仙台スポーツ
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Interview

FOOTBALL

チーム全員がシーズン終了後に幸せになるために――。33歳の若き新指揮官・中村雅昭が、女川町をサッカーで熱くする【後編】

現在、東北社会人リーグ1部を戦うコバルトーレ女川。5年ぶりのJFL復帰、そして将来のJリーグ入りを目指す中、今季より新たにチームを指揮するのが中村雅昭監督です。後編では、理想とするサッカーのスタイルをひも解くとともに、女川町への思い、今季の戦いに向けた決意を語ってもらいました。

 

―ここからはサッカーの具体的な話に移ろうと思いますが、今季のコバルトーレではどのようなスタイルを目指していますか?

「僕が打ち出したチームコンセプトとしては、常に主導権を握り続けるチーム、攻撃的なポゼッションをし続けるチームです」

―そのために特化している練習メニューなどはありますか?

「ボールを持ち続けようと思ったら、守備がどうしても必要になってくると僕は思っています。なぜかというと、サッカーは足でボールを扱っている以上、ミスは起こりうるものだし、相手にボールを奪われることは多々あります。ただ、奪われた瞬間にそれを奪い返す力があれば、主導権を握り続けることができるので、そうした守備の強化は前提として進めています。また、相手の隙を見逃さないこともサッカーでは重要です。単純な基礎練習にしても、常にゲームをイメージして練習をするよう、選手たちには意識付けをしています」

―チームを指導して1カ月が経ちましたが、現状をどのように把握していますか?

「現状としては、すごくいい感触を得ています。みんなが高い強度でハードワークして、僕が掲げたコンセプトに対して真摯に取り組んでくれていますね。この1カ月の流れとしては、最初の1週目で選手の特徴を見極めて、2週目で先ほど言ったコンセプトを少しずつ落とし込んでいく、そして3、4週目で実際のプレーモデルを構築していく、といった段階を踏んできましたが、チームとしてすごくいい形が作れていると思います。それは僕の力だけでなく、もともと能力の高い選手が多かったですし、ボールを保持するといった部分については、昨季まで監督をされていた阿部(裕二)GMが当時からだいぶ仕込んでいたので、とてもやりやすく強化ができています」

コバルトーレ女川 中村雅昭監督

―ちなみにフォーメーションはどのようなシステムを採用予定ですか?

「システムは基本的に3-4-2-1、3-6-1と言われるようなフォーメーションを採用する予定です。僕としては、これは攻撃に特化したフォーメーションだと思っていて、ボールを保持し続けるために中盤以降を厚くして、常に主導権を握れるようなサッカーを目指そうということで今は取り組んでいます。ただ、選手には言っていますが、チームは生き物ですし、システムは手段の一つでしかありません。なので、システムにとらわれることなく、違うと思ったら変化を加えながら、最適解をみんなで見つけていきたいです」

―選手とは年齢も近いですが、やりやすさ、あるいはやりにくさはありますか?

「僕自身、年齢はそこまで気にしていなくて、それよりも個人個人が大切だと思っています。チームには人間性が素晴らしい選手がそろっていて、常に前向きに取り組んでくれるし、疑問があったら僕に相談もしに来てくれる。今のところ、とてもいい関係が築けているのかなと思っています。その中で、僕よりも年上の選手で2人、奥山泰裕選手と吉田圭選手がいるのですが、この2人が僕に対してリスペクトを持って接してくれています。彼らがひた向きに頑張る姿勢を見せてくれるおかげで、周りの若い選手たちが伸び伸びとプレーできていますし、僕自身もやりやすく指導をさせてもらっている。そこに関しては、とても感謝をしています」

コバルトーレ女川 中村雅昭監督

―2月28日にはJリーグ百年構想クラブ(※)にも選ばれました。昨年には女川町に新スタジアムが完成するなど、Jリーグ入りの基盤が徐々に整いつつあります。

「いろいろな地域を見たわけではないので、どうこう言える立場ではありませんが、僕が知っている限り、ここまで地域全体が後押しをしてくれる街クラブは、耳にしたことがありません。地域の皆さんにはとても感謝していますし、選手はもちろん、僕自身もモチベートされているところは間違いなくあります。まだ試合が始まってないですし、このようなコロナ禍でイベントもできていないので、大勢の地域の方々と顔を合わせる機会はまだありませんが、たとえばこの間も、ご飯屋さんに行ったときに店の方が『新しい監督さんね!』って話しかけてくれたり、ミーティングで町役場を利用したときに職員の方が『頑張ってください!』って声を掛けてくれたりしました。それ以外にも、コバルトーレのポスターやのぼりを掲げてくださっているのを見ると、地域の方々に応援されているなというのを肌で感じています」

※Jリーグ百年構想クラブ…将来のJリーグ参入を目指すJFL以下のカテゴリーのクラブを対象に、Jリーグが運営体制などを審査して認定。Jリーグ参入に必要な資格の一つで、参入に向けた第一関門と言われている。

―ちなみに女川に来てから、美味しい海の幸などは食べましたか?

「たくさん食べさせてもらいました。それこそ、阿部GMが美味しいお店をいろいろとご案内してくださるので(笑)。すごく美味しいですし、僕も海鮮が大好きなのでうれしいです。また、妻の仕事の関係で家族は3月末に引っ越してきました。子ども2人も海鮮が大好きなので、ぜひいろいろな場所に連れて行って、美味しいものをいっぱい食べさせてあげたいですね」

―今後、プライベートで足を運んでみたい場所はありますか?

「まずは家族に、この女川の景色を見せてあげたいです。それに先日、クラブの被災地訪問で東松島市や南三陸町にも行かせてもらいました。震災があったこと、そして街全体がよりよい未来に向かって復興し続けていること、そうした事実を親として子どもたちに教えてあげたいという思いもあります。ちなみに奥さんは青森県の八戸市出身なので、もともと東北にはゆかりがあります。女川もそうですし、宮城県全体を家族には好きになってもらいたいです」

コバルトーレ女川 中村雅昭監督

―4月末には公式戦初戦となる天皇杯県予選があります。今のチームの課題を挙げるとすればどこですか?

「得点を奪うという部分に関しては、もう少し突き詰めないといけません。ボールの保持はできているので、最後のフィニッシュの精度をどう積み上げていくか。あとは、ボールを取られた後の守備の強度のところ。この2点が、現状見えている課題ですね。ただ、全体としてすごくいいイメージで来ているので、徐々に仕上がっていくかなと思っています」

―昨季までは阿部GMが長らくチームを指揮していました。引き継ぐことへのプレッシャーはありますか?

「昨季は東北社会人リーグ1部を無敗で優勝して、全国地域チャンピオンズリーグにも出場しました。負けてはしまいましたが、そこではいい試合も繰り広げていたので、いい状態のチームを引き継いで、アップデートさせるということに関しては、少なからずプレッシャーはあります。ただ、阿部GMがいつも現場に来て僕をサポートしてくださるので、とてもやりやすい環境にあります。チームの雰囲気がとてもいいので、この雰囲気を壊さないよう、僕自身も、チームも、アップデートを重ねながら、強い集団を作り上げていきたいです」

―最後に今季の目標、応援してくれる方々へのメッセージをお願いします。

「目標はJFL昇格、そこはぶれないです。それを達成することが、全ての幸せにつながると僕は思っているので、目標に対してチーム全体で真摯に取り組んでいきたいです。また、サポーター、スポンサー、地域の方々には、ここまで僕たちを後押ししてくれる環境を作ってくれていることに感謝をしています。その中で、僕たちができることは、JFL昇格という結果はもちろん、魅力的なサッカーをして、喜び、楽しみを与えることだと思います。コロナ禍ではありますが、ぜひ有観客となった場合は、実際に試合へ足を運んでいただけるとうれしいです!」

コバルトーレ女川 中村雅昭監督

 

▼プロフィール

中村雅昭(なかむら・まさあき)◎1988年11月19日、広島県廿日市市出身。岡山・吉備国際大学卒業後、2012年からアルビレックス新潟シンガポールでスクールコーチ・ジュニアユース監督を務め、15年は同トップチームにスタッフとして帯同。16、17年はアンジュヴィオレ広島、18年は広島八幡FCジュニアユースで指導を務め、19~21年はヴィッセル神戸サッカースクールでコーチを務めた。

 

Photo by 渡邊優

郷内 和軌
郷内 和軌

1992年10月14日生まれ、岩手県一関市出身。一関第一高校卒業後、仙台大学体育学部スポーツ情報マスメディア学科に進学。アルバイト等で執筆経験を積み、2015年4月より岩手県盛岡市の制作会社「(株)ライト・ア・ライト」に入社。地域限定スポーツ誌「Standard」の制作等に携わり、2019年4月よりフリーランスとして活動中。