仙台スポーツ
COPY
URL
COMPLETE

Interview

FOOTBALL

見ている人の期待を裏切る快感。大きく羽ばたくGK、松本真未子の成長は止まらない【前編】

長い手足に飛びぬけた跳躍力を誇るマイナビ仙台レディースのGK松本真未子選手。得意とするシュートストップの技術は高く、9試合中6試合で無失点とチームの勝利に大きく貢献しています。WEリーグ開幕から全試合先発出場で活躍を続ける守護神に、今シーズンの手応えやサッカーのルーツを聞きました。(全2回)

 

―WEリーグの前半戦が終了しました。(第11節は延期が決定)11月には上位との3連戦がありましたが、ここまでの手応えはいかがですか?

「直近3連戦は1勝1敗1分と悔しい結果でした。チームとしては2位には位置していますが首位との差が離れているので、まだまだ足りないところはあると思います。個人としてはここまで先発で試合に出続けるという経験をしたことがなかったので、その経験が初めてできているというのは成果だと思います。無失点の試合が多くできたし、上位相手の試合でも成果と課題が見えてきました。恐れることなく今後も続けていきたいですね」

―第10節INAC神戸レオネッサ戦は1-1のドロー。勝ち点で9離されている首位との差はどう感じましたか?

「INACは一人一人がゴールを奪う、守るという役割がはっきりしていました。今のマイナビ仙台は、まだ優しい人が多い。周りを立てる、みんなで一緒に戦うということはとても大事なことなんですけど、どこかで一人でこじ開けなきゃいけない時もある。それがあってこそのチームだと思うので、個人の強さは、差というわけではないですが『違い』ではあるかなと思います」

―松本選手にとって開幕から試合に出場し続けるということは、ここまでのキャリアでは初めてのことですね。

「ずっと(前所属の)浦和レッズレディースで大勢の先輩方を見てきて、その方々にとっては『変わらないポジション』だったと思いますし、(サブだった)自分にとっては『変わりたいポジション』。試合に出続けるというのは、本当に大変なことだなと改めて先輩たちのすごさを感じました」

マイナビ仙台レディース GK松本真未子選手

先発出場を続ける松本選手。練習から高い緊張感をもっている

 

―今年、WEリーグという新たなリーグが始まりここまでを戦ってみて、「想定外」なことはありましたか?

「悪い意味での想定外はあんまりなくて、良い意味の方なんですが、WEリーグ自体を作り上げてくださった方々が、私たちに良い環境のスタジアムを使わせてくれて、注目度を高めることをしてくれました。プロになってきているのかなということを感じました」

―仙台では主にユアテックスタジアム仙台を使用し、アウェーですが浦和戦では埼玉スタジアム2002を使用できました。試合の環境面が整っていることは選手にとってもメリットになっていますか?

「もちろんです。雰囲気や、芝生の状態などは会場によって違うのですが、どこに行っても不具合を感じることなく、幸せにプレーできました。楽しいです!」

―試合結果は悔しいものでしたが、浦和戦の埼スタの環境はいかがでしたか?

「初めてピッチからの景色を見ました。いつもは(Jリーグ)浦和レッズの試合をスタンドの高いところから見ていました。ピッチに立ったらどんな気持ちになるんだろうと考えていたんです。サポーターとの近さや『囲まれている感』とか。(スタンドのほとんどが浦和ユニフォームの)赤い色ではあったのですが、私自身にも少し『赤い血』が入っているので(笑)そこは楽しませてもらいました。すごいなぁって思いましたね」

マイナビ仙台レディース GK松本真未子選手

GKのユニフォームやトレーニングウェアは赤。浦和で育った松本選手にとっては慣れ親しんだ色でもある

 

―「赤い血」という話が出ましたが、松本選手は浦和レッズレディースの下部組織出身(ジュニアユース、ユースからトップ昇格)。サッカーを始めたきっかけはどのようなことでしたか?

「私はサッカーを始めたのが小学校5年生くらいで遅かったんです。それまではバスケットボールやドッジボールなど球技自体はやっていました。サッカーには友達に『助っ人』という形で誘われていきました。小学校のチームには上野紗稀さん(現・浦和)や平尾知佳さん(現・新潟)もいました。そのあとを追いかけるようにレッズの(ジュニアユース)セレクションを受け、合格できたのでそのまま進みました」

―初めからGKだったのですか?

「そうですね。助っ人で入った時もGKをやっていました」

―バスケットも似合いますね。活躍しそうなイメージです。

「そうですか?(笑)バスケは見るのもプレーするのも大好きです。小学校の部活でミニバスをやっていました。その時の顧問の先生が熱心な方で、結構ガチでやっていました」

―レッズの下部組織で過ごした時期はどのような日々でしたか?

「練習場ではトップチームの選手が練習していて、私たちはその隣のフットサルコートで練習をしていました。その頃はプロ選手はほとんどいなくて、ほぼアマチュアだったとは思います。でも私にとっては『みんなプロ選手』というような感じ。その選手たちを近くで見て感じながら練習できたことは幸せでした。そして、そこには山郷のぞみさん(元日本代表GK。現EL埼玉GKコーチ)という、偉大な先輩がいました。『山郷さんを目指すんだ。目指さなきゃいけないんだ』とコーチにも言われていたので、そういう環境が自分を強くさせてくれました」

マイナビ仙台レディース GK松本真未子選手

憧れの山郷のぞみさんに少しでも近づきたい。ピッチでは味方に安心感を与える指示の声が響く

 

―その頃は山郷さんが現役で活躍していた頃ですね。

「はい。お団子ヘアがトレードマークでプレーされていましたね」

―松本選手がトップ昇格したときは、山郷さんと一緒にプレーできましたか?

「いや、それが1、2年くらいすれ違っています。ちょうど山郷さんがちふれエルフェン埼玉に移籍した頃でした」

―松本選手は憧れの選手として、いつも山郷さんの名前を挙げていますよね。永遠の憧れですね。

「ジュニアユースの頃に浦和レッズレディースのホームゲーム運営を手伝っていました。その時にGKは、ゴール裏で、常に間近でプレーする様子を見せていただきました。試合運びやゴール前に立つ気迫……。そこにいるだけで、強い圧力を感じさせる人だなぁと感じ、そこに本当に憧れました」

マイナビ仙台レディース GK松本真未子選手

長年、偉大な先輩たちの背中を追いかけた。新しい仲間とともに、今度は自分が輝く番

 

―高校時代、ユースの時の環境はいかがでしたか?

「常に目指すところは変わりなく練習に励んでいました。二種登録で、トップに練習参加させてもらっていました。その頃、高校生の自分は、練習に行くのが怖かったんです。実は喜んで行ける気持ちではありませんでした。でも、今思うと、トップへの良い準備期間というか、雰囲気になれることやトップの選手がどんなプレーをするか、厳しさを知ることができる機会になったかなと思います」

―名だたる先輩たちの間に入っての練習。高校生にとっては怖い部分もありますよね。

「はい(笑)その頃の自分は自信なさげにプレーしていました。コーチング(味方への指示)では、タメ口で言わなければいけないし、名前も呼び捨てにしなければいけないところもあり怖かったです。そういうところもありましたね(笑)」

―浦和でトップ昇格した後も、なかなか先発出場のチャンスは巡ってきませんでした。苦しい時間は長かったですか?

「その頃のレッズは池田さん(池田咲紀子選手)が先発出場していて、田尻有美さん(2020年現役引退)、平尾さんがいて、日本代表に絡む選手が多かったので、そういう選手たちから吸収するだけでした。その日々の中で『自分の長所は何だろう』と考えたときに、シュートストップで勝負していこうという気持ちがありました。そういうところを磨き、下積みをし続ける毎日でした」

―試合では、GKはたった一人しか出場できないポジション。心折れずに鍛錬を続けてこられたのはどうしてですか?

「なんでしょうね……。学び続けたいという気持ちはずっとあります。やっぱり、試合に出ている選手に対して何をしてあげられるんだろう? とか、チームのために自分にできることは何かということは、考えながらやって来られたと思います」

マイナビ仙台レディース GK松本真未子選手

試合に出続ける責任感。様々な人の思いを背負ってピッチに立つ

 

―GKグループは互いにポジションを争うライバルであり、一つのチーム。その中から試合に「たった一人」を送り出すというのは大変なことですね。

「はい。同じトレーニングを毎日しているので、私たちは練習中の仲間の姿を知っています。試合に出る人がどれくらい頑張っているかということも間近で見て知っている。ゲームになったら、ライバルではなく仲間として送り出すだけだと思います」

―今は先発出場を続けていて「送り出される立場」です。どのようなことを感じますか?

「本当に、常にいい準備をするということは変わらないです。自分がいつどちらの立場(先発か控えか)になるかわからない、安心できないポジションでもあるので。100%自分の力を出し切るということが、仲間への恩返しでもあると思うので、どんなことにも妥協はできないです」(後編へ)

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。