仙台スポーツ
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Interview

FOOTBALL

2年目のWEリーグで『台風の目』に。本能のストライカー矢形海優は、ゴールも勝利も渇望する【後編】

マイナビ仙台レディースのピッチには、誰よりも勢いよくサイドから飛び出してくる矢形海優選手の姿があります。どんなにゴールを重ねても彼女からは「もっともっと」「まだまだ」という声が聞こえます。現状に甘んじることなく、更に高みを目指し続けています。昨年決断した「初めての移籍」、そしてサッカーを始めた子供の頃のことなど、矢形選手のルーツに迫ります。

 

―矢形選手は京都府のご出身ですね。小さい時はどんなお子さんでしたか?

「小さい時はお兄ちゃんの影響もあって、女の子よりも男の子と遊ぶことが多かったです。外で遊ぶことが多かったので、自然と球技が好きになりましたね。やんちゃな子でした」

―「海優(みゆ)」という素敵な名前はどなたがつけてくれたのですか?

「両親です。名前の由来は、両親が、『海』が好きで、『優』しい子に育って欲しいという願いがあったので、こういう感じになりました」

―珍しい読み方の組み合わせですよね。全く同じ漢字で同名の人には、なかなか会わないのでは?

「そうですね。“矢形”という苗字の人に会ったこともないんです」

―珍しいので一度で覚えてもらえそうですね。そんな矢形選手がサッカーを始めたきっかけはどういうことでしたか?

「小学校1年生の時に兄の影響でサッカーを始めました。初めはサッカーをすることを父に反対されていました。兄はすでにサッカーをしていたんですが、自分には『女の子っぽいスポーツをやったら?』と思っていたみたいで。父は剣道をしていて、剣道も勧められました。でも自分が強く『サッカーをやる。絶対に続ける』と言ったので、それを信じてくれて、今はずっと応援してもらっています」

マイナビ仙台レディース 矢形海優選手

自分の意志でボールを蹴り続けてきた。どんな時も応援してくれる家族は最大の味方

 

―中学からセレッソ大阪レディース(現・セレッソ大阪堺レディース)に入りました。

「小学校のチームにセレッソのチームの知り合いという人がいて、『セレクションを受けてみたら?』と勧められたので受けてみました。最初は全く自信がなかったんです。中学校の時に、すごく小さくて、周りの大きい人を見たら自信を失ってしまって……。セレクションの前にも泣いたりしていたんですが、ピッチではいつも通り自分のプレーを出すことができて受かりました。セレッソ以外に、(関西の強豪校の)日ノ本学園(兵庫)や京都精華学園なども選択肢にあったのですが、親元を離れたくなかったんです。寮は嫌だなと思って、自宅から通えるセレッソに絶対受かりたいという気持ちでした」

―セレッソの一員として、チャレンジリーグやなでしこリーグで活躍。10代から大人と対戦するチャンスがありましたね。

「中学時代はベンチ外になることが多く、最初はずっと悔しかったです。『なんでここに来たんだろう』とたまに思ってしまっていました。でも高校1年生の時に、初めて試合に絡んで、ゴールという結果を出すことができました。そこからですね、頑張ろうと思えたのは」

―そこから自信を持って成長できたんですね。

「試合に多く関わるようになってから、自分に自信が出てきました。竹花友也監督がとても良い方で、プレーを褒めてくれました。褒めて伸ばそうとしてくれるし、ダメな時はだめとしっかり言ってくれました。課題に向き合って、しっかりとトライしながらやってこられたのかなと思います」

―セレッソレディースのメンバーは様々なところで活躍していますが、みんな元気の良いイメージです。

「ガムシャラな感じというか、セレッソのプレーはボールにひたむきに走る。楽しいし、面白いサッカーでした。その頃の仲間がみんないろいろなところで活躍しているのも、あの時代があったからかなと思います。ちょっと『サッカー馬鹿』なんです(笑)後のことは考えず、目の前のことに立ち向かうという感じですね。だから、めちゃめちゃ楽しかったです。仲も良かったですね」

―当時のメンバーとは連絡を取り合ったりしているんですか?

「毎日連絡はしていますし、オフには集まって遊んだりしています」

マイナビ仙台レディース 矢形海優選手

セレッソで磨いてきた感覚を、マイナビで更に研ぎ澄ませ、よりゴールを奪えるストライカーに

 

―J2ベガルタ仙台にも、今年はセレッソ大阪出身のMF中島元彦選手が育成型期限付き移籍でやってきました。セレッソ時代からのつながりがあるようですね?

「もっくん(中島選手の愛称)と最初に会ったのは高校くらいですかね。セレッソ大阪レディースでもっくんと仲良しの選手がいて、そこからお互い挨拶するようになりました。でも、よく話すようになったのは、もっくんが仙台に来てからですね」

ベガルタ仙台の中島元彦選手とは旧知の仲。
マイナビ仙台レディースとベガルタ仙台の公式Twitterではコラボ企画も実施した。

―中島選手の仙台での活躍はどう見ていましたか?

「本当はもっくんはFWの選手なんですけど、ボランチに定着してすごい。キックのパンチ力が誰よりも高い。ベガルタの中心選手として、チームに欠かせない選手になったと思います。もっくんのシュートは、やばい。威力がすごいですね。高校の時はずっと筋トレをしていたって言っていました。『男子は筋トレが大事』って。そんなに背も大きくないので、筋トレで筋肉をつけて相手に負けないようにしていたのかなって思います」

―長く所属したセレッソを離れて、WEリーグで仙台へという大きな決断をしたのが昨シーズン。移籍はどのように決めたのですか?

「WEリーグでプレーしたいという気持ちが強かったです。セレッソを離れることは辛かったし、親元から離れることも不安でした。でもマイナビ仙台レディースが声をかけてくれました。声をかけてもらった以上は、行きたいと思いました。初めての移籍、プロ契約。そこで成功しても失敗しても、『自分で決めたから大丈夫』と両親も強く言ってくれました。頑張ろうと思いましたね」

マイナビ仙台レディース 矢形海優選手

マイナビから風を起こす。3強の牙城を崩したい

 

―本当に頑張りましたよね。その1年目で7得点。チームでは2番目の成績でした。しかし、矢形選手にとってはこのゴール数では足りないんですよね。

「はい。まだまだ、足りないですね」

―昨シーズンチームは5位という成績でした。女子サッカー界の勢力図を考えると、ここしばらくはINAC神戸レオネッサ、浦和レッズレディース、日テレ・東京ヴェルディベレーザの『3強時代』が続いていますが、そこを崩すために必要なことは?

「毎試合勝って終われるということが一番だし、どんな相手にも個人としては1対1で負けられないし、決めるところで決められる選手になりたいです。あまり先のことは考えずに、一戦一戦目の前の相手に立ち向かうことが大事になってくるのかなと思っています」

マイナビ仙台レディース 矢形海優選手

那須川天心選手に似ていると言われることも。ゴール後のパフォーマンスにも注目だ

 

―ゴールやアシストといったプレーもそうですし、プロボクサー那須川天心さんをイメージした髪形やゴールパフォーマンスも人気です。そうした要素も含め、矢形選手はいろいろな方にとって「今、見たい選手」になってきているんじゃないですか?

「そうなっていたらいいなと思います。でもまだまだ足りないし、見てくれる人を多くしないといけない。そのためには勝利で終わって見に来てくれた人が『ああ、やっぱりマイナビの試合は面白い。強いし、いいね』と言ってもらえるようなチーム作りをしていかなければいけないです」

―ちなみに次のヘアスタイルはどうしますか?

「今は緑のカラーリングが落ちかけなので、次はカットだけ。その次にはパーマをかけたいです。そして、パーマが落ち着いたら金髪に戻します」

―髪色や髪形でも楽しませてください。開幕3連勝の次は、4連勝に向かっていく大宮アルディージャVENTUS戦です。

「はい。でも4連勝というのはあまり考えていないです。勝つことはもちろん大事ですが、4連勝、5連勝と考え過ぎたらプレッシャーになってしまう。自分としては、4連勝は考えずに、目の前の試合に絶対勝ちたい。そのために結果を出していきたいです」

11月26日に行われた第4節大宮アルディージャVENTUS戦では、0-4で今季初黒星を喫したマイナビ仙台レディース。松田岳夫監督も「ここまで内容が良くないまま勝ってきた、そのツケが出た」と改めて課題に向き合うことを選手たちにも伝えた。矢形選手が躍動すればこそ、次の勝利は限りなく近くなるはず。真に強いチームへなるために、矢形選手も、マイナビも一歩ずつ前に進んでいく。(完)

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。