仙台スポーツ
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Interview

FOOTBALL

絶望から這い上がった背番号8。サポーターに深く愛される松下佳貴という『希望』【後編】

提供:ベガルタ仙台

 

プロ生活で経験した度重なるけが。しかし、どんな苦境にも屈せず、松下選手は立ち直ってきました。多くの人々が待ち望んでいた試合復帰。サポーターからは期待を込めて「応援歌」が送られました。鍛え上げた鋼の肉体に、人一倍熱い思いを込めて、ピッチで躍動する松下選手の声をお届けします。

 

―試合復帰は監督交代という激動のタイミングで巡ってきました。復帰の第35節大分戦、いきなりの先発出場でしたが、メンバー入りを告げられてどのような気持ちでしたか?

「全体合流してから、少しずつやれることが増えていく中で、自分は一試合でも早く出たかったですけど、出場に関するコントロールはMJ(松本純フィジカルコーチ)や松さん(松田拓也フィジオセラピスト)がしてくれていました。完全に試合に出られる状態になったのが大分戦だったんだと思います。『やっと出られる』という気持ちと、その段階で多少の不安や怖さもありました。でも、やっぱりピッチに戻ってこられたということは、自分の中で大きかったかなと思います。やっと帰ってこられた。嬉しかったし、楽しかったです」

―ピッチに立って、涙はありましたか?

「泣くかなと思ったんですけど、やっぱり試合に集中していたので泣かなかったです。でもゴール裏に挨拶に行って、サポーターがいつもの大きい『8』の横断幕を高く掲げてくれたのを見て、ぐっと来るものがありました。(氣田)亮真も、ものすごく羨ましそうに見ていましたね」

―今シーズン最初から復帰の日までずっとスタジアムに掲げられていた横断幕、松下選手の背番号「8」ですね。蜂須賀選手の「4」と共に掲げられていて、それぞれが試合復帰したタイミングで、サポーターがより高いところに持ち上げてくれました。粋なことをしてくれますね。

「あれは嬉しかったですね。全ての選手がああいうことをしてもらえるわけじゃないというか……。それをしてもらえる分、自分が更にサポーターのために、プレーで何とかしないといけないという思いにさせられました。ありがたかったです」

ベガルタ仙台 松下佳貴選手

多くのサポーターが、彼が再びピッチに立つ日を待っていた(提供:ベガルタ仙台)

 

―復帰後の初勝利は2試合目、第36節栃木戦でした。決勝点となった中山選手のゴールの起点になりましたね。

「あのシーンは僕自身余裕があって、ボールを中に出すかとかいろいろ考えていたんですけど、 (左サイドで)ハチ君なら走ってくれるかなと思って、そのスペースに出した結果がゴールにつながりました。『ハチ君、ありがとう!』と思いましたね」

―試合後には蜂須賀選手とどんなことを話しましたか?

「ハチ君に『あれ、行けました?』って聞いたら、『走って良かった』みたいに言ってくれました。あそこで走って、クロスを上げきれるハチ君もすごいし、(中山)仁斗君のヘディングもすごかったので。あの2人がすごいですよ」

ベガルタ仙台 松下佳貴選手

辛いリハビリも仲間と励まし、笑い合いながら乗り越えた

 

―3人で同時にリハビリをしている時期もあったので、その3人で決めたと思うと、胸が熱くなりますよ。

「そうですね。仁斗君も一緒にリハビリをしていましたもんね。そう考えると、本当に良いボールでしたね」

 

J2第36節栃木SC戦 松下選手は中山仁斗選手のゴールの起点となった。

―松下選手が公式戦に復帰した9月初旬はスタジアムの一部で声出し応援が解禁されたタイミングでもありました。ピッチで聞くサポーターの声はいかがでしたか?

「いやぁ。『帰ってきたな』と思いましたね。サポーターの声こそが“ベガルタの強み”だと思っています。あれだけの応援を聞けるということは、選手にとってありがたいことです。しかもアウェーでも、栃木戦は平日のナイターであれだけのサポーターが来てくれたということにはすごく驚いたし、嬉しかった。力になるなって改めて思いました」

―松下選手は2019年から仙台に在籍しています。ここ3年はコロナウイルスの影響で応援もままならない状況が続いていましたが、移籍してきた最初の1年はサポーターの通常の応援を聞いてきたということですよね。

「はい。ゾクッとしますよね。チャンスの時の雰囲気とか。あれは味方で良かったと思います。対戦相手が『仙台のサポーター、すごいね』って言ってくれるんです。それだけの圧があると思います。あの応援でひっくり返した試合もありました。今はまだ制限があって、100%の応援はできないかもしれませんが、頼もしい存在だと思っています」

ベガルタ仙台 松下佳貴選手

相手の意表を突くパスで、困難な状況を打開してきた(提供:ベガルタ仙台)

 

―今年は松下選手個人の応援歌も誕生しました。どんな風に聞いていますか?

「いや、ちょっとズルをしたなぁと思って……」

―え? どういうことですか?

「うっちー(内田裕斗選手)が栃木戦の後にインスタライブをして、そこで僕が『チャントが欲しい』って言ったから……。ズルした感はありますけど、応援歌を作ってもらって本当に嬉しかったですね。プロになって初めて作ってもらったんです。神戸の時もなかったので、すっごく嬉しいんです」

―お願いした甲斐がありましたね。松下選手のチャント、元々は誰の応援歌として歌われていたか知っていますか?

「聞きました。野沢(拓也)さんですよね? ハチ君がすごく嬉しそうに教えてくれました」

―野沢さんに通ずるところでもあると思いますが、サッカーファンの間で「卓越した技術やセンスの持ち主」という意味で、松下選手は「変態」と表現されることがあります。こうした点についてはどう感じますか?

「僕自身は別に何とも思わないんですけど、妻がTwitterか何かで見たんです。妻はサッカーに詳しくはないので、意味がよくわからなかったようで『変態なの?大丈夫?』って言っていましたね(笑)『それたぶん、誉め言葉やで』とは言っておいたんですが、最初は驚いていましたね」

―賞賛の意味ですが、ちょっと特殊な「サッカー用語」ですからね。奥様には、なかなかの衝撃的な表現です。

「意味が分からなかったら、僕はただの変態な男ですからね(笑)それはびっくりしますよね」

―この4年間は「ベガルタ激動の時期」でもありました。その中で松下選手は常に応援され、愛されてきた存在。なぜこれだけサポーターに深く愛されていると、ご自身では思いますか?

「いやぁ、どうなんですかね。特別数字で結果を残しているわけではないし、ゴール、アシストも全然ないので。そういうところはもの足りないと自分では思っていますけど……。なんでなんですかね。過剰にやってもらってますよね(笑)それは選手としては、すごく嬉しいです。サポーターの皆さんにいろいろな形で応援してもらえるということはありがたいです。でも、なんでかはわかっていないです。しかも、僕はけがも多いじゃないですか。2020年からいろいろけがをして、たくさん試合に出られているわけでもないので、チームに対しても申し訳ない気持ちはあります。もっと試合に出なければいけないとは思うのでものたりないです。それでも応援してもらえているのは……なんでなんですかね?(隣のスタッフに聞く)(スタッフ:「期待してくれているんじゃない?」)だそうです(笑)」

ベガルタ仙台 松下佳貴選手

今、松下選手は仲間とトレーニングし、試合に向かう日々に喜びを感じている

 

―けがを乗り越え、強くなって帰ってこられましたか?

「帰ってこれたと思います。身体的にも、メンタル的にも成長したなという風に思います」

―その強さを持って、サポーターにはどう応えていきたいと感じていますか?

「今、チームがすごく苦しい状況で、自分たち選手もスタッフも、もちろんいろいろな感情があって、いろいろな難しさを感じてやっています。でもそれと同じぐらい、ファン・サポーターの皆さんも悔しい気持ちを抱えさせてしまっていると思います。まずは自分たちが試合で勝つことが一番だと思いますし、勝たないといけない状況です。残り試合少ないですが、試合で結果を出すということにこだわっていきたいと思ってます」

―大変な戦いは続いていきますが、元気にプレーしている松下選手の姿はチームに関わる全ての方々にとっての希望だと思いますよ。

「そうでありたいし、やっぱり結果を出しながらも、見ていて面白いというか、見て楽しいようなプレーも、必要だと僕は思うので。そういうところを出したいなと思いますし、自分だけじゃなく、もっと戦う姿勢を今以上に見せられればなという風に思ってます」(完)

 

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。