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ベガルタ仙台放談2022【前編】ベガルタ仙台OB 田村直也×萬代宏樹

2022年のJリーグが幕を下ろしました。13年ぶりにJ2の舞台で戦ったベガルタ仙台は7位でシーズンを終了。目標としていたJ1復帰は叶いませんでしたが、新シーズンへの動きはすでに始まっています。今季の戦いをOBとして、解説者として見守った田村直也さん(2007~2013在籍)、萬代宏樹さん(2004~2007在籍)のお2人に振り返って頂きました。来季の戦いのポイントや希望も伺いました。(前後編)

 

ベガルタ仙台OB、それぞれの2022

―今日は2022年のベガルタ仙台について振り返っていきます。まずは、お2人のこの一年について聞かせてください。田村さんは解説者としても各地を飛び回っていましたね。

田村:そうですね。でも基本は本職(株式会社エルエスシーにて解体・建設業)のサラリーマンというところだったのですが、そこでもベースアップはしました。現役を引退してプロ生活を始めた仙台に戻り、約2年8ヶ月をサラリーマンとして過ごして充実していました。以前のインタビューで「街をクリエイトしていく」ということを話していて、そういう方向には進んでいるのかなと思います。自分がいろいろな人の「ハブ」として、できる限りのことはしてきました。その中にサッカーというエッセンスがあって、自分のためだけではなく、人のために活動したいという思いがあります。

―講演会やサッカー教室の講師等、本当に活動は多岐に渡りました。

田村:止まれないんでしょうね、基本的に(笑)自分も学びたい、学び続けたい。人のことを言うからには、自分がしっかりと責任を持った学びを得なければいけないと思っています。良いインプット・アウトプットをして、言葉に責任を持たせる。それが必要とされれば、仕事となりますし、必要とされなくても、未来を目指すJリーガーに良い影響を与えられればなと思います。

―Jリーグのサッカー解説にフォーカスをすると、どんな1年でしたか?

田村:自分が関わったチームが勝つと、嬉しいという純粋な思いです。ただDAZNの解説では視聴者を意識して話していますから、自分の私情というのは入れないで、ある意味ドライにやらなければいけないところもあります。選手の価値とか、選手が何を考えながらプレーをしているという点を、1人の視聴者目線で振り返った時に、うまく説明できた部分、まだまだ浅かった部分もあります。今後、1人でも視聴者数が増えれば嬉しいですし、そういった責任も我々出演者が持っていると思います。いろんなことを学べた1年でした。

―東北各地でほぼ毎週、解説の割り当てがありましたよね。それはすごいことですよ。

田村:たまたまな部分も多いですよ。自分のサッカー選手としての経験でしか語れないのですが、自分の売りはいろいろポジションでプレーできたっていうこと。あらゆるポジションの選手の気持ちがわかるということが特徴です。その幅はもっと広げなければいけないですね。
自分が今行動し続けてるのは、いろんな人の例えば選手のセカンドキャリアに向けてとか、指導者目線でも語れるように、いろんな言葉の重みを持つために様々な活動をしているというところもあります。

ベガルタ仙台OB 田村直也×萬代宏樹

 

―萬代さんは現役を引退して初めてのシーズンでしたね。改めて、今のお仕事について教えて頂けますか?

萬代:ソーシャル事業やスポーツ事業を手掛けるリーフラス株式会社に入社して、今はメインとしてサッカースクールの指導員をしています。午前中は事務作業や小学校の校門前でスクール生募集のチラシを配ったりします。月曜日から金曜日まで週5日、夕方にスクールで子どもたちにサッカーを教えています。プラス土日にイベントに参加するなど、怒涛の日々です(笑)

―イメージしていた引退後の生活と、実際に新たな生活が始まってのギャップや実感というのはいかがでしたか?

萬代:新しい生活は大変だろうとは予想していました。大変ではありますが、やはり僕は人にも恵まれています。会社の方々も良くしてくださって、仕事をしやすい環境を作ってもらっています。取材を受けたり、テレビの仕事やイベントに呼んでもらうことも少しずつですが増えてくるようになってありがたいです。充実していますね。

―確かにテレビ出演や解説の仕事も増えてきましたね。

萬代:そういうことも好きなので、番組やイベントに呼んで頂けるとすごく嬉しいですね。疲れていても「今日は解説の仕事だ」とか「テレビに出られる」と思うと活力になります。とても良い刺激になっているので、ずっと続けていきたいです。

―メディア活動は新鮮な気持ちでできているんですね。

萬代:選手の頃は、取材を受けるのが当たり前な状況だったんですけど、現役生活から身を引いた自分にも、お話を頂けるということはありがたいことです。それはしっかり、期待に応えていきたいですね。

―今年は仙台を拠点として、現役時代に活躍した山形や生まれ故郷の福島でもお仕事をされました。萬代さんは選手として全国を巡ってきたので、いろいろなところから声がかかりそうですよね?

萬代:それを期待はしてるんですけどね(笑)18年間サッカー選手をやってきて、その内11年間は東北のチームにお世話になりました。高校サッカーや育ちも含めると、ほぼ東北でやってきたので、東北で仕事できるということはすごく嬉しいです。個人的にも仙台だけじゃなくて、東北のサッカーのためにやっていきたい。東北の盛り上げ、活性化の力になりたいという思いがあります。今までお世話になった土地を何かの形で応援するということは、これからもずっと続けていきたいなと思います。

ベガルタ仙台OB 田村直也×萬代宏樹

―そんなお2人は現役時代、2007年にベガルタ仙台で1年だけ一緒にプレーしていました。

田村:俺が2007年に入団したから。

萬代:一緒にやったのは1年だけなんですよ。

田村:1年だけなの? 1年だけという感じがしない。

萬代:(田村さんと同い年の)細さん(細川淳也・FC今治)が、2006年から特別指定選手として来ていましたから。

田村:俺が1984年生まれ、バンは85年生まれの年代でしょ?

萬代:はい。86年(の早)生まれなので、85年生まれの代です。タムさんと同じ代は、細さん、中原さん(貴之・仙台ユースコーチ)、(中島)裕希さん(町田ゼルビア)、菅井直樹さん(ベガルタ仙台地域連携課スタッフ)……。

田村:飛弾(暁さん、2019年現役引退)とか。曲者ばっかりだね(笑)でもやる時はやる奴ばかりです。

萬代:仲が良かったですよね? 集まりが良かった。

田村:バンたちの代もすごいよね。関口訓充(南葛SC)、関憲太郎(レノファ山口)、西山貴永(横浜FC戸塚U-15監督)……。そっちはそっちで、癖が強い。

萬代:本当に(笑)

田村:もう一つ下が……。

萬代:富田晋伍、渡辺広大(ザスパクサツ群馬)、大久保剛志(タイプレミアリーグ・ネイビーFC)。

田村:個性の集まりですね(笑)俺ら、頑張っていた世代だよね。

萬代:確かにそうですね。

―その頃のお互いをどう見ていましたか?

田村:俺は大卒でプロになり、既に高卒で入団したバンは、プロとして活躍していました。高卒でプロになった選手たちに対して、俺は頑張らなきゃいけないなっていう立ち位置でした。(年齢では)後輩の富田晋伍に対しても、彼が先輩という感覚でプレーして『早く追いつかなきゃ』という意識がありました。羨ましさもありました。2007年は達也さん(望月達也さん、川崎フロンターレアカデミーダイレクター)が監督になった年で、手倉森誠さんはヘッドコーチ。チームも“これから”という時で非常に楽しかった。バンもこの年は点を取っていたよね。

萬代:一番点を取った年ですね。(14得点)

田村:活躍して、翌年にJ1のジュビロに移籍したよね。

萬代:そうです。

田村:FWのバンや中原、裕希たちが外国籍選手と絡みながら、たくさん点を取っていた。伸び伸びやってくれていて、後ろから支える身としては良かったなと感じていました。

萬代:楽しかったですね。タムさんが入ってくる前の2006年にいた清水康也さん(花巻東高校サッカー部監督)とカンペーさん(富澤清太郎さん、マリノスサッカースクールコーチ)がヴェルディユース出身と聞いていて、めちゃめちゃ最初は怖かったんです(笑)だから、その後に来たタムさんもヴェルディユース出身だし、絶対怖いだろうと。でも物腰が柔らかい人でした。奥さんとの馴れ初めも聞いたりしましたね(笑)

ベガルタ仙台OB 田村直也×萬代宏樹

2022年は13年ぶりのJ2、厳しき戦い

―それではいよいよ、2022シーズンのベガルタ仙台の戦いについて、それぞれ率直にどのような感想をお持ちですか?

田村:原崎監督がやりたいサッカーというと、結構ふわっとしていた印象です。アグレッシブにということと、キャンプではポゼッションして自分たちでボールを握るということを浸透させようとしていました。現実的には、やはりカウンターサッカーでした。前半は得点力がものすごくあったので、ハイプレスが上手くはまった試合はすごく良かったですね。仙台がJ2に降格して、“勝利が当たり前”と言われる立場の中で、選手はよくプレーしてくれたのだろうと。
評価できる部分もありつつ、夏場以降にかなり失速してしまった原因は明らかですね。夏場以降は、対戦相手がやはり体力的に優位になる。というのも、東北はなかなかフィジカル的な要素を上げるのが難しい土地。例年ずっとそうで、我々が現役の時もそうだった。そこでプレスが効かなくなってしまって、「交代枠5人」ということも相手に優位に働いた。トータルとしてはやっぱり難しいシーズンでした。
来年に向けての課題というと、夏場にもっと的確な補強をしたり、自分たちのウィークを改善していかないといけません。シーズン前半の結果だけで昇格ということはないですからね。

ベガルタ仙台OB 田村直也×萬代宏樹

萬代:そうですね。田村さんがおっしゃったように、仙台のサッカーってどうだって聞かれた時に「こういうサッカーです」とはっきりと言えるようなものがなかったかな。前半、調子が良かったのもある程度戦力的にはJ2で上位の方で、個の力でゴールを奪えたから。でもチームとして、ちゃんと点が取れたという場面はそこまで多くなかった気がします。夏場以降の失速も、個の力で打開できなかったり、ゴールを奪えず『チームとしてどこに立ち返るのか?』という時に結構バタバタした感じがします。伊藤監督に代わってからの(第36節)栃木SC戦でしっかり形が見えたので、それはポジティブだなと思いました。ただ、その後それを徹底して前からプレスに行くのかと思いきや行けず、勝てなかった試合はほとんどが『前半0-0でいいんじゃないか』っていうやり方に見えました。結局はその間に失点してしまい、2点目、3点目取られて……。新潟戦などはそう見えました。逆に勝利した(第41節)ロアッソ熊本戦は、アグレッシブにみんなが積極的なプレスをして、高い位置でボールを奪って攻撃を組み立てていた。そういうものをしっかり徹底していければ、もっともっと安定したものになると思います。2連敗、3連敗してしまった時に、1回原点に帰ろうという形があると思う。そういう部分では迷いなくやっていった方がいいのかなと思いますね。

昇格できたチームとの違い。克服されなかった課題

―シーズンの途中、一時は仙台も首位に立ちました。今年J1昇格を決めたアルビレックス新潟、横浜FCと最後まで三つ巴で行くのかなと思っていました。この2チームとの差や違いはどう見ていますか?

田村:昇格した2クラブと、J1昇格プレーオフに進んだロアッソ熊本もそうですが、ある程度自分たちのやりたいことを継続したチームが最終的に上に残っているというのが僕の見解です。そう思うとやはり、シーズンの流れに関係なく徐々に仕上げてきたチームが強いんだなって感じました。
ベガルタはシーズン残り8試合で監督が代わって、来年の話をすると、補強も、監督のしたいサッカーができる選手を早めにピックアップできたことが来年に向けて良かったと思います。サッカーは生物(なまもの)なので、早めに原因分析することは大事です。セットプレーの失点も今年は多過ぎましたしね。それは一番徹底しなきゃいけない。勝敗は細部に渡りますから。
あとは細かいけど、良かった部分をやはり見過ぎてしまったのかなと。

ベガルタ仙台OB 田村直也×萬代宏樹

―良かった部分で言うと、シーズン序盤はよくゴールが取れた。それだけじゃだめなんですね。

萬代:点が取れるに越したことはないので、それがやっぱりチームの一番の勢いになります。ただ、点が取れているときに『点が取れているからいい』じゃなく、では『何で点が取れいてるか』をしっかり考えないといけないと思います。何気なく蹴ったセットプレーで点を取るのと、しっかりデザインしたセットプレーで点取るのって多分違うと思います。それが、その場だけのものなのか、その後も継続できるものなのか。点の取り方というのも、しっかり考えた方がいいのかな。

―ゴールが取れていたから、失点しても挽回できた。2失点して3ゴールするような勝ち方もありました。ただ、やはり失点の多さは最後まで改善されませんでした。

田村:仙台は先制されると、勝率はほぼゼロに近い。細かい話になりますが、得点をして相手が攻めてくると、更にこちらが2点目、3点目を取れるんです。それが今シーズンの得点のパターンだっただけで、実際に0-0で推移するゲームを勝ち切れたかというと、そういうわけではなかった。そう考えると自分たちが逆境の立場になったときに、得点、逆転できる力はなかったんです。だから相手にいかに攻めさせるかっていうところを意図的に作り出せれば、もっと勝率は高くなったんじゃないかなという見解です。
相手に固められたところに対して、自分たちが崩せたという場面は、今シーズンはなかった。ハイプレスで相手のボール保持に対して、プレッシャーかけて高い位置から奪って得点するか、攻めてきてくれたところを奪ってカウンター。プラス、セットプレーというパターンだったので、それはボール握る、ポゼッションを志向するチームの目標としては「×」じゃないかな。ボールを握って相手を動かして、ユニットをずらして、刺して縮めて、みたいなことをやるともっといいんですけど、その時間がなかった。来年に期待したいですよね。(後編へ)

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。