仙台スポーツ
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Interview

FENCING

研究の世界から日本の競技力向上を目指す、気仙沼が産んだメダリスト 千田健太【中編】

 小学生時代は様々な競技を経験し、中学1年からフェンシングを初めた千田健太。地元宮城の良い指導者に恵まれ、競技開始年齢こそ遅かったが、大学進学した頃には国際舞台で活躍する選手となる。そして迎えた2008年の北京オリンピック。初めて出場したオリンピックは、出場したことへの満足感も感じつつ、大会を終えると成績を残せなかったことへの悔しさが募った。大学卒業後も競技を続ける環境が整い、2010年の世界選手権で団体銅メダルを獲得するなど、2012年ロンドンオリンピックへ向けてトレーニングに邁進している時に襲ったのが東日本大震災だった。

遠征先で知った東日本大震災の衝撃、固めた決意

「世界選手権でメダルを獲得し、ロンドンオリンピックに向けてトレーニングに邁進している折に起きたのが東日本大震災です。震災当日、私は遠征先のドイツにいました。ニュースで映像は見ていましたが、帰国後変わり果てた地元の姿に愕然としました。とても競技ができる心境ではありませんでした。もっと他にやるべきことがある、そう考えて過ごしていました。そんな私を見た父や周囲の方は意外にも「健太はフェンシングをやれ」と声をかけてくれました。「フェンシングを練習して、世界で勝って、地元に明るいニュースを届けてくれ」、そう言ってくれました。みんなが誰か大切な人を失い、家や生活の基盤を失い、辛いときです。自分自身でも、どうやったら地元に貢献できるか考えた時、やっぱりフェンシングしかないと気付きました。だから今度こそ、ロンドンオリンピックではメダルを取ると決めました。」

みんなで獲った、獲らせてもらったオリンピック銀メダル

「ロンドン大会では準々決勝で個人金メダルの選手を要する中国に勝ち、準決勝に進むと、準決勝ではドイツとの激闘が待っていました。団体戦は1チーム3人総当たりの9セットで得点が多い方が勝ちとなります。日本は太田選手、三宅選手、私の3人が出場し、みんなで得点を重ねて3点差で最終の太田選手に繋ぎました。しかし相手も必死ですので、逆転されてしまい、残り9秒で2点のビハインドに。私はもう出番を終えているので、祈るしかありませんでしたが、太田選手が底力を見せてくれました。残り1秒で同点に追いつき、延長戦へと持ち込んだのです。延長戦は1点先に取った方が勝ちです。ここでもう一つドラマが待っていました。なんと両選手に同時に得点表示が点き、ビデオリプレイでの判定となったのです。審判が何度もビデオを見返している間、とても長い時間が流れたような気がします。そして日本の勝利が宣告された瞬間、一気にベンチを飛び出して喜んだをの覚えています。」

気仙沼に凱旋した際の写真

※ご本人提供

「銀メダル獲得後地元に帰ると、出迎えにきてくれた人たちで街が溢れかえっていました。本当にフェンシングを頑張って良かった、自分の役割を果たせたと思ったのと同時に、スポーツは本当に大きな力があるんだと心の底から実感しました。

 今でも講演会などの際には銀メダルを会場に持っていき、実際に見てもらうことがあります。なぜなら、この銀メダルは自分だけのものでは無いと思っているからです。それ以前にも国内大会や国際大会でメダルを獲得したことがありますが、このオリンピックのメダルは違います。みんなから励ましてもらい、色々な支援を受け、気仙沼や被災地を代表してロンドンに行き、獲ってきたメダルです。だからみんなで獲ったメダル、みんなに獲らせてもらったメダルです。」

2度目の“オリンピック半年前”が近づいて思うこと

「私自身は選手として北京大会とロンドン大会の2回のオリンピックを経験しました。そして今、東京オリンピックまであと半年ほどというところにきています。新型コロナウイルスに世界が大きな影響を受け、私自身もいろいろと制約を強いられている現状ですが、今年オリンピック・パラリンピックが開催されたら、宮城のみなさんにも是非大会に参加して、スポーツの祝祭を体験してほしいと思っています。復興五輪として、被災地でも試合が行われます。また、各国選手の事前キャンプや大会開催中のイベントなども数多くあります。海外の文化や世界のトップアスリートを身近に感じられる機会ですので、この機会を逃さないようにしてほしいですね。私もオリンピックに出場して、海外の文化や海外のアスリートと触れ合ったことで大きな刺激や気付きを得ることがありました。

 そして試合の際は純粋にスポーツを楽しんでほしいと思います。スポーツの感動の原点はその一瞬にかけるアスリート同士のぶつかり合いです。それが毎日見られるのはとても幸せなことだと思います。フェンシングを観戦してくださる方に向けて、みどころをお話します。まず全くのフェンシング初心者の人は、一度予習をかねてフェンシングの試合を見てみてください。剣先の動きの速さや選手の前に出る強さを体感してほしいと思います。そしてフェンシングを見慣れてきたら、今度は選手ごとの戦術に注目してみてください。攻撃型の選手や守備型の選手、間合いが遠い選手や反対に近い選手など様々です。選手ごとの狙いの違いがわかると、フェンシングという競技の醍醐味を感じられると思います。」(続く)

Photo by KYODO NEWS

 

安藤悠太
安藤悠太

東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。