仙台スポーツ
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Interview

FOOTBALL

元Jリーガー、解説者・田村直也×中継リポーター村林いづみ【後編】

2021シーズンのベガルタ仙台の戦いについて振り返った前編。後編では選手として、解説者として現在のJ2に精通する田村直也さんと、Jリーグ中継リポーター村林いづみで2022年を展望していきます。

 

J2の戦い、「あの頃」と「これから」

村林:田村さんは2007年に中央大学を卒業してベガルタ仙台に入団。J1昇格を目指すチームでプロキャリアをスタートしました。当時の雰囲気はいかがでしたか。

田村:入団前に、ユアテックスタジアム仙台でベガルタの試合を見ました。このスタジアムで試合がしたいなと思ったことが入団のきっかけでした。そこには「熱」を感じたし、今と違うのはそういうところかもしれません。

村林:当時は2度目のJ1昇格を目指し、届きそうであと一歩届かなかった頃。昇格が決まるかどうかという試合では早々にチケットも売り切れ、満員になりました。

田村:その人たちはどこに行ったんでしょう? ベガルタを気にしてくれる人たちは潜在的にはいると思うんです。でも、ベガルタ仙台はその後長くJ1でやってきたわけですし、入場者数をもっと伸ばさなければいけないですよ。良いスタジアムがあり、資源があり、人がいて、メディアに取り上げられる環境もあります。

村林:2008年のJ1J2入れ替え戦の頃の「上がっていくぞ!」という活気はものすごかった。

田村:だからこそ、来年のJ2の舞台でベガルタ仙台が「どんな帰り方をするのか」が楽しみです。「J1に帰る」という感覚でいなければいけない。あの当時の活気や街を巻き込む雰囲気や言葉とか。一番大事なのはピッチ上でのサッカーのクオリティーです。サッカーをエンターテインメントのコンテンツとしてどこまで高められるか。土日に、遊園地や映画館ではなくベガルタ仙台を選んでもらう。そのための価値をどうやってつけていくのかですよね。一番は「プレーファースト」、サッカーの質です。このサッカーを見たいという人をどれだけ増やすことができるか。それは監督の手腕だし、どれ程の選手を呼んでこられるか、どれだけ予算をかけられるかという問題もあります。難しい面もありますが、それでもアグレッシブなサッカーをしてほしいなと思います。仙台のサポーターはそういうものを求めていると思うんですよね。

村林:ゴールは多く見たいですよね。

田村:純粋にそういうことだと思うんですよ。自分が観に行った試合でゴールが生まれれば、また観に行きますよ。今年は現実的に「残留」という目標があったから、どうしても固くなってしまうということは仕方ないと思うんです。でも、サッカーではやっぱりバチバチのやりあいが見たいですよ。

田村直也×村林いづみ

昇格した「あの日」

村林:2009年、クラブとしては2度目、田村さんが在籍3年目で経験した昇格の瞬間はどのような状況でしたか?

田村:自分は意外と悔しい思いをしている年でした。フルで試合に出ていたわけではなかったし、僕と一柳(夢吾)と菅井直樹もそうだし、SBもいろいろなタイプの選手がいました。実際昇格を決めた水戸ホーリーホック戦はベンチにも入っていませんでした。自分は悔しさを感じていたけれど、最後はみんなのいるピッチに出ていったのかな。あの年は一番町から勾当台公園までパレードもしましたし、良い経験でした。あの年はマルセロソアレス選手がいて、彼がすごくゴールを決めていた。それを思えば、二桁ゴールを獲れる選手が絶対必要なんだなと思いますね。

 

J2の熱きバトル。個性と個性のぶつかり合う「スタイルウォーズ」

村林:2022年、J2は22チーム。J2リーグだけJ1昇格もJ3降格もあるんですよね。北は岩手から南は沖縄まで、全国にチームが散らばっている。楽しみな対戦もありますね。

田村:楽しみですよ。J2は上位相手にはガチガチに守るというイメージがあるかもしれないですけど、まったく違います。自分たちのスタイルを貫くチームが多いんですよ。

村林:今年、田村さんはJ1だけではなく、J2もブラウブリッツ秋田を中心に解説を担当されていましたね。ご自身もついこの間まで現役でJ2を戦っていました。

田村:秋田は変わっていて、ロングボールを相手のクリアしにくいところに落とす。そして、そのボールを拾ってアグレッシブに前から攻める。アルビレックス新潟や水戸ホーリーホックは、ポジショナルプレー(ピッチを5つのレーンと見立て、ポジショニングで攻守に優位性を出そうという考え方)をして、特徴のあるアタッカーを置いて攻撃します。FC琉球は前に経験豊かな風間宏矢選手(2022年はジェフ千葉)や清武功暉選手がいます。それぞれにスタイルがあって、通用するかしないかという面白さ。守備が固い「カテナチオ」みたいなのはファジアーノ岡山くらいですかね。面白いと思います。J2は「スタイルウォーズ」です。

田村直也×村林いづみ

村林:スタイルとスタイルのぶつかり合い……、楽しいですね。私も昨年はモンテディオ山形の中継インタビュアーを数試合担当しましたが、仙台にとって久しぶりのJ2なので、本当にまた一から勉強しなければと思いますね。

田村:めちゃめちゃ面白いと思いますよ。監督が代わればスタイルも変わるんですけど、このスタイルでJ1に上がって旋風を巻き起こしたいというような雰囲気があるんです。そのリーグを勝ち上がってJ1昇格を決めたジュビロ磐田と京都サンガは力があると思います。そういう意味で、来年J1もJ2も面白いと思います。

村林:J2は年間42試合と、試合数も多いし最も過酷なリーグと呼ばれていますよね。J1昇格は簡単なことではない。その難しさをどう捉えていますか?

田村:僕の現役時代では2009年の仙台で1度しか昇格を経験していないです。東京ヴェルディではプレーオフに2回行って、一番惜しかったのは2018年、ジュビロ磐田にヤマハスタジアムで負けた年でした。その時も良い選手とすごい選手の差を感じました。J1昇格するためには、絶対的な決定力がなければ厳しいと思います。

村林:そこでまた「ストライカー」という話になりますね。今年J1昇格を決めた京都にはピーター・ウタカ選手(得点ランキング2位、21ゴール)がいました。

田村:磐田にはJ2得点王のルキアン選手(22ゴール)がいる。彼らの力だけでJ1に上がれたとは言い切れないですけれど。正直、ストライカーに最もお金をかけるべきです。

 

バトンを受け取った原崎監督への期待

ベガルタ仙台 原崎監督

村林:原崎政人監督の率いるベガルタ仙台、どういうところに期待をかけますか?

田村:原さんは大宮や長崎と、J2での指導歴が長いので戦い方のイメージはしていると思います。守備を捨てるかというと、そうではなく守るべきところはしっかり守ると思います。ただ得点を奪わないとJ1昇格できないと考えると、よりアグレッシブなサッカーになるのは必然です。奪われても奪いに行くようなサッカーを期待したいし、2021年の最後に原さんが率いた2試合で、そういうところも感じましたよね。

村林:福岡戦、鹿島戦と原崎監督の「らしさ」や「色」は出せていましたよね。

田村:出ていましたね。選手起用も少し変わっていました。手倉森監督が主にCBで起用していた吉野選手をボランチで起用して、より高い位置でセカンドボールを回収して二次攻撃に入る。そこからSBを高く上げて、前線には起点となる富樫敬真選手やフェリペカルドーゾ選手を使うという感じとか。DFラインに平岡(康裕)選手を戻したりというところを見ると、リアリストなのかなと思いますね。

 

選手のコメント力でメディアの取り上げ方が変わる

村林:J1、J2と解説者として活躍する中で、サッカーを見る目のみならず、田村さんご自身の伝え方も進化していますね。

田村:いや……(笑)そうでもないですけど、話すことについては選手の頃からよく考えていて、得意でしたね。メディアによる「囲み取材」ってあるじゃないですか。そこで話したことが次の日に新聞に載り、テレビに出る。載せやすいワードを使うことは意識していました。「いぶし銀」とか(笑)最後、東京ヴェルディで引退する時も「ベガルタの母、ヴェルディの父に育ててもらった」という言葉を使いました。本当に思っていることではあるけれど、メディアの人たちのことを考えたらこれは使いやすいだろうな……と。

村林:それはメディアの側からしたら「ごちそう」です。原稿の見出しを決めてもらっているようなものです。メディアが楽をするわけではないのですが(笑)、現役の選手たちにも、そういう伝え方をするという目線は必要ですよね。それが自分の価値を表現することにもつながりますし。

田村:そうですね。僕は最後に東京ヴェルディで引退したからわかるんですけど、首都圏のチームはベガルタほどメディアに取り上げられないですから。J1チームでもさほど新聞に載らない。そう考えると、仙台という地方クラブの環境はメディアにも恵まれています。
テレビでも毎週何らかの形で取り上げられる。そこで、自分自身やクラブのブランディングとして、価値を上げることを考えてほしいです。

田村直也×村林いづみ

J2は楽しまなきゃ損?

村林:今日、田村さんとお話しするまで、「あー、来年はJ2か……」という気持ちだったんです。降格のショックはかなり大きくて。でも「どう楽しむか」という視点は非常に重要だと思いました。

田村:もしベガルタが今年で終わってしまうチームだったら、降格してそこでストーリーが終わってしまうんですが、そうではない。ベガルタは今年で創立27年。50年続くとしたら、今はその歴史のまだ半分とちょっとなんですよ。上がることもあれば下がることもあるから、全然僕は悲観していないです。じゃあどうやってJ1に上がるの? というのを見たいし、チームも「這い上がってやる」というスタンスだと思うんです。この降格も長いストーリーの一部です。

村林:そうですね。胸を張って「東北ダービーを楽しむぞ」と言おう(笑)

田村:東北で一番のチームというプライドは捨てて欲しくないですね。特にモンテディオ山形とのダービーはね。あの雰囲気はすごかったですよ。永井篤志さん(2000~06年山形、2007~10年仙台所属)が、山形から仙台に移籍してきた年の試合でのブーイングはものすごかった。(佐々木)勇人君(2005~07年山形、2013~14年仙台所属)の時も。そういうストーリーは、興行としてのサッカーを盛り上げる要素ですよね。互いを落とし合うのではなく、盛り上げていくという方向で発信していくことが必要です。

村林:過去の山形との「みちのくダービー」では、勝山館の能舞台や山寺を会場にして、両軍そろって「みちのくダービー記者会見」をやっていましたよね。

田村:やっていましたね。今は時代が大きく変わって、スポーツが一番という世の中ではなくなりました。YouTubeでもなんでも、幅広くコンテンツを選べる時代になった。その中でサッカーを選んでもらわなければいけない。そういうビジネス感覚ももっと大事になっていると思います。それは盛り上げ方ひとつにもかかってくる。コロナ禍でもまだ難しいことはあるけれど、いかようにもできる。クラブがメディアを使うということも含めてです。でも何度でも言いますが、一番大事なのはピッチ上で行われているサッカーのクオリティー。それは忘れてはいけないし、期待されながらそこが下がってしまったらどうしようもない。二度とスタジアムに来ないという人を増やさないためにも、選手にはここで頑張って欲しいですね。

村林:魅力的なサッカーも観たいし、何よりも選手たちには伸び伸びとサッカーを楽しんで欲しいです。

田村:それはね、実は難しいんですよ(笑)僕は「楽しい」と思ったことはあんまりないかな。

村林:実際にサッカーをする選手の立場だとそういうものですか?

田村:得点が入って勝った時に、やっとほっとする。それだけですよ(笑)楽しい瞬間はあるかもしれないけれど、「心から楽しい!」ということはないのかもしれないです。きっとそれは、多くの選手が思っていることなのでは? 僕も今戦っている選手に対しては、無責任なことは言えないと思っています。上から見て「もっとこうすればいいのに」と思ったり、見ている人から「もっと解説で厳しく言ってくれ」と言われることもありますが、実際ピッチに立ったら全く違いますから。

村林:それは、そうですね。見ているのとやってみるのは決定的に違う。

田村:現役の時を思い出すと、特に昔のベガルタってスタジアムに1万8千人くらいサポーターが入って、更にスカパー!など画面越しで試合を見ている方々がいました。自分たちが勝ったり負けたりとその結果によっては、次の1週間は暗い気持ちで過ごさせてしまう……。そんなことを考えたら楽しいなんて思っていられないです。勝って「あぁ良かったな」という感覚になるのがプロなのかもしれません。楽しくやっている人もいるのかもしれないですけどね(笑)特にDFは楽しいというだけではない。

村林:失点に絡む可能性がある、シビアさですね。

田村:失点0で終わってホッとして、シャワーを浴びながら嗚咽する。嬉しくて(笑)

田村直也×村林いづみ

生まれ変わるチャンスと捉える

村林:来季はJ2での船出。これもチームが本当の意味で強くなっていくための始まりとなって欲しいですね。

田村:そうですね。ベガルタの歴史が今第何章かはわからないですが、クラブ50年の歴史の真ん中辺りだとする。生まれ変わって、リボーンして新たなベガルタを作っていく。そこに集まった選手を支えていくというスタンスでいたいし、メディアも解説者もリポーターも、ただチームを持ち上げるだけでなく、愛情を持って時に厳しくすること必要。関わった人たちが「チーム・ベガルタ」としてやっていく。点を決めなければ昇格できない、そういうことはわかっているので、これをきっかけにアグレッシブな楽しいサッカーをしてもらって、ベガルタの試合を見て楽しいと思ってもらえるように、応援してもらいたいです。

村林:本当にそうですね。私は今度こそたくさん勝利のインタビューをしたいです。そしてチームを強くする、そういうインタビューや取材をしていきたいです。田村さん、今日はありがとうございました。(完)

田村直也×村林いづみ

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。