
もっと見ている人を楽しませる選手に。新しい船木里奈が挑む2季目のWEリーグ【前編】
Interview
FOOTBALL
2022-23 Yogibo WEリーグは現在、ウインターブレイクを迎えています。3月に再開するリーグ後半戦へ向けて、準備を進めるマイナビ仙台レディース。主将に就任したDF市瀬菜々選手にお話を伺いました。「サッカーを楽しみながら、強くなっていきたい」というキャプテンの思い、プライベートや心に描く将来像も聞かせてくれました。(前後編)
―WEリーグの2季目、前半戦が終わりました。今季はどんなシーズンにしたいと思ってここまで進んできましたか?
「昨季よりも楽しみたいですね。私もそうですし、チームみんなが個性を出し、生き生きしてプレーできるチームになればいい。そうすれば、勝てるチームになっていくと思います」
―WEリーグ初年度とは異なる実感がありそうですね。
「昨季WEリーグが始まり、マイナビ仙台レディースは選手みんながプロになりました。プロ選手になるということには、責任も生まれました。初めに『プロって何だろう?』ということを考えましたが、その時はすぐ答えが出ませんでした」
―確かに、どういう人が「プロフェッショナル」なのかということは難しい問ですね。
「私はメンタルトレーニングを受けているのですが、その先生に『意識が高い人がプロなのだとしたら、私はプロという感じではないんですよね』と話したんです。でも『あなたが一番大事にしていることが楽しむということ。それもプロの一つだよ』と言われました。誰よりも楽しんでサッカーを続けていたら上手くなっていくと言ってもらえて『これでいいんだ』と思うようになりましたね」
―それは心強い言葉ですね。市瀬選手はサッカーに取り組んでいて、どういう時に一番「楽しい!」と思いますか?
「練習は基本的に楽しいです。プレー面では、思い通りにボールを奪うことができたり、攻撃時にポジショニングを工夫することで相手をはがすことができると『あぁ、楽しい!!』って思いますね」
プロについて考えたWEリーグ1年目があり、答えを見つけ始めた今季がある
―市瀬選手らしいです。今もサッカーを楽しむことを大事にされていますが、「サッカーが楽しい」という思いの原点は、どこまでさかのぼりますか?
「小学校、中学校の頃は何も考えずサッカーをしていました。上手くなりたいという思いは強かったです。男子チームでプレーしていたのですが、中学生の最後には、どうしても男子選手にフィジカル面で負けてしまうことが多くなりました。そこで、フィジカルで負けないプレーの方法を考え始めました。それが今の持ち味であるポジショニングや予測につながっていったんですよね」
―今の市瀬選手のプレーの原点ですね。
「はい。そして高校時代、世代別の日本代表に選ばれ、そこで学ぶことが本当に多かったんです。代表は特別な場所です。ポジショニングの大事さを更に学ぶことができましたし、自分の良いところを必要としてもらえました。代表に選ばれたいと強く思い、マイナビに入ってからも頑張ってきました。そう考えると、楽しさが大事と思うようになったのは、割と最近かもしれません」
―日本代表ではアンダー世代から活躍し、2019年には、なでしこジャパンで「FIFAワールドカップ2019フランス」にも出場しました。またその舞台にたどり着きたいという思いはありますか?
「ワールドカップには、また行きたいと思いますね。(フランス大会は)もう4年前なんですね」
―初めて出場したフル代表でのワールドカップ。市瀬選手にとってはどのような時間でしたか?
「私は元々、緊張するタイプではないんです。ワールドカップでも試合の時はあまり緊張しませんでした。でもスタジアムに着いて、ロッカールームに入った時に『あぁ、やっぱり違うな』と思いました。広さや規模が違うんです。最初の試合が行われた会場は、パリ・サンジェルマンのホームスタジアム、パルク・デ・プランスでした。そこは感動しましたね。とても綺麗で、全てが整っていました」
ワールドカップ経験者。代表としてプレーする誇りを知っている
―昨年カタールで開催された男子のワールドカップはどんな風に見ていましたか?
「いろんな国のサッカーを見ることができました。日本はドイツに勝利しましたが、私にとっては、ドイツの上手さも勉強になりました。一人のサッカー選手として試合を見ていて、学びの大きい大会でした」
―そういう時はファン目線ではなく、プレーヤー目線で試合を見るんですね。
「はい(笑)でも、見ていて、ついつい熱くなる瞬間もありますね。どの国の戦いもすごいと思いますし、最後には選手を応援したくなっている自分がいます。私もそういう試合をしたいと思います」
徳島県出身。阿波踊りはお手の物? と思いきや、実はほぼ踊ったことはないそう
―プライベートのお話も伺っていきたいです。今季は「英語を頑張る」とクラブのオフィシャルホームページに書いてありました。どのように勉強していますか?
「頑張ろうとは思っているんですが、実はなかなか手を付けられずにいます(笑)勉強は苦手です。教材も買いましたし、YouTubeでもいろんなチャンネルを見ているんですが……」
―取り掛かろうとはしていると(笑)今季はチームメートにスラジャナ・ブラトヴィッチ選手(モンテネグロ出身)やポンピルン・ピラワン選手(タイ出身)の選手がいるので、英語を日常的に使う機会も多いのではないですか?
「はい。ウィユー(ピラワン選手の愛称)と会話していると『菜々の言葉が難しい』と言われるんです。試合の時も、伝えたいことを英語で通訳するんですが『日本語が多すぎて難しい』と。頑張ってはいるんですけどね……」
―ピラワン選手とのコミュニケーションは英語ですか?
「ピッチ上では、ほとんど英語ですね。普段の会話の中で難しいと言われたのは日本語の『ほぼ』という表現です。『やちゃ丸(市瀬選手の愛犬)の散歩は毎日行くの?』『ほぼ毎日いくよ』『ほぼって何?』みたいな感じです(笑)その“ほぼ”が説明できなくて」
―訳せないわけではないですが、日本語には訳しにくい表現、あいまいな表現が多いですよね。ピラワン選手との会話以外のシーンで、英語を学びたいと思ったきっかけはあったのですか?
「いえ、英語が話せたら、今後の人生で役に立つかなと思ったんです。サッカーとは別の夢で、将来的にはカフェを開きたい。その日に備えて『野菜ソムリエ』の勉強もしようと教材を取り寄せました」
サッカー選手としても、プライベートでも楽しむことを大事にしている
―興味の幅が広いし動きも素早いですね。野菜ソムリエの資格を取るんですか?
「カフェを開くなら料理も出したいし、資格を持っていた方が良いかなと思って。料理や栄養のことには興味もありますしね」
―夢は広がりますね。どんなカフェにするんですか?
「ドッグカフェで、ランチも楽しめるような店にしたいです。実は定休日もすでに決めています(笑)火曜日、金曜日です。土日は営業した方がいいかなとか、(サッカー選手の)私たちのように月曜がお休みという業種もあるので、月曜はお店を開けようとか考えています(笑)」(後編へ)
Photo by 土田有里子
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。