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Interview
COMBAT SPORT
原動力は「格闘技が好き」という想い。人生のどん底から、念願のスポーツジム開業までの軌跡【後編】

出会ったのはまさかの詐欺師
「好き」という原動力は何よりも強い。紆余曲折ありながらも格闘技ライフを再開した高木さんですが、インストラクターを勤めていた格闘技ジムでなんと起業詐欺に遭ってしまいます。
「ジムの代表に筋トレを教えているトレーナーがいて、僕もよく会うようになって、一緒に筋トレを教えてもらってたんです。その人に『筋トレジムを作ろうと思ってるんですが、キックボクシングも入れたいので一緒に来てくれませんか』って言われて。最初はインストラクターとしてという話だったんですが、そのうち代表としてもやってほしいと言われたので承諾しました。
知識のある人だったし、教えてもらった筋トレには効果があったので信じちゃったんでしょうね」
ーもともと、ご自身でジムをやりたいと思ってはいたんですか?
「多分、チャモアペット会長のジムにいた時から心のどこかで考えてはいたと思います。後から仲間に『高木くんてすごいよね』って言われて、なんで? って聞いたら『いや当時から(ジムやりたいって)言ってたじゃん』って。夢を語っていたことは全然覚えてないんですけど(笑)
そこから資金繰りがどうだとか、トレーニングの資格取るのに必要だから、とかでちょこちょこ払っていたら、気が付いたら450万円くらいになってました」
ー450万円……! どこから詐欺だって気付いたんですか?
「こんなに払ってんのに全然進展ないし、さすがにおかしいだろってなった時に、僕以外にも知り合いで何人か被害者がいたんです。
警察にも行ったんですが、現金をほとんど手渡していたので証拠がなくて。事情聴取って本当に時間がかかるんですよ。結婚してすぐだったので妻もノイローゼみたいになってしまって、『警察に行く』というのも聴きたくない、という状況になっていました。
そんな中でやり取りしていた検事さんに『訴えても多分お金は返ってこないと思いますよ』って言われてしまって、じゃあ警察に行くのも無駄じゃん、と思いました。
そいつに社会的制裁を加えるよりも、妻と今をどう生きるかってことの方が大事だったので働くことを優先しました。その時もいろんなバイトをしましたね……」
新婚で詐欺に遭いほぼ一文無し。生活を支えるため派遣やバイトで食い繋ぐ、まさにどん底の日々……。
選択肢も何もない中、震災時のようにもう一度自分の気持ちを振り返った時、「ジムをやりたい」という思いが本心だったことに気付きます。
「いつかジムをやれたらいいなとは思っていたけど、プロでチャンピオンにもなっていない自分が人様に教えるなんて、っていう後ろめたさもあったし、ある程度資金とかも必要じゃないですか。だから自分で作るなんて考えられなかったんです。
でも詐欺に遭って、どうにか450万円用意できた訳じゃないですか。やればできるんだ、って、精神的ハードルを超えられました。お金の価値観も変わりましたね。
だから今は本当に、いい授業料だったなと。きっかけを作ってくれたのがその詐欺師だったと思うんで。誘ってくれなかったらいつ動き出したかもわかんないですからね」
ジム立ち上げのための資金集め、融資決定
そこから一念発起。市内のスポーツクラブ、キックボクシングジム、ご自身が主宰のムエタイ教室でインストラクターとして働き、資金集めに奔走します。
「一番忙しい時は、朝イチで松森のスポーツクラブに行って17時まで働かせてもらって、そこから自転車で花京院に移動してキックボクシングジムで23時まで。日曜日は自分のムエタイ教室をやって……。もう休みはなかったですね」
ーその間、どうやってモチベーションを保たれていたんですか?
「僕、就職を3回しているんですよ。でもやっぱり空手雑誌の編集以外は好きじゃない仕事だったんで、もういやいやだったんです。それを考えたら本当にね……5倍くらいは頑張れますよね。やりたくてやってることなんで、気持ちが疲れない。全部勉強になりましたし、やっぱり好きなことっていうのは強いなって思いました」
ーちなみに、開業までにどれくらいのお金がかかったんでしょう……?
「あんまり覚えてないです(笑)でもうちは普通のジムよりは全然安いですよ。家賃の3ヶ月分とか、壁を防音にする工事費だとか。あとはサンドバックやグローブなどの備品。あと、このマットが1枚3,000円~5,000円くらいするのが地味に痛かったですけどね。
あとは自己資金として100万円くらい貯めて、それを元手に融資を受けて何百万か借りて……って感じですね」
ーこちらの場所は元々集会所だったんですよね。
「ムエタイ教室の生徒さんに不動産関係の方がいて、紹介していただきました。駐車場も15台くらいあるんですよ。
その時も正直開業資金としては全然足りないし、どうしようかなと思ったんですけど。でも相場に比べたら安く借りられたし、ここで無理だって思って流したらまた同じような物件が出てくることってないだろうなと思って。チャンスと捉えて決定しました」
念願のジム完成
ご縁もあり良い物件に巡り合い、融資を受けることにも成功。2019年5月、ついに念願のスポーツジムを開業します。
ジムの名前は「HOBBY BASE」。格闘技を始めて出会った恩師や先輩、生徒との人間関係に救われたという経験から、趣味を通して家庭や仕事場以外の「第三の場所」になってほしいという思いが込められています。
「僕のきっかけは格闘技だったけど、それがヨガでもダンスでも、その人の人生が結果ハッピーになればいいんじゃないかと思って。趣味を広げる場として、もっといろんな種目をたくさんの人に楽しんでもらえる場所にしたいですね」

他にも社交ダンスやバランスコーディネーションなど種目は豊富(高木さんより提供)
生徒に向き合い続けて得た信頼
ープロの格闘家や雑誌編集者としての経験が指導に活きていると思うのはどんな時ですか?
「僕は格闘家としては劣等生だったんですよ。覚えが悪くて、運動神経も冗談抜きで中の下くらい。だからこそ自分で試行錯誤してきました。選手として大成しなかったからこそ、今があるって言えますね。これでチャンピオンになってたら天狗になってたんで(笑)
雑誌編集者としては、やっぱり文字に出来たってことですね。運動はやっぱり感覚の面が大きいので、言語化するのって難しいんですよ。噛み砕いて体でも頭でも理解できていないと発信できない。その技術が雑誌編集者時代には磨かれました」
ー確かに、「こうだよ!」って見せられてもできないんですよね。左足を軸に、とか、腰を使ってとか言ってくれなきゃ理解できなくて……。
「人間は運動を覚える時、頭に箇条書きでメモする感じで覚えていくので、うまく言語化しなきゃいけない。目で理解できる、耳で理解できるっていろんな種類の人がいるので、もちろん言葉でも教えるし動いて見せて伝えるし、いろんなアプローチをしています」
現在「HOBBY BASE」には高木さんが主宰していたムエタイ教室の生徒の多くが継続して来てくれています。自分に付いてきてくれるという安心感がジム開業の後押しにもなりました。

生徒さん手作りの看板。開業にあたり、設備面で他にもいろいろと協力してくれたそう
ー既存の生徒さん以外はどうやって集められたんでしょうか?
「紹介や口コミが一番多いですね。生徒さんが友達を連れてきてくれる。自分が嫌だと思う人は誘わないじゃないですか、みんないい人で繋がっていくんですよ。今、とてもいい雰囲気です。
コロナがあってオンラインキックボクシングの提供を始めたり、マーケティングやブランディングの勉強をしたりもしましたが、それで実際にジムに来てくれたとしても幻滅されたら意味がない。僕のためにわざわざスケジュールを組んで来てくれる人たちのために、信頼を裏切らないように指導していくつもりです」
HOBBY BASEはスポーツジムには珍しい都度利用制。Webサイトからの完全予約制となっており、参加する生徒によってメニューの内容や難易度を変えています。マンツーマンレッスンと完全自由参加型のジムの中間を取り『スモールグループレッスン方式』にすることで、コミュニティ重視のスポーツジムでありながら、より個々の生徒に合わせた指導が可能になります。
コロナ禍のもとでは本格的に格闘技に取り組みたい方、自分の身体に向き合いたい方に向けてパーソナルレッスンにも力を入れているとのことです。
ジムを通して伝えたい「格闘技の楽しさ」
ーもしインストラクターになりたい、将来的にジムを立ち上げたいという方がいたらどのようにアドバイスされますか?
「やっぱり自分が教えるものや、扱う競技が好きかどうかは自問自答した方がいいです。僕がコロナ禍でも踏ん張れたのは『これしかない』って思えたからなので。情熱がないと続かないですね。
あとは個人事業主で戦っていくのに他と同じ手法を取っていたら勝てないので、絶対自分の色を出していかなきゃいけない。どこかの見様見真似で作ったって、自然淘汰されるでしょうね。ライザップやめて筋トレジム作ります、とか山ほどいるんで……(笑)」
ー自問自答して突き詰めて、かつ個性も出していかなければいけないと。
「スポーツクラブって、外から見たら全部一緒に見えちゃうんですよね。料金とか通いやすさでしか見ないじゃないですか?」
ーまあ、そうですね……正直なところ。
「例えばエアロビクスを始めるにしても、『〇〇先生のエアロビクスがいい!』ってならなくちゃダメだし、その〇〇先生がジムを移動したとしても、何人付いてくるかっていうところなんです。
だから自分が起業して『何がしたいか』がないとダメですよね。どういうジムを作るかにもよりますが、それを通してどうなりたいか、どうしていきたいかっていうのがないと続かないのかなと思います」
ー高木さんはHOBBY BASEを通して、何を伝えていきたいですか?
「僕個人としては、格闘技の裾野を広げたいという思いがあります。まずは触れてもらう機会を増やしたい。やっぱり楽しいですからね! 技術を追及するのがすごく面白いし、キックが上手に蹴れるようになるのってすごく気持ちいい。別に相手を倒せるかなんてどうでもよくて、心身共に健康になるってことに重きを置いて教えたいですね。
僕は格闘技と生きてきたし、格闘技によって人生の芯ができたって言えます。格闘技は楽しいよ、最高だよってことをもっと上手に伝えられるように、今も勉強しています」
挫折して、何度も自分の気持ちを確かめる度に強くなっていった格闘技への想い。試行錯誤しながら自分の経験を落とし込んだ丁寧な指導法は、今や多くの生徒に支持されています。
自分を支えてくれた格闘技に真剣に向き合い続けたからこそ叶ったジム開業という夢。生徒からの信頼を胸に、格闘技の楽しさを伝えるべく高木さんは今日も拳を振るいます。
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Photo by 土田有里子

岩手県生まれ、宮城県育ち。運動センスがなくスポーツの経験はほぼありませんが、スポーツ漫画はめちゃめちゃ読みます! 地元の方に向けて、宮城・仙台のスポーツに関する情報をたくさん発信していきます!