仙台スポーツ
COPY
URL
COMPLETE

Interview

FOOTBALL

新たな仕事は『まちをクリエイト』すること。元サッカー選手・田村直也が描くキャリアと仙台の未来【中編】

※写真:ご本人提供

解体とチームビルディング、サッカー解説とラップにはそれぞれ共通点がある

 2007年、中央大学を卒業し、当時J2だったベガルタ仙台に入団した田村直也さん。ボランチやサイドバックを始め複数のポジションで実力を発揮し、チームのJ1昇格に貢献しました。球際に厳しく、相手にどこまでも食らいついていくプレースタイルは「闘犬」と評され、2013年に退団するまで多くのサポーターに愛された存在でした。

―一度離れて、改めてベガルタ仙台はどのように見えますか。

今の選手たちは大人しい印象ですね。たぶん表では大人しく、裏ではがやがややっているのかな(笑)せっかく個性豊かな選手がいるし、チームがYouTubeもやっているんだから、選手たちも自分の売りや特性を発信したらいい。僕らの時は岡山(一成、現VONDS市原監督)さんがいたので(笑)ヤナさん(柳沢敦、現鹿島アントラーズユースコーチ)は寡黙だけど誰よりも前でランニングしてチームを先頭で引っ張ってくれたし。角さん(角田誠)は人に対してバーッと厳しく言うけれど、自分のプレーに責任を持っていた。そういう厳しさとかもあったと思うんですよね。今の選手たちも内面に秘めているものは大きいと思う。お祭り男がいてもいいし。負けてしまった時に、一人前に出てサポーターの思いを一身に受け止める選手がいてもいい。それがパフォーマンスではなくて内側から出てくると良いですよね。負けても明るい選手というのは必要です」

―指導者に興味はありますか?

「ありますよ。特に育成に興味があります。イベントやチャリティーサッカー教室をしながら子供たちとプロ選手を会わせたりしています。子供たちを変えることって、指導者には無理なんです。その子の家庭環境もあるし、いかに練習以外のところで練習しているかということも、プロへの道では重要なので。良い指導者の皆さんは『俺が育てたなんておこがましい』って言いますよね。『変えられないけれど、道しるべやエッセンスは与えられる』とよく言います。そういうところに興味はあります」

―すぐに指導者への道には飛び込まず、まずは外側から見る選択をしたのですね。

「やはりサッカーの中だけで考えてしまうと、周りの人たちがどういう思いで暮らしているのかというところがあまりよく見えなかった。僕は一回外から見ることでベガルタやサッカーの魅力を引き出せるんじゃないかという思いが強かったですね。ここで、まちづくり、人づくり、まずは自分づくりからかもしれないですけど、仙台に基盤を根付かせたいという考えがあったので企業に入ることを選びました」

田村直也

―引退後に住む場所として仙台を選んだ理由は?

「引退して宮城に帰ってくるというのは引退した2019年には決めていました。ヴェルディの人やサポーターも温かかったですが、宮城に帰るということは頭にありましたね。いろんな話を聞いていて、材料があった中でここを選んだ感じです。今の会社は基幹事業は解体ですけど、『プラスになることなら何でもやっていい』という風土があって、自分が加入するにあたってスポーツ事業も前向きに検討してもらえる可能性があったのも大きな要素でしたね

―解体とサッカーの共通点ってありますか。

「サッカーだと『チームビルディング』という話があると思うんですけど、建築に例えると杭があって、コンクリートの基礎があって、骨組みがあって、屋根がある。内装もある。建設界で言うと、杭抜き屋さんがいて、解体業者がいて、建てる方で言うとインテリアコーディネーターさんがいていろいろな業種の人がいて、建物が作られている。解体業者はその中の一部。チームを新しくする上で、スクラップして作っていくということを考えると、建設とサッカーって似ているなと。建設界は建てる方が花形ですけど、きれいに壊すというのも大事な仕事ですから。そこを全うすることで次の方にパスする。そこに素晴らしい建物が経って、住む人が幸せに暮らしていく。そう考えると僕たちのやっていることに誇りを持てることだよね、ってなっていくと思う。共通点は感じますね」

―今回のインタビュー関連の連絡でもとにかく返信が早い。とても仕事ができる感じがします。

「自分でイベントを開催した時に、レスポンスが早いととても助かるんですよ。各チームの広報さんとやり取りをしていて、『このチームの人は(仕事が)早いなぁ』と思ったり。結婚式の招待状でも、レスポンスが早いと嬉しいと思った経験があったので、自分もできる時はなるべく早く返すようにしていますね。求められていることには応えたい」

 現役時代から自身の思いや考えをSNSで発信していた田村さん。現在は仙台のテレビ番組や地元紙でベガルタ仙台の試合の解説を行っています。選手として多くの監督に師事し、サッカーに対する引き出しを増やしてきました。サッカーの「魅力の伝え手」として特別な思いや工夫もあるようです。

田村直也

※写真:ライター提供

―解説者として、TV、YouTube、新聞、SNSなどで活躍していますね。

「(手倉森)誠(現ベガルタ仙台)さんやロティーナ(現清水エスパルス)さん、最終的に永井秀樹(東京ヴェルディ)さんのところでサッカーをし、監督によってサッカーも違うなと感じました。選手としても僕はいろいろなポジションをやりました。FWもCBもSBもサイドハーフもボランチもやっていた中で、いろいろな選手の気持ちや気づかれにくい素晴らしさもあると思っています。その選手たちの魅力は伝えたいですね。」

―田村さんならではの視点も解説に生きていますね。工夫している点は?

「メディアごとに言葉を使い分けられるように。わかりやすく伝えなければいけない場面と、より深く伝えなければいけない場面を理解する。その上で伝えるということに魅力を感じます。ただ解説には責任が伴います。その選手の人生を左右する言葉になるかもしれない。そこは気をつけてやっています。言い回しだけ変わるのになぁ、と思ったりします。この先解説をやっていく中で、そういうところは考えていかないと。ただすべて褒めていてもいけないですから、修正点やなぜそういう現象が起きたのか改善点を伝えられるように研ぎ澄ましていきたいですね」

―昨年夏にはスカパー!で試合解説デビュー。解説ノートも用意されていましたが入念な準備があるのですね。

「目の前で試合が進んでいくので、ずっとノートを見ながら解説はできないのですが、必ずしゃべりたい『パンチライン』というか、『キラーワード』は用意しますね。パンチライン、あるんですよ(笑)自分の中で。これは、ここぞの時に言いたいな!というものはあります。僕、ラップが好きなんですよ。フリースタイルのラップって、相手の言葉を聞いてアドリブで返すんです。『そこでそのワードを持ってくるのか……』と思ったり、あれは本当に頭が良くないとできないですよ」

―ラップとサッカー解説、通じるものはありますか?

「用意してきたものと別のことが起こるんですよ、試合って。それはフリースタイルと一緒です。用意してきたものだけで喋れば、ディスられて…………終わる(笑)ラップも解説も、準備した言葉と即興性、両方持たなければいけないと思うんですよ。何も持たないでそこに行ける人ってすごいなって思います。情報は大事ですよ。正しく伝えるという意味でも準備は必要です」

―好きな解説者はいますか。

「戸田和幸さんや岩政大樹さん。お二人は参考にしていますね。佐藤悠介さんや小林慶行さんもそうです。解説を聞いて、ピッチで起きたことのバックヤードが見えてくると、より深いなぁと感じますよね。自分もそういうところを目指していきたいですね」(続く)

田村直也

【田村直也さん プロフィール】

東京都多摩市出身。1984年11月20日生まれ(36歳)。小学1年生からサッカーを始める。
東京ヴェルディジュニアユース、ユースでプレーし、中央大学を経て、2007年ベガルタ仙台入団。2014年、東京ヴェルディへ移籍。2017年には「株式会社TMFC」を立ち上げ、代表に就任。アパレル業、スポーツ振興と地域貢献、震災復興に関わる活動を実施。2019年に現役引退。2020年、仙台市の解体・建設業、株式会社エルエスシーに入社。営業・広報として社業に勤しむ一方で、サッカー解説者としてTVや新聞、SNSなどで活躍。プロとしての豊かな経験と独自の戦術眼でチームを超え、サッカーファンの支持を得ている。家族は妻と一男一女。

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。