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Interview
FUTSAL
苦難の2年間を乗り越え、帰ってきたFリーグの舞台。監督・清水誠はヴォスクオーレ仙台のために全てを捧げる【後編】

今年2月、Fリーグクラブライセンスの交付、F2リーグ参入が発表されたヴォスクオーレ仙台。3季ぶりの復帰となるFリーグの舞台に向け、誰よりも熱い闘志を燃やすのが清水誠監督です。後編では、チームとして目指すスタイルや、目前に迫った新シーズンに懸ける思い、今後の意気込みや目標をお聞きしました。
―今季を戦う上で、チームが目指すスタイルはありますか?
この前の3月に全日本選手権がありましたが、そこではF1のペスカドーラ町田とも対戦しました。日本代表がいるようなクラブと戦ってあらためて感じたのは、1秒ないし0.5秒といったギリギリのところで勝負は決まってしまうということです。上のレベルになっても戦えるよう、その部分のこだわりは持っていきたいと思っています。あとは、前後半20分ずつのプレーイングタイムの中で、最後まで走り切れるようなチームになってほしい。もちろん華麗なプレーも魅力的ですが、まずは組織化された戦う集団をつくることが大事だと思っています。そういう最後まで諦めない姿勢を40分間出し続けられれば、観ている人の心も打てるし、応援もしてもらえるはずです。あとは戦術的なもので言えば、前線からプレスをかけてボールを奪う、攻撃的な守備をしたいと考えています。僕も現役のときは守備のポジションを務めていましたが、ボールを奪うことに信念を持っていました。ボールを跳ね返したり、蹴り出したりするのではなくて、相手からボールを奪い切って、それを攻撃につなげていくのが守備の役目。そうした攻撃的な守備を一人一人ができるようにしたいです。
―そこは清水監督ならではの考え方ですね。
やはり僕は守備のことを考える人間なので、ボールの奪いどころを定めた組織的なディフェンスだったり、ジャンプといって味方同士で相手を挟みにいってボールを取りに行ったり、そうした攻撃的な守備のアクションを常に求めています。自陣まで引いて相手の攻撃をただ跳ね返すのではなく、自分たちから積極的にボールを奪いにいく。そうした試合をサポーターも見たいだろうし、それをすることでスペクタクルなゲームが展開できるのではないかと想像しています。
―既存の選手に加えて、以前にプレーしていた選手が復帰するなど、陣容もそろいつつあります。
移籍というのは僕も経験しましたけど、タイミングであったり、その時々のクラブや監督のビジョンがあったりもするので、思い通りになることはほとんどありません。そんな中でも、クラブを一度離れた選手が戻ってきてくれるのは、本当にありがたいことです。本間さんや髙橋さんが選手を大事にしてくれて、雇用先や練習環境、さらには引退後のセカンドキャリアについても気に掛けてくれる。それがこのクラブの魅力の一つでもあるのかもしれません。
―ライセンスが停止された2年前を知っている選手も多いことと思われます。だからこそ、Fリーグに戻れることに対して強い思いもあるのではないでしょうか?
それは当然あると思います。正直、昨季の段階でFリーグに戻るという気持ちでいたので、それが1年伸びたときに選手たちは本当に苦しい思いをしていたし、その姿を見て申し訳なさもありました。そんな辛い時期を一緒に乗り越えてきたので、彼らは精神的にもたくましくなったと思います。僕自身、あまり選手を褒めることはありませんが、この2年間を乗り越えたことで彼らは素晴らしい経験値を得たと思うし、厳しいシーズンを戦い抜く準備がすでにできていると感じています。Fリーグの舞台をどのチームよりも熱望していた分、そうした強い思いが勝利に結び付く可能性だってあるし、この思いを持ったまま1年を戦えたら、きっといいシーズンが送れるような気がします。
―先述の全日本選手権では、1回戦でF1のボアルース長野に勝利しました。2回戦の町田戦も好勝負を演じるなど、収穫は大きかったのではないでしょうか。
長野戦に関して言うと、前の週に長野がF1・F2の入れ替え戦を戦っていて、しかもその試合が激闘でした。僕らからすると、そのおかげでスカウティングがしやすくなりましたし、一方の長野はその入れ替え戦に全力を注いでいた分、僕らに対する警戒心があまりありませんでした。準備の段階で僕らには有利な条件がそろって、狙い通りにゲームを進めることができました。また、2回戦の町田戦に関しては、チームとして通用する部分と通用しない部分がはっきり分かった試合でした。先ほども申し上げたように、あのプレー強度の中だと、半歩遅れるだけで相手に自由を与えてしまう。でも逆にそれがうまくはまったときはチャンスが作れたし、実際に初めの10分は2-1でリードも奪うことができました。ゲームマネジメントの部分での改善の余地はありますが、「自分たちもやれる!」という自信も同時に得ることができた、そんな大会でした。
―いよいよ6月からは新シーズンが始まります。リーグ開幕を間近に控えて、今はどのような心境ですか?
それこそ、クオーレ仙台としてスタートした10年前の感覚に近いものがありますね。また原点に戻って、あの頃の気持ちで戦いたいなと思っています。それは選手たちにも伝えていますし、去年で震災から10年が経ちましたが、このクラブの存在意義が薄れてきてしまっているような気もします。ここでフットサルをする以上は、自分たちのプレーを観に来てくれた皆さんに笑顔になってもらう、それが本来のあるべき姿だったはず。この10年間、紆余曲折がありましたが、当時を知る選手も残ってくれているし、これまでよりも数段素晴らしいクラブになっているという自信はあります。
―ちなみに仙台に長く住まわれていますが、オフの日などに息抜きはできていますか?
監督になってからの休みって、あまりないんですよね(笑)。同じ監督業の人とたまに話す機会があるのですが、やはり皆さん大変だとおっしゃっています。もちろん家族と触れ合ったりしてフットサルから完全に離れる時間もありますが、どうしても頭のどこかでスイッチが切れていなかったりする。でも今は、それも嫌じゃないんですよ。こんなに刺激が多い世界はないし、選手たちも人生を懸けて集まってきているわけなので、緊張感は常に持つようにしています。だからきっと、監督業をされている皆さん、体を壊してしまうのだと思うんですけど(笑)。あとは、たまにベガルタ仙台の試合を見に行かせてもらうんですけど、客席におじいちゃんやおばあちゃんが座ってタオルマフラーを巻いている姿を見ると、すごくうらやましいんですよね。あのようなクラブに、いつかヴォスクオーレもなれたらうれしいなと、いつも思いながら過ごしています。
―それでは最後に、Fリーグ開幕に向けての意気込みをお願いします。
Fリーグに戻ってきたという感覚はありますが、本当に戻るべき場所は、やはりF1の舞台だと僕は思っています。そこにたどり着くまでの過程を大事にしていきたいですし、F1に帰ってきたときに、あらためてサポーターたちと一緒に喜びを分かち合いたい。そのための新たな一歩なので、この1年が大事なシーズンになるのは間違いないです。他のチームもいろいろ補強を進めていて、勢力図はどうなるか分かりませんが、戦うからには優勝しか見ていないし、当然そこに向けた準備を進めています。そのうえで、この2年間で経験した辛い思い、培ってきたものをピッチで表現して、人の心を打つような試合を一つでも多くしたいと思っています。それともう一つの目標としてあるのは、このクラブから日本代表選手を送り出すこと。アンダーカテゴリーを含めて、この東北から、そういう選手が出てきてくれて、日本代表、そして世界に羽ばたいていく。クラブの未来として、そういう絵も描いていきたいです。
▼プロフィール(前編・後編 共通)
清水誠(しみず・まこと)◎1978年6月12日、神奈川県出身。現役時代は、CASCAVEL TOKYO(現ペスカドーラ町田)や、バルドラール浦安、府中アスレティックFCなどでプレー。2013年よりプレーしたヴォスクオーレ仙台では主将を務め、フィクソ(センターバック)として活躍。16年に現役を引退し、19年8月に同クラブの監督に就任した。
Photo by 渡邊優

1992年10月14日生まれ、岩手県一関市出身。一関第一高校卒業後、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科に進学。アルバイト等で執筆経験を積み、2015年4月より岩手県盛岡市の制作会社「(株)ライト・ア・ライト」に入社。地域限定スポーツ誌「Standard」の制作等に携わり、2019年4月よりフリーランスとして活動中。