
WEリーグで日本の女子サッカーが変わる瞬間。宮澤ひなたは誰よりもゴール前で強い光を放つ【前編】
Interview
FOOTBALL
昨年9月に開幕した「Yogibo WEリーグ2021‐2022」は前半戦が終わり、3月に始まる後半戦へ向けてウインターブレイクに入っています。現在2位のマイナビ仙台レディースの中で最も輝きを放っているのがFW白木星選手です。仙台で3年目を迎えるストライカーが今季は前半戦だけで5ゴールと好調を維持しています。その原動力はどこにあるのでしょうか?(前後編)
―WEリーグ開幕からあっという間でしたが、リーグ前半を振り返ってどのようなことを感じていますか?
「結果としては2位ですが、3位以下のチームとの勝ち点差もないですし、1位のINAC神戸とも離れているので『危ない位置』というか、もっと頑張らなきゃいけない位置にいるなと思います。後ろ(勝ち点で並ぶ3位浦和、4位千葉)との差が気になるというよりは、上が遠いなという感じです。もっと勝ち点を取ることにこだわっていかないといけないと思います」
―前期の戦いではホームにINAC神戸レオネッサを迎えました。そこまで全勝で首位を走るチームとの対戦でしたが、どのようなことを感じましたか?
「やっぱり、簡単に『勝ちで終わらせてくれない』ということは感じました。先制したけれど、点を決められて追いつかれてしまいました。INACからしたら『負けていない』ということ。そういうところが強いなと思います」
―そこまで無失点だった強いINACから今季初めてゴールを奪ったのが白木選手でしたね。
「はい。あれが入っちゃうんだ……と思いました。ボテボテのシュートだったので、それが逆に良かったのかもしれませんね。こぼれ球がうまく自分のところに来たので……」
―しっかり狙ってボールの芯を捉えていたら、逆に止められていたかもしれませんね。
「そうだと思います(笑)」
無失点のINAC神戸のゴールを白木選手は右足でこじ開けた(提供:マイナビ仙台レディース)
―今季ここまで5得点の活躍。取材も、試合後のインタビューで指名されることも増えましたね。
「だいぶ増えました。開幕はそうでもなかったんですけど、最近は多いですね。でもしゃべるのはあまり得意ではないんです(笑)」
―取材を受ける中で、少しずつ言葉数も増えてきている印象ですよ。
「良かった(笑)」
―前半戦を終えて(延期になった1試合を除く)5得点で、得点ランキング1位という成績です。現段階での「得点女王」ということはどのように感じていますか?
「(得点ランキング1位は)周りから言われてはじめて気づきました。でも、まだまだ一試合で1点決めているくらいなので……。2点3点と、もっと取れるような試合もありました。自分自身の形で決められているゴールというのはまだないので、そういうゴールをもっと決めたいです」
『得点ランキング1位』 ということを白木選手は全く意識していない
―自分自身の狙った形で決められていないというのは悔しいところですか?
「はい。みんなのおかげです。こぼれ球とか、ものすごくいいパスをもらって私はシュートを打つだけとか。そういうゴールばかりなので、自分でボールを持ち運んでシュートというようなことができたらなと思います」
―試合後のインタビューでも「自分は決めるだけだった」とか、「これはほとんど(アシストをしてくれた宮澤)ひなたのゴール」とよくおっしゃっていましたね。
「本当にそうなんですよ! 周りのおかげで……、だからそれ以上何も言えないです(笑)」
―でも今年はそういうところをきっちり決められている。どんな状況でも仕事をするのがストライカーですよね。
「はい。一回(ものすごいチャンスを)外していますけどね。でも、どういう形でも決まればいいと思ってやっています(笑)」
ゴールが決められるのは仲間のおかげ。白木選手は味方に感謝を惜しまない
―自分自身の形で決めていないと言いますが、一度「練習通りに決められた」というゴールがありましたよね。
「(第6節)アルビレックス新潟レディース戦ですね。あのゴールは最高でした。あの時は最初に前向きで相手の前に出たかったんですけど対応されたので、一度止めて、内側に入りました。そうしたらシュート練習の感覚が蘇ってきて、そのまま自然とシュートに入れました」
―積み重ねてきた練習の形が試合で出せるというのはどういう気持ちですか?
「それが一番嬉しかったですね。ずっと練習していた甲斐がありました」
―普段の練習を見ていても、全体トレーニングが終わってからかなり長くシュートの自主練習をしていますね。
「ずっと続けていますね。なでしこリーグに入ってから、なかなかシュートを決めることができていなくて……。へたくそだったのでやらなきゃなって思って続けてきました」
―では今年、ここまで順調に決めることができているのは、何が変わったからでしょう?
「ゴール前に入ることが多くなりました。今まではDFの裏、特にサイドの裏に抜けることが多かったのですが、今年はチームとして取り組んでいるポゼッションもあって、そこまで抜けきらなくても、シュートまでいける。後ろのメンバーのポゼッションでいい形に持っていけるので、最後の最後ゴール前にいればボールが来るという感覚です」
仲間を信じてゴール前に入る。その形からいくつもの得点が生まれた(提供:マイナビ仙台レディース)
―今年の松田岳夫監督のサッカーの中で起こっている変化ですね。昨年までとは違う新しいサッカーに取り組んでみていかがですか?
「松田さんのサッカーは難しいです(笑)難しいんですけど、できた時が楽しいですね。駆け引きの上で『どこのポジションを取る?』とか、連携のことなど。『こことここの間にボールを通すにはどうしたら良いか』とか。考えながらやっていくことが多いので難しいです。でも最終的には『本能でやれ』と言われているので、練習ではしっかり考えてやってみて、試合では自分の考えでやってみて……。そうしている内に、練習で取り組んでいることができたら嬉しいですよね」
松田監督のサッカーに取り組む毎日は、難しいからこそ、できた時の喜びがある
―今季は個人の課題として上半身の強化に取り組んでいるそうですね。
「元々、下半身は強いんですが上半身が弱くて、相手に当てられた時に倒れてしまうというのが弱点でした。それはトレーナーさんにも言われていたので、杏さん(山守杏奈フィジカルコーチ)がメニューを作ってくれて、少し筋肉がついてきたなという感じです」
―倒される回数が格段に減りましたよね。
「それはすごく嬉しいですね」
―上半身の筋力強化をしたことで体の使い方も変わりましたか?
「変わりましたね。今までは相手からプレッシャーを受けると逃げていたんですが、今は逆に体を当てることを意識するようになりました。練習の中で勇人さん(佐々木コーチ)や有里さん(齋藤コーチ)に勝てなくて、ボールを奪われていたので、徹底的に練習してもらいました」
―公式戦で体格の良い相手DFがいてもあまり怖い感じはしないのでは?
「そうですね。体を当てるタイミングで何とか……。まだまだへたくそですけどね」
―もっと磨いていきたい部分はどこですか?
「今は相手を崩してゴール前に入っていけていないです。真ん中に入れていない。自分が起点になって少しでもゴールに近づける回数を増やしたいと思います」(後編へ)
Photo by 土田有里子
フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。