
見ている人の期待を裏切る快感。大きく羽ばたくGK、松本真未子の成長は止まらない【前編】
Interview
FOOTBALL
ストライカーの多くが虎視眈々と狙うWEリーグの個人タイトル「初代得点女王」。しかし、現在得点ランキング1位ということも「周りから知らされた」と、白木星選手には全く力みがありません。彼女が歩んできた学生時代のことやサッカーと向き合う日々の喜びを聞かせて頂きました。
―白木選手の故郷は北海道札幌市。最近は帰省できましたか?
「12月の初めに帰りました。札幌は食べ物が美味しくて、ストーブが暖かいです(笑)実家にずっといてのんびり過ごし、親と出かけるのはたまにですね。基本的に家にいます」
―白木選手は、「星」と書いて「あかり」と読む。本当に素敵なお名前ですね。親御さんがつけてくださったそうですが、その由来は?
「星のように、明るく元気にという意味があるんです。気に入っています」
―響きも一度聞いたら忘れない素敵なお名前です。白木選手は小学校からサッカーを始めて、中学時代からすでにチャレンジリーグ(当時のなでしこリーグ2部)で活躍していましたね。
「当時はノルディーア北海道というチームでプレーしていました。結構生意気だったと思います。もう、ボールをもらったらドリブルしかしない! という選手でした(笑)上の人たちがみんな優しくて、全部許してくれていました」
―ポジションはずっとFWでしたか?
「背が大きかったので最初はDFをやっていました。小学校の時にSBになって、その後、女子だけのチームに入ってからは前の選手になりました」
高校時代に北海道から仙台へ。この地で今はプロサッカー選手として歩む
―中学卒業後は女子サッカーの名門、常盤木学園高校へ進みます。北海道から仙台に来ましたが、どのように決断したんですか?
「当時、高校女子で強いチームと言えば常盤木だったので、練習参加をして入学しました。親元を離れたので最初は寂しかったです」
―競合チームで大勢の部員のいる中、1年生からレギュラーで活躍しました。
「試合には出られましたけど、あの頃は、本当にまだまだでした。1年生の時はついて行くのに必死で……」
―その白木選手が1年生、2012年に当時創設したばかりの「ベガルタ仙台レディース」と対戦していますね。
「はい。みんなサッカーが上手でした、本当に。違うなと思いました。公式戦前に練習試合で対戦したこともあったんですけど、上手かったですね。ユアスタでの対戦ではFWの伊藤美菜子さんがとても強かったことを覚えています」
―2年生だった2013年には、常盤木学園はチャレンジリーグで優勝、その立役者となった白木選手はMVPにも選ばれています。年間13ゴールと得点で大きく貢献できました。
「そうですね。この年は、いときん(INAC神戸レオネッサの伊藤美紀選手)、(小林)里佳子(日テレ・東京ヴェルディベレーザ)がとても上手だったので、そういうところからゴールが生まれました。連携が良く、みんな常に自分を見てくれていました。1年生の時に必死でやっていたことに対して、少し余裕も生まれた時期です。だから、すごく点が取れましたね」
大活躍の高校時代を経てなでしこリーグへ
―高校卒業後は、浦和レッズレディースに入団し4年間、仲間と磨き合いました。
「1年目はもう必死でした。試合に出られない状況が続いていたのですが、(菅澤)優衣香さんや安さん(安藤梢)がチームに入ってきて、アドバイスも頂き、すごく勉強になりました。ちなさん(吉良千夏選手、現オルカ鴨川FC)のプレーも好きでした。動き出しや連携面のことでお手本にしていました。高校生と大人のサッカーはちょっと違う。高校では、個人の能力でどうにかできましたが、大人のサッカーとなるとそう簡単にはいかない。守備でも攻撃でも、個より連携の方が強い。そういうことを学んだ気がします」
―GK松本真未子選手とも同じ時期に浦和にいて、今もまたマイナビで一緒にプレーしているというのも嬉しいですね。
「そうですね。真未子は昔から安心感がありました。PK戦をしても(松本選手、白木選手の)サブ組が勝つんですよ。真未子が絶対止めてくれるので」
―そして2019年に当時のマイナビベガルタ仙台レディースへ。初めての移籍でしたが、どのような決断でしたか?
「(浦和で)試合に出られていないという状況だったので、試合に出たいという気持ちと、そのためには環境を変えなければいけないと思いました。(高校が一緒の市瀬)菜々からは仙台について『いいチームだよ』という話も聞いていて、移籍を決めました」
プロ選手としての責任。より厳しく自分を磨く
―仙台での3年目で女子サッカー初のプロリーグ「WEリーグ」がスタートしました。マイナビ仙台レディースは全員がプロという環境です。
「プロ化したということで、自分自身にもより厳しくいかなければいけないと思います。プロになったことで良かったことはサッカーに集中できる環境が整ったこと。それはだいぶ大きな変化ですね」
―ここまでお話を聞いていても、本当にサッカーに一直線に進んできたんですね。
「それしかできることがなかったんです。本当に、他には何もできないです(笑)私にはサッカーしかなかったので」
ゴールを決め、浜田選手の見ているスタンドに向かって『背番号10』のパフォーマンス(提供:マイナビ仙台レディース)
―2021年のゴール後に印象的なシーンがありました。第8節、日テレ・東京ヴェルディベレーザ戦の決勝ゴール。決まった瞬間、スタンドに向かって手で「10」と浜田遥選手の背番号を示しました。
「マイナビ仙台レディースという新しいチームが始動する時に、ハカさん(浜田選手の愛称)はキャプテンで10番という『一番重い荷物』を背負いました。みんなのためにいろんなことを考えてくれていた。そして頑張った中での怪我(第3節大宮戦で右ひざを負傷。現在は復帰に向けてリハビリ中)でした。ハカさんが一番キツいし、チームも辛い。ハカさんともいろんな話をして『次、ゴールを決めたら(背番号10のパフォーマンスを)やりますね』と伝えていました」
―試合後にはどんなやり取りがありましたか?
「抱きしめてもらいました(笑)」
ゴールを決め、仲間にもみくちゃにされる瞬間。何にも代えがたい喜びがある(提供:マイナビ仙台レディース)
―浜田選手も、また他のストライカーも目指している「得点女王」。後期の戦いもありますが、今そこに最も近づいていますね。
「得点女王という個人のタイトルよりはチームが勝つこと。それに貢献して、それで自然に得点女王になれたらいいと思います」
―WEリーグの得点ランキング、5ゴールで並んでいるのが、元チームメートの菅澤優衣香選手(浦和)、井上綾香選手(大宮)です。
「そうなんですか。実はそれも……見てなかったです」
―そこまで意識せず、自然体で日々の練習に向き合えているのもすごいことですね。白木選手はどんな時にサッカーの喜びを感じていますか?
「練習で取り組んでいたことが試合で出せたり、連携面で成功したりというのが積み重なって楽しいと感じることが多いです。考えることも増えましたけど、その分みんなで共有しやすいのかなって思います」(完)
Photo by 土田有里子
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。