仙台スポーツ
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Interview

BASEBALL

元楽天選手を迎えての新たなる挑戦。仙台ポニーが野球の未来をつくり出す(後編)

中学生の硬式野球チームとして、2020年4月に発足した仙台ポニーベースボールクラブ(以下、仙台ポニー)。元東北楽天ゴールデンイーグルスの枡田慎太郎さんが総監督、長谷部康平さんを統括マネージャーに迎え、充実した指導体制の下、選手の育成に力を注いでいます。仙台ポニー設立の経緯、そして今後の展望について、枡田さん、長谷部さん、代表を務める仲山一也さんの3人にお話を聞きました。

 

―楽天イーグルスのOBとして、仙台、宮城の野球についてどのように感じていますか?

枡田◎ 野球に限らず、仙台はプロスポーツのチームがたくさんあって、非常にスポーツがさかんな街という印象があります。ただ、イーグルスは置いといて、アマチュアの野球に関してだけ言いますと、高校野球の試合などを見ていていつも感じるのですが、もっと活気があっても良いんじゃないかなと思っています。僕は関西で野球をやってきた人間なので余計にそう感じるのかもしれませんが、東北人、仙台人の気質なのか、ガツガツしている感じは自分が学生のときと比べれば低いのかなと見受けられます。

長谷部◎ たしかにそうですね。あと、これは全国的にも言えることですが、僕が子どものときと比べると、技術的な面では今のほうがレベル高いですね。僕らの頃は、監督から「こうやってバットを振るんだ」「こうやってボールを投げるんだ」と言われるだけで、それが指導の全てでしたが、今の時代は、本や動画、インターネットなど、いろいろな場所から野球を学べるので、知識に関しては当時の自分たちよりも豊富に持っているのかなと思います。ただその分、体力的な部分や、忍耐力、持続力といった根性の部分は、昔に比べれば足りないのかな、とも感じています。

仙台ポニーリーグ

―仙台ポニーでは、若い指導者を多用されています。これについては狙いがあるのでしょうか?

仲山◎ うちのスタッフ陣の平均年齢は30代前半で、総監督も含めて全員年齢が若いです。なぜかと言うと、僕は野球人口が低迷した理由が二つあると思っていて、一つは費用が掛かること、そしてもう一つは指導者の高齢化だと思っています。もちろん全員の指導者がそうではありませんが、たとえば昔から野球を教えてきた人の中には、その教えで結果をずっと残してきただけに、自分のやり方を曲げられない人もいるんですよね。そうなってしまうと、子どもたちに悪影響が出てしまう。なので、仙台ポニーでは「指導者の育成」についてもテーマに掲げています。

枡田◎ 僕は総監督というポジションなので、基本的に現場の指導は監督やコーチが中心となってやってもらうことが多いです。ただ、1期生の監督は昨年まで大学生でしたし、そうした若い指導者たちとのコミュニケーションも必要になってきます。自分が思っていることをまずは監督に伝えて、そこからコーチ、選手といった順番でちょっとずつみんなが理解していく。最初は苦労もありましたが、だんだんと連係がうまく取れるようになり、今ではお互いの意見、やりたいことを言い合える環境になってきています。

仲山◎ ちなみに2期生の監督は、まだ大学4年生です。若いので吸収力があるのはもちろんですし、最近までプレーヤーでしたので、子どもたちと一緒になって練習ができるし、年齢が近いので相談にも乗ることができる。良い部分はたくさんあります。でも、若いがゆえにミスを犯すことだってあるかもしれない。そういったときこそ、われわれフロントがカバーしながら、うまく進めていけたらと思っています。

―若い指導者を育てることで、現代の流れに合った野球を教えられるのも仙台ポニーの特長でもありますね。

仲山◎ そうですね。それにポニーリーグでは「肘肩検診」といった、いわゆる野球界でいう健康診断を年に1回必ず受けなければいけないと決まりがあります。また、1試合の球数制限も、中学1年生は60球で変化球も禁止、中学2年生は変化球ありの75球、中学3年生は変化球ありの85球と、明確に設けられています。これは、選手の将来を守りながら、息の長い選手を育成するといったポニーリーグ全体の理念によるものです。仙台ポニーでも「今が完成形じゃない」という意識は指導者全体で持つようにしていて、スポーツジムのトレーナーさんや、栄養士さんにも協力をいただきながら、野球以外の部分での指導にも気を付けています。

長谷部◎ 特に運動の制限や、栄養のバランスって、中学生の子どもたちにとっては大事なんですよ。なので、僕と慎太郎も、自分の考えや経験を伝えるだけではなく、プロフェッショナルの専門家から改めて意見を聞いたうえで「自分たちはこうしてきたけれど、それがプラスだったのか、マイナスだったのか」といったことも判断しながら、明確な基準に基づいたアドバイスを送るようにしています。

仙台ポニーリーグ

―ちなみに、仙台ポニーで今抱えている課題があるとすれば、どういった部分になりますか?

仲山◎ まだ東北ではチーム数が少ないので、交流が少ないという点に関しては、他の団体(リトルシニア、ボーイズリーグ、ヤングリーグ)と比べるとデメリットかもしれません。ただ、その3団体もそうですが、一番の課題と言えば、宮城県内に硬式野球ができる球場が少ないことですかね。なので、ゆくゆくは仙台ポニーとしての専用球場が持てればいいなと思っています。連盟本部も、冗談なのか本気なのか分かりませんが「それなら命名権はうちで買っちゃうか」なんてことを言ってくれますし(笑)。そういった点では、子どもたちにとっても、夢や未来があるリーグなのかなと思っています。

―最後に枡田さんと長谷部さんにお聞きしたいのですが、楽天イーグルスのOBとして、自分の経験をどのように還元していきたいですか?また、これからの目標などはありますか?

枡田◎ 僕としては、自分が培ってきたことや経験はむしろどうでもいいと思っていて、仙台ポニーにしろ、高校野球にしろ「仙台、宮城、東北の野球人口を増やしたい」といった思いで指導に当たっています。僕も娘がいて、学校の話をよく聞きますが、野球をやっている子どもはやはり減ってきていると耳にします。「自分が培ってきたことをどう伝えていくか」といったことは後回しでよくて、それよりも野球人口が減らないためにどう活動していくかが重要です。今教えている子どもたちの中には、大人になって野球を辞めてしまう人もいるかもしれませんが、まずは野球を通じて立派な社会人を育てていけるよう、これからも頑張ります。

長谷部◎ 僕も、野球で仙台や宮城を盛り上げたいといった大きな目標ではなく、まずは野球の素晴らしさを子どもたちに伝えていくことが大切だと思っています。僕自身、野球をずっとやってきたおかげで今の自分がありますし、本当に野球をやってきて良かったなと実感しています。今こうして野球を頑張っている子どもたちが、やがて大人になったときに「あのときの経験が今の自分につながっているんだなあ」と思ってもらえる、そんな人間を一人でも多く増やしていきたいですね。

(了)

取材日=2021年6月8日

Photo by 土田有里子

郷内 和軌
郷内 和軌

1992年10月14日生まれ、岩手県一関市出身。一関第一高校卒業後、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科に進学。アルバイト等で執筆経験を積み、2015年4月より岩手県盛岡市の制作会社「(株)ライト・ア・ライト」に入社。地域限定スポーツ誌「Standard」の制作等に携わり、2019年4月よりフリーランスとして活動中。