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仙台89ers B1昇格へあと一歩届かず キーマン笹倉と振り返る2020-2021シーズン

仙台に拠点を置くプロバスケットボールチーム、仙台89ers。

現在は国内のプロバスケットボールリーグの2部組織であるB2リーグに属しているが、今季は初のプレーオフ進出を決めるなど躍動の一年となった。

そんな89ersの2020-2021シーズンを記憶に残るキーマンとともに振り返りたい。

 

2019-2020 B1昇格まであと一歩とせまる

一つ前のシーズンとなる2019-2020シーズン、89ersはかつてないペースで白星を重ね、Bリーグが発足した2016-2017シーズン以来となるB1昇格を射程圏内に捉えていた。

そんな中、リーグを襲ったのが新型コロナウイルス感染症である。

2月にリーグ戦の中断が発表されると、結局、その後試合が再開されること無くシーズンは閉幕となった。

結果、2月上旬までの成績で全体順位が決まり、B2からは上位2チームがB1昇格決定。地区優勝こそ果たしたものの、リーグ全体3位に終わった89ersは惜しくも昇格を逃した。

 

2020-2021前半戦 開幕5連勝を飾るも、故障者続出

そうして迎えた2020-2021シーズン。

主力としてはミラー・ジェイコブセン・月野らが残留。

また、補強の要としてアルバルク東京から笹倉怜寿が期限付で移籍。

チームの持ち味であるディフェンス力はそのままに、PGとしてはサイズのある笹倉がオフェンスの突破口となることが期待された。

新型コロナウイルスの影響により、昨シーズン同様いつリーグ戦が中断されてもおかしくない状況下での開幕となった2020-2021シーズンだが、「(シーズン中断時の順位で昇格が決まるのであれば)目の前の勝利にこだわらなければいけなかった」と振り返った桶谷HCの思惑通り、89ersは開幕から5連勝。これ以上ないスタートダッシュに成功した。

しかし全てが思惑通りに進んだわけではない。

笹倉・月野らが相次いで故障し、当初描いていた戦術が崩れる場面が徐々に増えていった。

 

ワイルドカード上位で初のプレーオフ出場

更に2月に入ると、桶谷HCをはじめスタッフ陣が新型コロナウイルスに感染。一時戦線離脱を強いられることになる。

苦しい展開が続いた89ersだが、それでも勝率上位に食い込みレギュラーシーズンを終え、リーグ参入以来初のプレーオフ出場を果たした。

プレーオフ準々決勝では故障から復帰した笹倉や特別指定選手の渡辺の活躍によって西宮ストークスを2連勝で下すも、準決勝では茨城ロボッツに2連敗。

あと一つコマを進めればB1昇格、というところまで迫ったものの、またしても昇格目前で散る形となった。

 

キーマンとなった笹倉怜寿

今シーズン、チームのキーマンとなったのは笹倉怜寿だろう。

B1のアルバルク東京から一年間の期限付きでレンタル移籍されてきた笹倉は、固い守備、アウトサイドからローポストでのアタックまでしかけられる多彩なオフェンスと、それを活かす的確な状況判断力を持ち合わせ、チームの戦術にもフィット。

89ersでも出場47試合中42試合でスターター。平均25分のプレイタイムで平均11.2得点と、ルーキーイヤーとは思えないスタッツを残している。

東海大時代に特別指定選手として出場した3試合を除けば、今年まだプロ一年目。

それにも関わらず、このような結果を残せた背景には、桶谷HCの言うところの「ウィナーズメンタリティ」が大きい。

何を隠そう、笹倉はあの八村塁と同じ奥田中学出身。しかも八村とは同級生で、ともに全国中学校バスケットボール大会で準優勝を果たしている。

更に、大学バスケの名門である東海大では3年時から主力として活躍。年代別の日本代表にも選出されている。

そのような得難い経験の数々が自信となり、笹倉を良い意味でルーキーらしからぬプレースタイルに仕立て上げたのは間違いないだろう。

とは言え、もちろん今が最高到達点、という訳ではない。

シーズンを通しても成長をとげており、特にチームを背負って立つ責任感はこの一年で大きく成長した部分と言える。

それが顕著に表れたのが、プレーオフの準々決勝第2戦だ。

シーズン前半、笹倉は決めれば逆転、外せば敗戦、というショットを外したことがある。

バスケットボールの試合では決して珍しくは無いシチュエーションだが、そこで最後のショットを打つ役割を任されるのは、当然チームで最も信頼すべきプレイヤーである。

笹倉は桶谷HCから「あれを決める選手にならなきゃいけない」とシーズン中言われ続けていたと言う。

そして迎えたプレーオフ準々決勝、対西宮の2戦目。試合時間残り10秒を切った時点で仙台が1 点を追う展開。

トップでボールを持つ笹倉に対し、ジェイコブセンがスクリーンをかけると、相手ディフェンスはすかさずスイッチ。

しかしピックアンドロールを警戒した相手ディフェンスの意識がジェイコブセンに向いた一瞬の隙を笹倉は逃さない。

ステップバックでディフェンスと距離をとり、シュートスペースを確保。

慌ててカバーに入ったもう一人のディフェンスもシュートフェイクで冷静にかわし、そのままハイポストからジャンプショット。

放たれたボールがリングに吸い込まれると、相手の追撃を許さないまま試合終了、89ersの準決勝進出を決めるビッグショットとなった。

 

89ersは新体制へ

来シーズン、笹倉は当初の契約通りアルバルク東京への復帰が決定している。

89ersファンとしては少々残念だが、仙台に縁のある選手として、上位のB1リーグでの活躍に注目したい。

3年間89ersでHCを務めた桶谷氏は退任が決定。同時に元琉球HCの藤田氏が新HCに就任することが決定した。

新体制となる89ersで注目すべきは、もう一人のルーキー渡辺翔太だろう。

プレーオフ準々決勝第1戦ではチームに勝利をもたらす逆転ショットを決めたものの、プレーオフ準決勝第2戦では決まれば同点のラストショットを決めきれなかった。

この経験は、シーズン序盤の笹倉と重なるものがある。さらなる成長への大きな原動力になるはずだ。

二年連続でB1昇格目前まで迫った89ers。今度こそ昇格を決め、三度目の正直となることを期待したい。

安藤悠太
安藤悠太

東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。