
憧れの舞台で掴み取った大きな自信。若きGK小畑裕馬選手が、仙台を熱く盛り上げる【前編】
Interview
FOOTBALL
(提供:ベガルタ仙台)
オーストラリアで過ごした学生時代、そして選手として様々な困難にぶつかったラトビアでの経験を糧に、武腰飛鳥さんはJリーグ通訳として活躍しています。試合後のインタビューや様々な取材を通して、選手の言葉を丁寧に訳す姿が印象的です。コロナ禍の特別なシーズン、通訳という仕事に感じる喜びや武腰さんならではこだわりに迫りました。
―武腰さんは、新型コロナウイルスの影響を受ける前の2019年のベガルタも知っています。
2020年からのコロナ禍でどのような変化を感じていますか?
「やっぱりコロナの状況はストレスになっていて、選手もリフレッシュしたいという気持ちはすごくあると思う。でも、自由に出かけてリフレッシュするということはなかなかできない。そういった点でのケアは2020年から変わりました。メンタルケアについては今まで以上に心がけるようになりました。リフレッシュできるところがないと言われる前に、『ここに行ったらいいよ』『ここで美味しいご飯が食べられるよ』と、事前にリサーチして伝えたりします。選手が自分たちだけで調べて行くということはなかなか難しいと思います。僕も海外にいたので、一人で行く、わからないところに行ってみるのが不安だということは経験しています。事前に情報が分かれば気楽に行ける。僕らがサポートして、少しでもリフレッシュしてくれればいいかなと思います」
―今季海外から加入した選手たちは、来日後にJリーグの管理する「Jリーグバブル」での隔離期間を経てチームに合流しました。その時期の選手のケアはどのようにしていましたか?
「Zoomでミーティングをして、どんな環境の中でどういった練習をしているのか、情報を伝えました。食生活の問題はないかとか、合流するまでも小まめにメッセージのやり取りをしました。『家にこういうものがあれば生活が楽かな』『じゃあ買っておくよ』とか、そんな話をしていました。そう考えると、やっぱりマネージャーですね(笑)」
―話を聞いてくれて、きめ細やかにケアをしてくれれば、選手たちも安心してチームに入って行けますね。
「そうですね。安心感があれば、彼らもいいプレーができると思います。僕たちが準備をしっかりすることによって、通訳と選手の信頼関係も築くことができる。選手には気持ちよくサッカーしてもらえるんじゃないかと思います」
練習中、武腰さんは主にGKチームのトレーニングを担当する
―そうして仙台にやってきて、懸命にトレーニングする選手たちが試合で活躍する姿を見ているときはどんな気持ちですか?
「(今季加入の外国籍選手の中では)オッティが最初にデビューしました。(第10節)横浜FC戦(2-2の引き分け)でしたが、彼の力がなければあの勝ち点1はなかったです。(第18節)鹿島の試合も、ネージャがすごく活躍したので、彼らをサポートしてきて良かったなぁと思います。日々の練習の努力がピッチに出ているんだなと、気持ちが昂るものがすごくあります」
―そういう気持ちになれるのは、一緒になって戦っている証ですよね。
「僕は結婚していないし、子どももいないんですが、『親心ってこういうことなのかな』って、なんとなく思ったりします(笑)『けがしないかな』とか、そんな風に思いながら見ています」
―様々な業務がある中でも、通訳業というところにフォーカスすると、心がけていることはどういうことですか?
「今年、手倉森誠監督が就任しましたが、日本語で僕も今までなかなか使ったことがないような言葉を使われます。例えば、『のし上がる』と『這い上がる』という言葉を使い分けたりするんです。監督が使い分けているということは、それは同じ言葉ではないという考えなので、一見同じような言葉でも、あえて訳す言葉を使い分けます。言葉のチョイスについて、しっかり自分で意味を理解して使うように心がけています」
―日本語を英語で訳し分けるというのは難しいことではないですか?
「ぴったりの表現がとっさに出てこなかったりすることは、やっぱりあります。そういう時は、後で調べて、『こっちの言葉の方が、内容やこのシチュエーションには合うかな』『より正しいかな』という言葉調べというか、勉強はちょくちょくしています。そうしていく内に、ボキャブラリーが増えているような気はしています」
心に響く手倉森監督の言葉を、武腰さんは丁寧に外国籍選手に伝える
―ちなみに、手倉森監督お得意の「ダジャレ」は訳しますか?
「ダジャレは……、訳しますが(外国籍選手には)ピンとくる時と来ない時があるみたいです。ピンと来るときはすごく笑ってくれるんですが、ピンとこないと『きょとん』としています(笑)そういう時はちょっと失敗だなって思います(笑)」
―監督やコーチ、選手、取材陣などの言葉を間に入って「訳し伝える」という中で、状況や対象によって表現を変える工夫や、時にあえて訳さないという選択はありますか?
「言い回しを変えるということは、する場合もあります。選手によっては、『この言い方をした方が、聞く耳を持ってくれるだろうな』と考えたり、逆に『この選手はストレートに言った方が聞くだろうな』とか。訳さないということではなく、言い回しを変えるということは時と場合によってしています」
―選手の個性や置かれた状況によって判断していきますか?
「そうですね。基本的には『誰の通訳をしているか』、『その場のシチュエーションはどうか』を考えて、こういう言い方の方がいいかなというのは判断します」
言葉を尽くし、身振り手振りを交えてコーチの考えや練習意図を伝える(提供:ベガルタ仙台)
―ベガルタ仙台に来てからの2年間、どんな時に仕事の難しさを感じましたか?
「やっぱりチームや選手が上手く行っていない時、良い状況ではない時に、その選手にいかに問いかけるか、どうやって話を聞いてもらうかというところには、難しさを感じます。良い時は選手も話を聞いてくれるし、やってくれる。でもなかなかうまく行かなかったり、状況が良くない時は話を聞いてくれなかったり、理解してくれたと思っても実は理解していなかったり……。でもそこは、信頼関係を築くこともそうですし、自分の『腕の見せ所』だと思っています。そういう難しい時期には、いつも以上に集中して、通訳業に取り組むようにしています」
―「腕の見せ所」という言葉に、誇りやプライドを感じますね。仕事をしている上での喜びや、やりがいはどういうところにありますか?
「それはもう、試合に勝った時、選手が活躍してくれた時ですね。普通に生活していたら、味わえないような喜びを感じます。今年は518日ぶりにホームで勝つことができました。(第12節柏レイソル戦)あの時はすごく嬉しかったですし、こみ上げてくるものがありました」
―つい、ウルウルしてしまいますよね。
「はい。僕はもうガッツリ泣いていました(笑)」
スウォビィク選手(中央)と石野GKコーチ(右)。尊敬する二人と共に働ける幸せを感じている
―武腰さんが目指す理想像、憧れの存在はいますか?
「理想ということではないかもしれませんが、すごく尊敬しているのは、クバ(ヤクブ スウォビィク選手)とGKコーチの石野(智顕)さん。ものすごくプロフェッショナルな二人なので、彼らに近づけるように頑張らなきゃいけないと感じています。この人たちの足手まといになっているようじゃいけない、この人たちのようにプロフェッショナルでいなければいけないと思っています。サッカー界の初めての仕事が、クバと石野さんと一緒で本当に良かったです」
―通訳や副務として大好きなサッカー、Jリーグに関わっているということはどう感じますか?
「ずっとサッカーに携わる仕事がしたいと思ってきました。今は通訳ですけど、やっぱりこのJリーグ、サッカー業界に携われることに幸せを感じています。ただ、現状に満足せず、もっと上を目指していきたい。ベガルタ仙台が僕に手を差し伸べてくれたので、このクラブで何かを成し遂げたいと思っています」
日々たゆまず努力を続け、仲間から信頼される武腰さん。彼が挑戦を続け、苦難を乗り越え進んできたこれまでの道のりは、全て現在地へとつながっていました。外国籍選手の活躍を全力で後押しする彼は、チームと共に更なる高みを目指します。いつの日か決勝や優勝のインタビューで、涙を流しながら選手の熱い言葉を訳し伝える武腰さんの姿が見られるかもしれません。(完)
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。