
新たな仕事は『まちをクリエイト』すること。元サッカー選手・田村直也が描くキャリアと仙台の未来【中編】
Interview
FOOTBALL
現役時代にはボランチやサイドバックなど様々なポジションで闘志あふれるプレーを見せた田村直也さん。FWとして優れた得点感覚でゴールを決め、北は青森から南は鳥栖まで日本全国でファンの心を掴んだストライカー萬代宏樹さん。それぞれの視点から2023年の戦いにつながるヒントを頂きました。
―ベガルタ仙台は2021、2022年と2年連続でのシーズン中の監督交代となりました。お2人も、現役中に監督交代は経験されていますね。どんな難しさがありますか?
萬代:仕方がないことではありますが、選手は責任を感じますよね。ただ自分のことで言うと、試合で使ってくれていた監督が変わるのはリスクでもありますけど、試合に出られていない状況だと「チャンスが来るかも!」というマインドになるかもしれません。監督が代わったことで新鮮に、新たな学びも得られます。個人のことだけを考えれば、ですけどね。また新たな監督の下で新たなサッカーができるという喜びが大きかったかな。監督が代わって、その監督の戦術が浸透していなくても、2、3試合連勝するということもあるんですよね。
田村:現役中の監督交代は、試合に出ていても出ていなくても不安なところがありましたね。いい意味でも悪い意味でも「変えていく」というメッセージなので。
今、現役を終えて思うのはいろんな監督とサッカーができて良かったということです。交代がシーズン中なのか、シーズン後なのかということに関わらず、ですね。
クラブ目線で考えると、原崎政人さんも伊藤彰監督のように、昨年残り2試合で手倉森誠さんから代わって就任しました。その意図の説明は本当に必要だと思うし、原崎さんと昇格するということだったのであれば、もっとディテールにこだわって欲しかったなと。かなりもったいない1年だったなという感じがします。
―2022シーズンの序盤は少し乱暴な言い方にはなってしまうのですが「勝ててしまった」んですよね。
萬代:そうですね。僕は現役時代に後悔していることはないのですが、一つやっておけば良かったと思うことがあるんです。それは、2007年に14ゴール取れましたがその時に「自分はなんで点を取れたのか」をもっと分析することでした。その時は「点が取れている、調子がいい」というイメージでサッカーができているからポンポン取るし、点が決まらなくても「たぶん、またいつかは取れる」という感覚でやっていたんですよ。そしてリーグやサッカーのレベルが上がって、点が取れなくなった時に「あれ、点が取れない。あの時は取れていたけど、何でだ?」と悩んでしまうんですよね。「自分はこの形で点取れていたから、この動きをした方が、ここにいた方が点を取りやすい」ということを把握しきれていなかった。だから上手くいかなくなった時に迷ってしまった。
―2008年に当時のJ1ジュビロ磐田に移籍しましたがその時はどうでしたか?
萬代:ジュビロ磐田に行った時は、対戦相手のレベルが高くても味方のレベルも高いので、走っているだけでいいパスが目の前に落ちてくる感じでした。そこで自分で考え、工夫を怠る状況に陥る可能性がある。自分はちょっとそうだったんです。甘えてしまったわけじゃないけど、点も取れて練習も毎日楽しい。自分が要求したところにパスが常に来る。では自分はどう考えて、そこに動き、パスをもらったのか。その頃はまだ21、22歳だったので、何も考えず動くままにやっていました。それをチームとして大きく考えると、今どういうことが良くて、それが起こっているのかを考えることが大切。どういうことが悪くて、失点が多いのか。失点は多くなると細かく突き詰めると思うんですけど、良い時の“好調の理由”をもっと突き詰めること。個人でもそうだし、チームとしても通ずるものがあるのかなと思いますね。
―ゴールやいいプレーがあった時に、自分で上手く説明できる選手もいれば、そうではない選手もいますよね。インタビューでも「いいボールが来たので当てるだけでした」とか。それぞれの個性もあるので、それはそれで良いのですが、選手がプレーを理解し、解説できるとしたら大きな能力じゃないですか?
田村:そうですね。要するに、チームとしてサッカーの“再現性”があるかどうかなんです。例えば、得点の狙いというものが、仮に5つ位あるとして、果たしてその通りのゴールなのかどうか。あとは相手があることなので、相手をどう引き出せたのか。そのゴールがチームの狙いに当てはまるのであれば選手もしゃべりやすいでしょうしね。時にはなんとなく決まってしまうゴールも、もちろんあるので。やっぱりチームの意図した形のゴールであればそれは一番良いゴールだと思いますね。サッカーへの理解力がある選手は語れます。
―今は選手にとって、あらゆる情報を得られる良い環境があります。データを引き出せ、映像も自由に見られて、アナリストがいるチームも。以前に比べて整ってきてはいると思うんですが、解説能力も含め、Jリーガー全体のサッカーへの理解は上がっていると思いますか?
田村:僕は(高い選手、そうでない選手の幅が)とても広がっていると思います。理解能力の高い選手は、しっかり高い。変わらない選手は変わらない。その変わらない選手は身体能力でサッカーができてしまう選手なんです。もう選手として突き抜けている人は、やっぱり身体能力も意識も高いので、海外のサッカーも見ながら全てのベースは高いところにあると思います。身体能力で活躍できるJ2。J1に行くと、それはありきで更に上手さが求められる。プラス頭良い選手、サッカー脳の高い選手が一つ突き抜けていくのかなと思います。
萬代:その通りですね。自分はもう、本当に選手時代には感覚でやってたから(笑)FWなので、「ここにいたらボール来るだろう」とか、「ここにこぼれてくるな」みたいな感覚でやっていました。
田村:それも、とても大事なことだよ。
萬代:ラインメール青森FCでプレーした現役最後の1年間は、監督が安達亮さんだったんです。戦術やサッカーの考え方など、そこで初めて学んだことも多かったです。その上で今解説の仕事を頂いて、いろいろ試合を見ていくと「こうなるんだ」と、ものすごく勉強しているところです。感覚でやってしまう選手はFWに多いのかな。やっぱり今になって思うと、トップクラスの選手、僕の一番近くで言うとジュビロの前田遼一さんはFWとしての感覚もありつつ、飛び抜けて考えていた人でした。田村さんが言うように、フィジカル的にもサッカー脳も良い人がトップレベルへ行くのかなと感じましたね。
―伊藤監督がラスト8試合を経て、これから構築していくものや今シーズン見せたものについてはどう思いましたか?
萬代:そうですね。(第36節)栃木SC戦の可変式のようなシステムは見ていても面白いし、恐らくやっていた選手たちもそうです。相手からしても嫌だったと思うし、何より選手の特長を存分に引き出していたというイメージがありました。若狭大志選手が中でもプレーできるCBだし、真瀬拓海選手と蜂須賀孝治選手は上下動が大好きなタイプ。真瀬君はFWの位置にいた位ですし。その分、中山選手の周りにいる選手が増えて、やりやすかったと思います。伊藤監督としてのやりたいサッカー、いろいろと動きながらやるサッカーに加え、選手個々の良さを引き出せるようなシステムや戦術を持つことができれば、チームとしてのベースがもう一つ上がるんじゃないかと思うんですよ。例で言うと、1トップで中山選手はやっぱり外せないので、富樫敬真選手が左サイドハーフをやっていました。富樫選手ももちろん器用だと思うんですけど、彼が最も生きる場所ってやっぱり一番前です。中山選手も外せない、富樫選手も使いたいとなった時に、富樫選手を左サイドハーフに置くという選択肢になるんですけど。残り数試合になって、2トップにした時にやっぱり富樫選手の良さが生きたし、逆にそれによって中山選手も生きる。選手は監督から信頼してもらうから、そのポジションを全力でやりますが、それでも適性があると思うので、伊藤監督のベースにプラスして選手の特徴を生かせる配置ですよね。
―選手の特徴を生かすというところで考えると、(第41節)ロアッソ熊本戦ではそこまで出場機会に恵まれなかった3バックの左で福森直也選手が良さを出しましたね。
萬代:そうですね。チームのベースがある上で、選手の適性をうまく使うことによってもう1段ベースがアップする。更に、そこへ個の能力で戦えると思います。やっぱり適正ポジションって大事だなっていうのは、自分が現役をやっていた時もそうでしたし、今回の富樫選手の例を見てもすごく感じましたね。
―田村さんは今季を踏まえての伊藤監督の描く来季のベガルタをどう見ていますか?
田村:伊藤さんは“ポジショナルプレー”をやりたいというところで、ベースは4-4-2とか、4-2-3-1でやっていた中で、3バックを自分の色で入れた。その一角に福森選手を入れて、右には若狭選手や蜂須賀選手など、ある程度ボールを握れて運べる選手を入れたというところが来年に向けてのメッセージだと思います。大分トリニータから小出悠太選手が来季入ってきて、後ろからボールを繋いでいくというところが大きいかなと。
今までだと、平岡康裕選手やキムテヒョン選手を起用しながら、ある程度守備メインでカウンターを繰り出していたところを、福森、若狭、蜂須賀で運ぶということ。あとはフォギーニョ選手を一列前に出したり、遠藤康選手の使い方も、守備負担を軽減するようなところに置くとか。かなり監督のメッセージだなというところはあるので、来年はボールをしっかり後ろから繋いでいくというスタイルにチェンジするのかなと思います。エヴェルトン選手も獲得しましたし、FWも絶対取ると思う。アグレッシブに行くということと、後ろからつないでいくというところがポイントです。
最近の監督のコメントでは「守備」。練習でもかなりやっていると思います。守備は一人の能力だけではできないから、全体の走る走行距離をまとめるということがポジショナルプレーなんですが、その意識統一をできればもっと効率良く、攻撃に行く体力を残せると思います。それが期待できると思っています。
―お2人が見る2022年のシーズンMVPは誰ですか?
田村:僕はフォギーニョ選手、一択です。良くも悪くもゲームを動かせる選手です。ボールを握りながら進めるチーム同士の対戦は、0-0等堅い試合になるんですが、彼がいることによって、ある程度自分たちからスペースを空ける、相手のスペース空けさせるみたいなことができる。そうすると、“ラン&ガン”みたいな試合になります。彼がいる試合を僕は期待して見られるし、来年に対しても期待できます。活躍した選手で言うと、中島元彦選手とか氣田亮真選手、中山仁斗選手と、たくさんいるんですけど、やはり「フォギーニョありき」で崩れたところにスペースを使っているという感覚で見ているので。守備的なボランチからすると、コンビであれぐらい前に行ってくれるボランチってとても助かるんです。相方が中島選手ということが多かったし、どっちも前に行けるんですけど、富田選手や吉野恭平選手タイプだと、フォギーニョ選手はやりやすい。ミスもするんですけど、基本的にゲームを動かしてくれるという意味で、とても大事だと思います。
萬代:僕もフォギーニョ選手が浮かびました。残り数試合を見て「フォギーニョってこんなに凄かったんだ」と。序盤はそこまでのインパクトは感じませんでした。残り数試合で少し高い位置に入った時に、プレッシングのかけ具合、戻りの速さを見て、あれだけ動いてくれる選手が一人いたらいいなと思いました。FWとしてはあそこまでボランチが来てくれると、やりやすいんです。守備も来てくれると信頼がある。後ろが来てくれるかわからないと行くに行けない。良くなかった試合は、どこからプレスをかけていいかわからないまま、自陣までずるずる下がってしまった。……でも、タムさんと同じフォギーニョ選手だとつまらないですよね?(笑)
―ご自身が感じたところを率直に応えて頂いて構いませんよ。
萬代:そうですね(笑)あとは、中山選手は同じFWとして、自分が持っていなかったものをたくさん持っているのでうらやましいと思いました。あれだけアグレッシブに守備もできるけど、ボールも収まる。徳島戦の真瀬選手のゴールも中山選手がしっかり真ん中で3、4人集めて、散らして外からクロスを上げて決まっているんですよね。自身が14点取りながら、ゴールの起点にもなれるFWってチームとしては大きい存在です。中山選手を外せない監督の気持ちもよくわかります。自分は点を取ることだけを考えてプレーしていたので、ポストプレーも得意ではなかったですし。高い位置だけではなく、中盤の低い位置でボールを奪った時も、ハーフウェーライン辺りで収めてマイボールにしてくれる。得点以外での貢献も大きかったですね。
―J2の面白さ、難しさもありました。今年を踏まえて来年への期待を聞かせて頂けますか?
田村:やっぱり序盤が良くて首位にもいたので、本心から「もったいないシーズン」だったなと思います。では何がだめだったのか。夏場の戦い方と、ボールを握って体力を消耗しないような戦い方もあったのではないかなと思います。ただ、モンテディオ山形がプレーオフに行ったことを考えると、東北で仙台だけがJ1に行ける可能性があったわけではないので、危機感を持ってもらいたいですね。
萬代:そうですね。僕は山形にも行かせてもらっていたので、例を出すと、山形は1年を通して徹底していたんですよ。ワイドに張って、どんなに研究されてもそこで打開しようとしていた。プラス、夏に樺山諒之介選手やディサロ燦シルヴァーノ選手など的確な補強ができました。その流れのまま最後に連勝して上がってプレーオフに行っているので、仙台もしっかりした土台があれば、そこに補強した選手が加わってベースをアップできると思います。
田村:ジュビロ磐田、清水エスパルスがJ2に降格して、来年の戦いもより難しくなると思います。でも、補強を見ると「来年行けそうだな」って感じるので、楽しみの方が大きいです。戦術的に再現性のあるサッカーを伊藤さんがやってくれると信じているので期待したいです。
萬代:解説の勉強目線で考えると、栃木戦はすごく面白かった。玄人にも、初めて観る方にも面白いサッカーだったと思います。残りホーム2試合は客として観に行ったんですけど、熊本戦みたいにみんながアグレッシブにやる試合は、心を動かされます。勝利につながるプレーだと思うんですよね。解説目線でも、観客目線でも楽しいサッカーを見らればいいなと思います。熊本戦であれができたということは、シーズン後の練習でも徹底してやってきただろうし、守備もやっていると思います。何事も徹底することが大事だと思います。戦力的にも今からワクワクしますしね。
―大卒ルーキーではオナイウ情滋選手も入団しますしね。
田村:彼は良いですよ。
萬代:エヴェルトン選手にも浦和レッズサポーターが期待を寄せていると聞きました。もちろん楽しみですよ。来年もまた仙台を応援できるんだなと思うと嬉しくなります。
―たくさんの興味深いお話をありがとうございました。お2人は2023年をどのような年にしていきたいですか?
田村:仙台に戻ってきて3年が経ちます。新たなチャレンジを形にする年ですね。よりアグレッシブに、伊藤さんのサッカーのように、やっていきたいなと思っています。サッカーのことでいうと、自分が解説などで関わった試合を通して「選手の価値」を上げられるようにしていきたいです。質の高い仕事を提供していきたいです。仙台ってやっぱりいい街なので、来てくれた選手たちも伸び伸びできるような支え方もしたいです。(選手時代に東京ヴェルディで一緒だった)若狭選手が仙台に来て、やりやすいようにコミュニケーションを取ることを今年はできたと思うので、来年も選手とも関わっていきたいです。自分自身のことでもいろいろとチャレンジしていく年にしたいです。
萬代:僕も来年は枠にとらわれずチャレンジしていきたいです。今年は、自分のやらなければいけないことにいっぱいいっぱいになってしまったのですが、解説やイベント出演、取材を受ける中で、自分にできることをどんどん広げていきたいなと思っています。それはサッカーに限らず、サッカー以外の部分でもそうです。一人の社会人としてできることを増やしていきたい。自分がどうなりたいか、どう在りたいかを考えて進んでいければいいと思いますし、田村さんのような素晴らしい解説ができるように成長していきたいです。(完)
Photo by 土田有里子
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。