
2年目のWEリーグで『台風の目』に。本能のストライカー矢形海優は、ゴールも勝利も渇望する【前編】
Interview
FOOTBALL
「マイナビ仙台レディースの元気印」、FW船木里奈選手がピッチで生き生きと躍動しています。開幕戦で待望のWEリーグ初ゴールを挙げると、ここまで3ゴールの活躍を見せています。ピッチの中でも外でも人を楽しませるのが大好きな人気者。思うように結果を出せなかったWEリーグ元年から、今季の船木選手は何が変わったのでしょうか?その言葉から秘密を探っていきます。(前後編)
―今シーズンはここまで、WEリーグ初ゴールも含めて3得点。順調にゴールを決めていますね。
「そうですね。良い意味で本当に何も考えていないんです。昨シーズンは、試合に出ていましたが、出ていないようなものでした。役に立てなかったなと思っているんです。負けている時や同点の時、ゴールが欲しいという時に松田さん(岳夫監督)に呼ばれるんですが、ゲームをひっくり返すことはできませんでした。チームの流れを変えることができなかったので、個人的には『本当に試合に出ていた?』という感じのシーズンです」
―しかし、今季は順調に試合出場の時間を伸ばしていますね。
「今年は選手の人数が少なく、一人一人が松田さんとコミュニケーションを取る回数も増えました。人数が少ないからこそ、みんなで一緒にできることもあると感じています。少ないながら、良い競争もできていると思います。今季はシーズン前から『スタメンで試合に出て、ゴールを取る』と決めていたので、それができているのは良かったと思います。それもあって自信がついたのかな。去年とは違う自分を見せることができていると思っています」
―途中から試合に出場して、流れを変えることができていますね。
「昨シーズンはもう過去のことなので、自分の中では一度リセットして、違う自分を出せています。自分の良さや足りないところを見つめ直した上での“船木里奈”がこうなんですよね。ただそれだけです」
―今、プレーする上で意識をしていることはどんなことですか?
「守備ですね。松田さんや(中島)依美さんに、守備の切り替え、特にボールを取られた後の部分は、『もっと速く』と言われていました。そういうところは意識していたんですが、なぜ流れを変えられるかまでは自分でわからないです。“新しい船木里奈”なんだと思います」
新しい自分と出会った今シーズン。まだまだゴールを決めたい
―シュートの威力が増したように感じます。特別なトレーニングをしているのですか?
「パンチ力があるらしいですね。(GK齋藤)彩佳さんにも『里奈のシュートは痛い』って言ってもらいました。特別なことはしていなくて、キックが弱いから脚の筋肉をつけるということもしていないです。大学生の時から『お尻が使えていない』と言われていたので、その筋肉を効果的に使うためのトレーニングを杏さん(山守杏奈フィジカルコーチ)に教えてもらったり、全身を鍛えるということはしています。キックに関しては高校時代から、男子サッカー選手の蹴り方をよく見ていたんです。その頃はセンターバックをやっていたので、ロングボールを蹴る時に『どうやったらもっと遠くへ飛ばせるんだろう』と考えていました。目の前で練習している上手い選手の蹴り方を見て、真似をしていました。男子サッカー部には友達もいたので、蹴っている様子を見ていました」
―真似をして再現できるものなんですか?
「はい。小学校の頃から人を見て真似ていました。スポーツ少年団の上手い選手のプレーを見ていました。マルセイユルーレットという技があるじゃないですか。それを見て格好いいなと思って、何度も練習してやってみました。相手を抜くことができるようになりました」
―真似をして自分のものにしていく。そういうところから“今の船木里奈”が作られているんですね。
「YouTubeでネイマールの動画を見たり、『サイドだったらこうやって仕掛けたらいいんだ』『これやってみたら楽しそう!』と思ってやってみたら体でできちゃうんです」
チームのムードメーカーでもある船木選手。どんな時も一緒にいる人を楽しませる
―見て吸収できる船木選手は今年のワールドカップは楽しめましたか?
「見ていました! 決勝もちゃんと見ましたよ。あれがワールドカップです。すごいですよね。意地と意地のぶつかり合いです」
―エムバぺ選手(フランス代表・PSG所属)が大好きなんですよね。
「めっちゃ好きです! スマホの待ち受け画面もエムバぺです。誰よりも足が速いから、見ているだけで楽しいですよね。あれだけ足が速ければ何も怖くないんじゃないかな。ペナルティエリア内での仕掛けや切り返しが速い。あんなプレーが出来たら楽しいだろうな。そこでシュートを打つの? と思います。レベルが高いし、プレーの質も良い。自分ならふかしてしまうようなボールも、ちゃんと抑えて点が入る」
―「見ていて楽しい選手」というのは、船木選手も目指すところですよね。
「そうですね。エムバペのようなプレーが出来たら、見てくれる人たちを本当に楽しませることができるんだと思います。12月の東京NB戦(天皇杯4回戦)も負けてしまいましたが、『後半、見ていて面白かった』という声を頂きました。負けてしまったとしても、流れを変え、一人の選手でも『見ていて楽しい』と思ってもらえたとしたら嬉しいです」
ゴールが遠かった過去2シーズン。今は自信を持ってピッチに立っている
―過去2シーズンはなかなか結果も出ず、苦しい時間もあったのかなと想像しています。
「自分ってここまでかということは、過去の2シーズン通して思っていたことです。だからこそ、去年までのことは一度忘れようと思えました。そこまでの自分をリセットして、トレーニングや自主練、筋トレを変えてみたり、練習中にゴールや切り替えを意識してみたり。単純なことですけど、それが成果として出たんだと思います。それだけです。それ以外は特別なことはしていないです」
―積み上げてきたものを一度リセットする、これは簡単なことではないですよ。
「過去のことは引きずらないです。何でもポジティブに考えられる性格なんですよ。負けたけど、次に勝てばいい。そういう考え方をしています。もちろん悔しいですけど、次の練習が始まる前までに切り替えることにしています。今年はそれでずっとやってきています。上手くいかなくて怒られても、次に繰り返さなければいい。もっと怖がらないで、思い切りプレーしたらいいのかな? とか考えます。落ち込む時はしっかり落ち込みます、そして切り替える。中途半端に落ち込むと良くないんです(笑)」
―松田岳夫監督からは厳しいことも言われますが、船木選手は本当に仲が良い。不思議な師弟関係がありますよね。
「良く言われるんです。『松田さんにあんなことできるの、あんただけだよ』って」
―ピッチサイドで雪玉をぶつけ合い、プロレスしてますよね(笑)船木選手はWEリーグ初ゴールを決めて、真っ先に松田監督に抱きつきに行きましたね。
「みんなやったらいいんですよ(笑)松田さんは全然怖くないですよ」(後編へ)
Photo by 土田有里子
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。