仙台スポーツ
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Interview

FOOTBALL

市瀬菜々が大事にする『サッカーを楽しむということ』 選手の個性が輝き、強くなっていくチームの未来【後編】

3月のリーグ再開に向け、マイナビ仙台レディースの選手たちはじっくりと力を蓄えています。前期8試合から得た手応えや、ここから磨いていかなければいけないことをキャプテン市瀬菜々選手に伺いました。一人一人の個性が発揮され、より高みへ。優勝を目指して突き進む2季目のマイナビから目が離せません。

 

―2022-23シーズン前半戦、8試合が終わりました。今シーズンのここまではどう捉えていますか?

「ここまでの試合は、自分自身どういうサッカーをするべきか、結構悩みました。いろんな悩みがあって、責任感も昨シーズンよりは芽生えていて、プレッシャーもあったのかもしれません。個人的にも満足できるような試合はできていないです。今、チームとしてスタートラインに立ったというか、守備の基盤を作っている段階です。前半戦での課題を、全てのシーズンが終わった後ではなく、(試合数が半分以上残っている)今気づくことができた。それが、去年との違いだと思っています」

―市瀬選手は昨シーズンに続いて、ここまで全試合で先発出場。試合に出続ける中で感じていることはどういったことですか?

「結果はそこまで悪くはない。でも日テレ・東京ヴェルディベレーザ(東京NB)や浦和レッズレディースなど強豪チームを相手にすると、結果も内容も誰が見てもわかるくらい、差があります。皇后杯4回戦の東京NB戦や12月の(第7節)浦和戦でも気づいたところです。何かを変えなきゃという思いがあった中で、すぐには上手くいかない難しい部分もありました。浦和戦の後半からベンチになったのですが、外から見る景色は中とは違いました。外から見ると、チームとして何が足りないかが、よりわかりやすかったです」

ー市瀬選手は全試合先発出場していたので、外から試合を見るということがそもそもありませんでしたよね。交代の悔しさはあると思いますが、新鮮な経験だったのでは?

「はい。コミュニケーションを取り合うみんなの声も迫力も、ピッチの外からだとより強く聞こえます。中で自分がプレーしている時は、自分のプレーに集中し、その場の状況で必死になっています。でも外からだといろんなことが見える。ミスが起こった場所だけではなく、その周りも見えました」

マイナビ仙台 市瀬菜々選手

ここまでリーグ戦すべてに出場。準備は怠らず、常に求められる役割を果たす

 

―市瀬選手に対して、松田監督からはどのようなことを求められていたのですか?

「前半戦で特に言われたのは『強さ』の部分ですね。相手FW選手に対して強くいくことです。失点はDFだけの問題でもない。全員で守備をしていこうというところでは、DFも(守る範囲や対象を)狙いやすくなり、守備もしやすくなっていくと思います」

―前半の終盤戦では、日テレ・東京ヴェルディベレーザ(東京NB)や三菱重工浦和レッズレディースなどの強豪と対戦しました。悔しい敗戦もありましたが、それらのチームとマイナビではどのような差があると感じましたか?

「戦術面や個々の上手さの差はあると思います。でもそれ以上に感じたのは、相手選手が自信を持ってプレーしているということでした。東京NBの選手も浦和の選手も楽しそうだなって思ったんです。余裕を持っているというか、自分たちもそういう雰囲気は大事にしたいと思いましたね」

―個人としては、初めてキャプテンという立場になりました。チーム全体を見て、変わったことはありましたか?

「新しい選手が入ってきて、周りに良い影響を与えてくれています。一人一人の意識や勝ちたいという思い、上手くなりたいという思いは強くなってきているのかなと、みんなを見ていて感じています」

マイナビ仙台 市瀬菜々選手

支えてくれる人たちがいるからこそ、キャプテンとしても力を発揮できる

 

―新しく入ってきた選手の中には年上で経験豊富な中島依美選手、後藤三知選手もいますが、どのように支えてくれていますか?

「私は慣れないキャプテンとしての仕事をしているので、メンタル面のサポートをしてもらっていると思います。私は気持ちのアップダウンはあまりない方ですが、自分でも気づかないうちに、マイナスな方向に進んでしまっていることもあります。依美さんは負けた試合や上手くいかなかった時に、『大丈夫?』『どうすれば良かった?』と聞いてくれます。三知さんとはサッカーに関する話をすることが多いです、三知さんは熱いですよ! 話が止まらなくなります(笑)」

―そのチームをまとめていく市瀬選手の良い変化を、松田監督も捉えています。「市瀬があれだけやってくれるなら、全員をキャプテンにしなくちゃ」とも言っていました。立場によって成長している?

「もともと、他人に興味がないというか、自分に集中するタイプなんです。周りを見るよりも自分のプレーを出すということにフォーカスを置いていたのですが、今は自分なりにチームを見ているというところはあります」

―どういうことが見えてきましたか?

「一人一人、昨シーズンよりも勝利への思いは強くなっている、でも迷いながら進んでいる感じがします。その迷いの中で強くなりたい、上手くなりたいという思いを抱えていると思います。そういう中で、選手が個性を出せて、個性を生かすことができるチームになっていったらいいですね。ピッチ上でも『これをやらなきゃいけない』ということではなく、自分がしたいと思ったプレーをする上で、プレー面でも周りに気を遣うことができるようになると思うんです。そういうことができるようになると、見ている人にとっても楽しいサッカーになるんじゃないかと思います」

マイナビ仙台 市瀬菜々選手

苦しい時こそ、チームが変わるきっかけを自分のプレーで作り出したい

 

―それが、最初に話していた「楽しむこと」「選手が個性を出していくこと」につながっていくんですね。市瀬選手はキャプテン就任時に「チームが苦しい時に点を取れるキャプテン」が理想という話もされていましたね。

「WEリーグカップの大宮アルディージャVENTUS戦では自分の得意なセットプレーで点を取ることができました。そういう展開は今まではなかったので、少し変わることができた部分ですね。点を取ることも大事ですし、DFとして体を張ったプレーを見せることで、チームの流れを変えることも大事だと思っています。そういうプレーで、チームの雰囲気を変えることができるような選手になっていきたいですね」

―市瀬選手は在籍している選手の中では、GK齋藤彩佳選手、DF万屋美穂選手に続いて、仙台在籍が3番目に長い選手となりました。常盤木学園高等学校を卒業して、2016年に当時のベガルタ仙台レディースに加入しました。高校から数えると仙台生活は11年ですね。

「長くなりましたね。出身は徳島県ですが、地元と仙台との違いは、そこに家族がいるか、いないか位だと思っています。仙台ではチームメートが家族のようなもの。“ほぼ”地元だと思っています」

マイナビ仙台 市瀬菜々選手

自信を高めた守備で、後期はより高いところへチームを導く

 

―今後に向けてですが、現在はリーグ中断期に入っています。後期に向けたキャンプではどのようなところを高めていきますか?

「今、チームとしてDFについて基礎に戻っている中で、もっとみんなで合わせていきたいですし、DFの基盤ができてくるとそれぞれに余裕が生まれると思うんです。DFも声をかけるべき範囲が狭くなると、意思疎通が取りやすくなる。守備に回る時間が減ると体力も温存できるし、その分の体力を攻撃に使うことができる。キャンプで共通理解をしっかり落とし込めれば後半戦につながると思います」

―現在は暫定3位です。優勝を目指し、更に上に行くためには何が必要ですか?

「昨季は後半戦で勝てない試合が続いて、順位も落ちていきました。シーズンを通しての疲労も蓄積していたり、(失速には)いろいろな原因があったと思います。今年は最後まで優勝を目指して、戦い抜ける展開にしていきたいと思います」(完)

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。