
東北を愛し、東北に愛される、楽天イーグルスの渡辺直人一軍打撃コーチが今描く「夢」とは。
Interview
BASEBALL
「プレーを発信できるのが僕達の職業なので、少しでも東北の人たちを元気づけたいです」
東日本大震災から10年となる3月11日。チームは静岡草場球場でオープン戦の試合前に、こう話してくれたのは楽天イーグルス3年目外野手・辰己涼介選手である。
オープン戦は打率.385と島内宏明選手(.400)に次いで12球団中2位の打率を残した辰己選手。1番センター開幕スタメンの座を見事掴みとった。
イーグルスファンが待ちに待った3月26日の東北開幕戦!開幕投手を託された涌井秀章選手が三者凡退に抑えた直後、1回裏であった。なんと先頭打者ホームラーーーン!しかも初球だった。先頭打者初球本塁打はパ・リーグでは51年ぶりだという。誰よりも早い今季1号で鮮烈なスタートをみせてくれた。
いつも面白いコメントでファンを楽しませてくれる辰己選手。そして、間違いなく今年の優勝のカギを握る男となるであろう、リードオフマン・辰己選手の今シーズンにかける熱い想いを聞かせてもらった。
-今シーズンの個人としての目標はありますか?
「143試合出場したいですね。それから、選手である以上は守備でも走塁でも打撃でも良いので、何かのタイトルを獲りたいです。そのためには試合に出続けることが大事になってくると思っています」
-メンタル的な部分で昨年と違うところはありますか?
「今年結果を出せなかったら、選手としての立場も危うくなってくるという覚悟でいます。危機感はあるのですが(過去)2年の経験が気持ちを落ち着かせてくれています。これまでに、無駄ではないと思える苦しい経験をした事と、新たに蓄えた知識で、落ち着いて試合に入ることができています」
そしていつもの冷静な口調でこう続いた。
「レギュラーは絶対手放してはいけないと思っています。ただ、長いシーズンの中、スランプになる時期はあると思うので、その時にいかに自分で打破できるかが重要だと思っています」
過去2シーズンは100試合以上に出場し2年連続2ケタ盗塁をマークしたが、「まだまだです」と常に謙虚な姿勢の辰己選手。今年にかける覚悟がひとつひとつの言葉からしっかりと感じられた。
辰己選手はホームランを打った時に左腕の「がんばろう東北」のワッペンを指さすアクションをする。その事について聞かせてもらった。
「ホームランを打った時は、自分にスポットライトが当たっていて、カメラもこちらを向いているので、(がんばろう東北を)アピールする事で少しでも元気になってくれる人がいたらいいなぁと思って、あのパフォーマンスをしています」
-東日本大震災から10年、いま東北の球団にいて感じることは
「縁はすごく感じています。物心がついて、自分が中学生の時に東日本大震災が起こりました。こういう大きな災害が、生まれる1年前に地元でもあったのかと思うと、何かの縁で東北にきたと自分の中で思っていますね」
辰己選手の生まれる1年前の1995年、阪神・淡路大震災が起こった。神戸出身の辰己選手は、ブルーシートで大変な生活をされていた方を見た記憶もあると教えてくれた。その年、街全体で「がんばろう神戸」を掲げオリックスは優勝した。その優勝に大きく貢献したのはイチロー選手だった。
辰己選手いわく「尊敬しない理由がない」というイチロー選手が当時、辰己選手の地元・神戸の街に希望や感動を与えたように、今年は辰己選手が東北を大いに盛り上げてくれるだろうと自分は確信している。
-東北にきて3年目、宮城・仙台の好きなところを改めて教えてください
「人が温かいところです。『がんばってー』と気付いたら、みなさん声を掛けてくれますし、東日本大震災という大きな出来事を悲観的に感じさせないくらい元気に、街をあげて明るくいこうというところが良いところだと思いますね」
仙台と神戸はどこか似ている空気があるのだと思う。海や港があり、街は都会的に華やいでいるが、少し行けば山もある。そして神戸牛も仙台牛も絶品だ(そんなに食べたことはないが)辰己選手が宮城・仙台が好きだという理由も納得できる。
今年の東北開幕戦、辰己選手のお母さんが観戦に来られていたそうだ。その日大活躍でヒーローになった辰己選手は試合後に「小さいころから厳しく育てていただきました。生きている間にいっぱい活躍して、恩返ししたいと思います」と話した。
1人息子の辰己選手がお母さまの目の前で見せた先頭打者初球ホームラン。これ以上の親孝行があるのだろうか。まさに東北のファン、全国のイーグルスファンを元気づけてくれた瞬間だった。シーズンは始まったばかり、ここから更に辰己涼介選手が日本一に大きく貢献し、仙台を熱くしてくれると信じている。
1980年生まれ。大阪・堺市出身のDJ/MC。東北楽天ゴールデンイーグルスが運営するラジオ局「Rakuten.FM TOHOKU」で野球中継の実況を担当。浪花のおにぎり根性で選手に好きなおにぎりの具を聞きまわっている。過去にはFM802の番組内で自転車で飛び出してリポートする「チャリンコモンキーマン」として、ごく一部のファンを魅了。