仙台スポーツ
COPY
URL
COMPLETE

Interview

FOOTBALL

『東日本大震災10年 未来プロジェクト』に込めた思い。マイナビ仙台レディースがつなぐ未来へのバトン

(提供:マイナビ仙台レディース)

 

新しい世代の子どもたちと「夢のつづき」を―。

 2011年3月11日の東日本大震災発生から、10年の月日が経過しました。東北地方に甚大な被害と犠牲をもたらした震災。そこから時は経ち、住宅の再建、街やインフラの整備が行われてきました。復興への歩みは進む一方で、まだまだこれからという部分もあります。様々な立場の方が「それぞれの10年」を振り返った今年、杜の都・仙台に新しい女子サッカーチームが産声を上げました。秋に開幕する日本初の女子プロサッカー、WEリーグの「マイナビ仙台レディース」です。

サッカーを続けてくれてありがとう

ベガルタ仙台レディースのホーム開幕戦には多くのサポーターが駆けつけた(提供:ベガルタ仙台)

 

 チームのルーツは「東京電力女子サッカー部マリーゼ」にあります。マリーゼは、2011年東京電力福島第一原子力発電所の事故で休部を余儀なくされました。サッカーJ1ベガルタ仙台がチームの「移管先」として選手を受け入れ、2012年にマイナビの前進となる「ベガルタ仙台レディース」が発足。2017年には株式会社マイナビがタイトルパートナーとなり、「マイナビベガルタ仙台レディース」とチーム名を変更しました。東北の地に女子サッカーの灯を守ってきたチームが生まれ変わり、今年2月に「所属選手全員がプロ契約」という「マイナビ仙台レディース」が誕生しました。

 

未来プロジェクトが発足

 過去に所属した多くの選手が「復興のシンボル」として、サッカーを通じて「夢」をつなぎ、未来を作ってきました。そのバトンを受け取るマイナビは「東日本大震災10年 未来プロジェクト」を立ち上げました。使命は「これからの未来を創る子どもたちにサッカーやスポーツの素晴らしさを伝えていくこと」と、「子どもたちがサッカーをする場所、観戦する機会を提供すること」。

 その思いに共感する多くのスポンサー企業や個人から協賛が集まり、WEリーグ開幕に先駆けて行われるWEリーグプレシーズンマッチのホームゲームでは、「サッカー教室」と「小学生以下の子供たちの無料招待」が行われます。会場は、なでしこリーグ時代からホームゲームを開催し、熱烈に応援してくれた角田市(5月9日、かくだスポーツビレッジ)と石巻市(6月5日、石巻フットボール場)です。

マイナビベガルタ仙台レディース

マイナビベガルタ仙台レディース時代も子供たちとの触れ合いを大切にしてきた(提供:ベガルタ仙台)

 

 「東日本大震災10年 未来プロジェクト」に込めた思いについて、マイナビ仙台レディースを運営する株式会社マイナビフットボールクラブ 代表取締役社長の粟井俊介さんに伺いました。

マイナビ粟井社長 インタビューカット

未来プロジェクトの意義について語るマイナビ粟井俊介社長(提供:マイナビ仙台レディース)

 

―未来プロジェクトを立ち上げた経緯を教えて下さい。

「はい。チームと運営会社の発足が2月で、WEリーグ開幕が9月と半年以上、間が空いています。チームの練習や体制を整えるということをしながらも、地域の皆さんにとって何か良いことを取り組みの一つとしてやってきたいという思いがベースにありました。今まで角田や石巻の皆さんにご支援、応援頂いていたお礼の意味合いもありますし、新しいチームとしてのお披露目という意味もあったので、そこで次を担う若い世代、子どもたちに何かできることはないかと考えた結果生まれたものが『未来プロジェクト』でした。東日本大震災から10年ということもプロジェクトの表題にしています。何かの区切りが10年と決められた訳ではないし、まだまだ復興に向けて道半ばという中でつけた名前です」

―プロジェクトには様々な企業・団体が協賛してくれていますね。

「企業の方々のお声を伺うと『ああ、もう(震災から)10年経ったのか』と。この10年で終わりという訳ではないけれど、ここから先の未来に向けて全員が前を向いて歩いていかなくちゃいけない。歩いていくにあたってできることがあればと応援してくださっていますね。スポーツは人々にとって、未来に向けて前向きになれるもの。そういう領域で我々もやらせていただいている。スポンサーの皆さんとお話した時にその思いに共感していただいて、ご協賛いただいています」

―未来を担う子どもたちへ、というところもこのプロジェクトの大きな特徴ですね。

「そうですね。コロナ禍の影響で昨シーズンは(サポーターや子供たちとの)ふれあいの機会を持つことができませんでした。致し方ないところではあるのですが、そういうことが課題意識にありました。やっぱり1シーズン丸ごとそういうことができないというのは長いですよね。女子サッカーを本当に盛り上げていこうと思った時に、『女子プロサッカー選手』という職業選択肢があるということを知って欲しい。スポーツが得意で体を動かすことが好きな女の子にとってそういう機会を作ってあげることが、大きなきっかけになるかもしれないです。もしそういう機会がないとしたら、作ることができるのはやっぱり我々なのかなと思います」

―これまでの歴史も含め、マイナビ仙台レディースが背負うもの、担っていく役割はどのように考えていますか。

「いろんなものがあると思っています。仙台、東北の地で長く続いてきた女子サッカーのチーム。その歴史のバトンを引き継いでしっかりやっていく。その上で、プロとして一人でも多くの方に試合を楽しんでいただき、プレーを含めた活動を届けていくための主体的な努力が必要です。それは、これまで以上にやっていくべきじゃないかと思っています。これまでもいろんな方に支えられました。これからも支えられてやっていく以上は、しっかりと存在感を出していくこと。リーグの中でも存在感を出すし、地域の中でも存在感を出していきます。それを見て、聞いた方が前向きになってもらえるような取り組みを続けていきたいなと思っています」

―地域の方々との関わりも深めていきたいですね。

「私は仙台出身ではないのですが、昨年末に引っ越し、実際に住んでいろんな方と触れ合って感じるのは、仙台という街にはいろんなスポーツがあって、それを支える方、見てくださる方含め、スポーツでも盛り上がる素地がしっかりしているなぁということです。客観的に見ても日本全国の中でこれだけたくさんのプロスポーツがホームタウンとして競技を超えて集まっている都市というのはなかなかないと思います。そういったところで我々がやれているということをありがたいと思うと同時に、それができるのは地域で支えてくださる、応援してくださる方がいるからこそだということは忘れずにやっていきたいという思いが強いです」

 昨年までマイナビベガルタ仙台レディースでプレーし、今年からは株式会社マイナビフットボールクラブの事業運営課のスタッフとなった小野瞳さんも未来プロジェクトを企画運営していく中心メンバーの一人です。

小野さん インタビューカット

未来プロジェクトの企画・運営に携わっている小野瞳さん(提供:マイナビ仙台レディース)

 

―2月からは運営スタッフに。選手時代とは役割も、見える景色も違いますね

「サッカーを支える側ということで、これから仕事をしていく上で何が大事かなと考えた時に、サッカーをするのも人、支えるのも人、応援してくれるのも人なので、人のつながりや人を大切にしていきたいという思いがあります。このチームも2月から新しくなりましたけれど、サポーターの皆さんやチームを知らない方など、たくさんの方にこのチームの良さを知ってもらいたい。その中で選手が生き生きとサッカーをする姿を見に来てもらいたいと思っています」

―「未来プロジェクト」に、小野さんはどのように関わっていきますか。

「主な私の役割としては子供たちと触れ合ってサッカーの楽しさを伝えるということになるのかなと思っています。子どもたちがサッカーをするとか、外で思い切りボールを蹴るという機会が最近ではあまりないのかなと思うんですよ。素晴らしい芝生の上で走り回れるという機会。そこにボールがある。ボールがあれば一緒に楽しいことができるということ。その日に試合をする女子のプロ選手がいて一緒にできるということ。試合を見てもらい、こんなすごい人がいるんだと感じてもらい『サッカーっていいな』と思ってもらえる場にしたいです」

―プロの選手と触れ合えるという経験は特別な思い出になりますね。

「私自身も小学生の頃、サッカーイベント・サッカー教室に参加した時に柱谷哲二さんが講師として来てくれました。ハイタッチや握手をして、とても興奮した記憶があります。リフティングをしていたら、近くに来てくれてすごく嬉しかったんですよね。その記憶が今でもあるということは印象深い経験。子供たちにとっても、そういう機会があったらいいなと思います」

―この活動を通して地域とチームの関係がどうなっていくと良いと考えていますか。

「仙台から発信を続け、いずれ宮城のみならず東北各地を周り、各地の子どもを招待できたらいいですね。今はコロナ禍なのでできることを少しずつやっていけたらと思います。発信に関しては場所を問わずできることだと思うので、良い関係性やつながりを持ちながら子供たちやその親御さんたちに女子サッカー、マイナビがあるということを知って欲しい。試合のインターネット配信もあるので近くに感じて頂けるように、チームを知って身近に感じてもらう。その選手たちがサッカー教室などでより近づくことで、愛着を持ち、応援していただくという機会を増やしたい。選手たちが地域を回ってポスターを配ったり、イベントや教室をしてその地域に入っていけるような……そんなことをしたいですね」

―この新しいクラブがどんな風に歩んでいくといいと感じていますか。

「チームができた経緯を知る人も、選手も含め少なくなっていますが、このチームはベガルタ仙台があってのチームで、マリーゼ以前のチームがあっての今のチームだと思います。そういう思いを持ち、受け入れてくれた仙台、宮城、東北の皆さん、サポーターの皆さんとのつながりはクラブとしても大切にしていきたいです。ベガルタ仙台の時とは違って、新たなチームで新たな挑戦。クラブだけではなく、サポーターの皆さん、地域の皆さん、選手自身とみんなで作り上げていきたい。そういう思いを持ってやっていきます」

 

 サッカーやスポーツを通じて、子どもたちの夢を大きく広げる。マイナビ仙台レディースという生まれたばかりのクラブが地域とともに力を合わせて挑む「未来プロジェクト」。ピッチ上で輝く子どもたちの笑顔が、明るい未来につながっていくことを願っています。

 

 マイナビは子どもたちがサッカーをする場所、観戦する機会を提供するために、協賛企業・団体、個人を広く募集しています。

詳しくはこちら→https://www.mynavisendai-ladies.jp/page-386.html

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。