定があり、関心を寄せられていることを感じています。
台湾球界に参入し、最初に地元に馴染んでいくことは大切ですので、スタートに当たってこのように機会を作っていただいたみなさまに本当に感謝するとともに、ファンを増やして新たな歴史を作れるよう期待に応えていきたいと思っています。
ー台湾のプロ野球についてあまりご存知ない方も多いと思いますので、ご紹介します。
台湾で一番人気があるスポーツは野球です。
その他にバスケットボールやサッカーも人気がありますが、幅広い年代に最も馴染みがあるのは、やはり野球になっています。
それでもプロ野球の1試合平均観客動員数は多い球団で7千人程度、少ない球団で4千人程度と、1試合に2〜3万人動員する日本のプロ野球に比べればとても少ない数字です。
モンキーズは過去観客動員数がナンバー1の時期の多い球団ではありますが、優勝がかかった注目の試合などを除き、ホームスタジアムが満席になることは少ないです。
ただし、台湾プロ野球ではまだまだ新しいファンの開拓や球団が営む各事業を改善していけば、それだけ伸び代があると捉えています。
モンキーズとしても、もっと地元の人、台湾のみなさまに試合を見てほしいと思っていますので、様々な施策でファンの母数を増やしていきたいと思っています。
現在はスタジアムに若い人が多く来場している特徴がありますが、子どもからお年寄りまで幅広い年代の人に足を運んでもらって楽しんでもらえるのが理想だと思っています。
モンキーズの事業を行う球団のメンバーは企画力がとても高く感じます。メンバーの良さを引き出すマネジメントを心がけ、イーグルスでの経験も活かしながら、球団を成長させていきたいです。
台湾プロ野球の球団数は昨シーズンまでが4球団、新シーズンは1球団増えて合計5球団となりました。
今後さらに増える可能性もあります。
各球団の実力は拮抗していて、どこが優勝してもおかしくない状況です。
どの球団も優勝を目指していますが、当然モンキーズも常勝球団になることを目指していますので、気が抜けない戦いが続きます。
やはり強いチームを作ることはプロスポーツビジネスの基本になります。
楽天モンキーズとしての初シーズンにあたる昨年は年間2位という結果でしたので、イーグルスとのチーム強化に関する連携も加速させ、今年は必ず年間優勝を飾りたいと思っています。
また、台湾プロ野球のスタジアムで特徴的な光景はチアリーダーによる応援です。
これはモンキーズの前身となるチームが2013年にチアリーダーの応援を導入し、とても人気となり、他の球団が真似する形で広がっていきました。
日本のチアリーダーはグラウンドレベルで応援することが多いですが、台湾ではホームチームのファンが集まる内野スタンドの上で、本当にファンの目の前で一緒に応援します。
KYODO NEWS
さらに、モンキーズのチアリーダーである楽天ガールズは試合の応援だけでなく、タレントとしても活動しています。
昨年はCDやフォトブックを出したり、ライブ配信も行うなど、新型コロナウイルスの影響でファンが試合に足を運ぶことが難しい状況の中、スタジアムの外でのファンとの接点を増やしています。
また、日台の交流も自然と増えていけば良いなと思っています。
せっかく日本と台湾で兄弟のようなチームがあるのですから、選手やコーチ、チームスタッフなどのチーム面、チケッティングやCRM、またチアリーダー交流などの事業面で相互に行き来が生まれれば、お互いに刺激しあい、日台の両方で野球文化が進化していくと思います。
そのために、まずはモンキーズを進化させ、新しいプロスポーツの文化を実現させることを考えて日々メンバーと頑張っています。
記載の無い写真はご本人提供
東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。