仙台スポーツ
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Interview

FOOTBALL

女子サッカー選手が子どもたちの憧れの存在になるために。WEリーグ元年を駆け抜けた隅田凜の抱く希望【前編】

昨年9月に開幕したyogibo WEリーグ。マイナビ仙台レディースは初代女王の座を目指し奮闘しましたが、残念ながらその目標には届きませんでした。チームの中心に立ち、そのプレーと姿勢で仲間をリードし続けたMF隅田凜選手。彼女が過ごしたWEリーグ元年を振り返って頂きました。(前後編)

 

―昨年2月にチームが発足。早くも2021‐2022シーズンの最終戦が近づいてきていますね。

「チームが立ち上がってから、9月に開幕して試合が始まるまでがすごく長かったということを覚えています。でもこの終盤になってきて、不思議な感じというか、この時期にシーズンが終わるのは初めてなので、あぁもう終わっちゃうのかという気持ちです」

ー準備期間を含め、1年半にも及ぶWEリーグ初年度、どんなことが印象的でしたか?

「練習がとにかくしんどかったですね。キャンプ等も含めて。今まで、ちゃんとやって来なかった訳ではないのですが……。それほどまでに練習に100%以上の力で取り組んで、終わった後は何もしたくないというほど疲れて一日が終わっていました。『こんなに練習するんだ』っていうくらい。みんな感じていると思うんですが、そうじゃないとチームは出来上がっていかない。最初の頃は、本当にボールも回らなかった。今になってできることも増えて、改めて『サッカーをしているな』っていうことは強く感じます」

―100%を超える厳しいトレーニング。それはチームが新しくなりプロ化したからですか? それとも指揮官が松田岳夫監督になったということが大きかったのでしょうか?

「両方だと思います。松田さんの求めるサッカーは、みんなが今までやってきたものをはるかに超えていて、一人一人に求められることも多いです。またプロになったことで、その分サッカーに捧げられる時間も増えたので、生活が変わったという意味でも、このシーズンは大きな変化の一年でした」

―前所属の日テレ・ベレーザ(現・日テレ・東京ヴェルディベレーザ)時代ともまた違う感覚ですか?

「ベレーザ時代は、最初は学生で、最後の方は働きながらサッカーをしていました。移動の時間もあったりして、サッカーにかける時間は短かったです。仙台とは異なる環境でした」

マイナビ仙台レディース 隅田凜選手

プロサッカー選手として歩む日々。サッカーに懸ける時間は増え、情熱が増した

 

―仙台に加入した2019年から隅田選手は、マイナビベガルタ仙台レディースでプロ契約を結んでいました。そして2シーズンを過ごし、WEリーグになってからは仲間も全員がプロという環境です。

「最初の2年間はプロ選手が私も含め2、3人しかいませんでした。チームとしてレベルアップしている感じは、あまり感じられず、自分にできることも少ないと感じていました。でも、今シーズン全員がプロになって、周りみんなの意識が変わったということが感じ取れました。どこのチームよりも、自分たちは良い環境の中でサッカーをやらせてもらっていると思っているので、そこには責任もあります。もっと強くなり、優勝するチームにならなければいけないと感じていました」

―「みんなの意識が変わった」ということはどのような時に感じましたか?

「練習後に、それぞれが自分の課題に向き合って筋トレなどのトレーニングを増やしているということが一つ。それから、試合に対するミーティングでも、サッカーのことだけではなく、全体的に意識が変わっていきました。自分たちはプロとして、入場料を頂いてサッカーをしている。そういうことをどう考えるかというように、プロとしての見られ方を意識するようになっていったと思います」

―サッカーの面では、松田監督の下でじっくりと時間をかけ、チームはどう成長してきたと思いますか?

「最初はみんな『これでいいのかな?』と迷いながらやっていたところが多かったと思います。松田さんの求めるサッカーは常にレベルが高かったですし、最初は思い切ったプレーができていなかった。しかし、時間が経つにつれて、それぞれが『こうしたら良いんだ』というものを見つけていきました。迷いがなくなったら、互いに考えを発信しながら、要求もできるようになった。自分たちでアクションが起こせるようになってからは、話し合って問題を解決できるようになった。そういうところは成長できたと思います」

―隅田選手個人としてはいかがでしたか?

「試合後のミーティングなどでも『もっとこうすれば』ということが個人的に多くて、きつい時もありました。でも、それができれば自分自身のレベルアップにもつながる。求められていることについては、納得して取り組んでいました」

―隅田選手は高いレベルでのプレーができるからこそ、求められてしまうのかもしれませんね。

「そうなんですかねぇ……(笑)」

マイナビ仙台レディース 隅田凜選手

日々の練習でじっくりと課題を向き合う。より高いレベルを目指して

 

―振り返ればチームのファーストゴールは、第2節サンフレッチェ広島レジーナ戦での隅田選手の得点でした。セットプレーからクロスがネットを揺らす、スーパーゴールでした。

「懐かしいですね。そこからはゴールはとってないですね」

―ゴール以外での貢献が大きかったです。ここまで全試合出場で、印象的だった試合はどの試合ですか?

「引き分けの試合で、課題もたくさんあったのですが、ホームの(第11節)INAC神戸レオネッサ戦です。あの段階でINACが失点ゼロで無敗。相手が強いチームだとわかっていて、そこに挑んでいくという姿勢でゲームに入りました。守備から全員で意識高く、相手を脅かせていたし、全員の気持ちが出ていました。そういうところから白木(星選手)の得点も生まれました。後半失点してしまい、詰めの甘いところも多かったですが、いい試合ができたという印象があります」

―あの試合で、INAC神戸はシーズン初失点だったんですよね。

「そうです!」

―印象深いですね。他には、日テレ・東京ヴェルディベレーザに、公式戦で初めて勝った試合もありましたね。

「それもありましたね。開幕前のプレシーズンマッチでも勝っていました。その時以上に、本番のリーグ戦で勝てたということが本当に嬉しかったです。今まで、仙台として一度も勝てていなかった相手だったので、やっと勝てたという感じでした」

―我慢の時間も長い試合でした。よく走って守りましたね。

「はい。走行距離などのデータでも、あの試合が一番走っていたみたいです。走らされていたという感じですが。耐える時間が長かった中、少ないチャンスをものにして勝ったという試合ですね」

マイナビ仙台レディース 隅田凜選手

中盤でコンビを組んだ長野選手。お互いの立ち位置を常に意識し合う存在

 

―多くコンビを組んだ長野風花選手の存在はいかがでしたか?2人でプレーする時にはどんなことを大事にしてきましたか?

「良い時はお互いの距離感が良く、そんなに言葉にしなくても、お互いのポジショニングやボールが欲しいタイミングはわかり合っていました。風花は攻撃で強さを発揮していたので、風花が前に行ったら自分がバランスを取ろうとか、サポートを近くでしようということを意識してやれていたと思います」

―2人だけの間合い、「阿吽の呼吸」のようなものもあったのではないですか?

「そうですかね。風花に対して『もっとこうして!』と思うことはなかったですね。練習中から風花のやりたいことはわかるんですよ。『あぁ、ここにパスを出したいんだな』とか。そういうことははっきり言ってくれるので、分かり合えているところは大きいですね」

マイナビ仙台レディース 隅田凜選手

WEリーグ初代女王の夢は叶わなかったが、それでもたくましく自分たちのサッカーを表現してきた

 

―シーズン当初から優勝を目指す中で、その目標は達成ができなかった。優勝する上で何が足りなかったと感じていますか?

「全てにおいて足りないと松田さんも言っていたのですが、やっぱり強いチームは、どんな状況でも勝つと思います。たとえ内容が悪くて、選手が変わっていても、勝ち点1を拾う。簡単に負けない。そういうところが優勝する強いチーム。自分たちは少しうまくいかないことがあると、立て直せない弱い部分がある。そういうところが強くなれば、もっといい方向に持っていけると思います」

―優勝という目標が消えてしまった時、それでも試合に向かっていくためにどのように切り替えたのでしょうか?

「本当に優勝を目指していたので、負けてしまった時やどんどん順位が落ちてしまった時に気持ちが落ちてしまったところもありました。それでも試合で後悔するのは嫌だなと感じました。それなら最後は思い切って、自分たちの持っている良さやプレーを出す。勝利は必要ですが、それ以上に、見ている人たちに伝わるプレーをしようと思いました」(後編へ)

 

Photo by 土田有里子

 

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。