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FOOTBALL

ユアスタに舞い降りた新星。育ち盛りのMF加藤千尋選手が13連戦で見せた勢いとたくましさ

(提供:ベガルタ仙台)

「ヘディングはあまり得意じゃないんですけど、決めることができて良かったです」。

 ヒーローインタビューではにかむ22歳の大卒ルーキーは、今やベガルタ仙台の勝利に欠かせない選手となりつつある。その人とは、流通経済大学から加入したMF加藤千尋選手。豊富な運動量に、ダイナミックな2列目からの飛び出し。ゴールへの嗅覚は鋭く、「ここぞ」のチャンスを逃さない。彼がピッチに立つと、何かが起こる。そんな期待を抱かずにはいられない存在だ。

 序盤の戦いでは勝ち星に恵まれなかったベガルタ仙台。加藤選手はルヴァンカップ第1節アウェイ横浜F・マリノス戦で、後半19分から途中出場でプロデビューを果たした。結果は0-1の敗戦となったが、この試合以降、リーグ戦でもルヴァンカップでも途中出場で少しずつ存在感を示し始める。献身的な守備、一転攻撃となれば大胆さも発揮する。手倉森誠監督もこうした加藤選手のプレーぶりについて「ダイナミックさがある。相手に体を預けたまま、ボールを前に運ぶ力強さがある」と高く評価していた。

 その働きが実を結んだのはルヴァンカップ第3節アウェイ広島戦だった。プロ初ゴールを決めて、チームの今季公式戦初勝利に貢献。勝利をつかみきれなかった日々を振り返り「長かったな、というのが率直な感想です。やっと勝てたので、素直にうれしいです」とはつらつとした笑顔を見せた加藤選手。ここから「ニューヒーローの快進撃」、その序章が始まった。

加藤千尋選手

(提供:ベガルタ仙台)

 

 開幕から約2ヶ月が経ち、新人選手には最初の「試練」が待っていた。4月半ばから5月まで約6週間に渡った「怒涛の13連戦」という超ハードスケジュールである。試合と試合の間は中2日、長くても中3日しかない。一つの試合が終わると、移動し、次の試合へ向けたトレーニングが始まり、また移動……。体力に自信のある若手選手でも、このスケジュールをこなすのは簡単なことではない。経験が少ないだけに無理をしてしまい、コンディショニングに苦戦する選手もいる。そんな時も加藤選手は「連戦は総力戦。気持ちを高めてやっていきたい」と前向きに取り組んだ。手倉森監督が「この13連戦は、結果を求めながら選手をたくましく鍛え上げる期間」と位置づけたが、その期待通り、日に日に加藤選手は頼もしさを増していった。

 その姿勢は、着実に結果につながっていく。J1第11節アウェイ北海道コンサドーレ札幌戦では、リーグ戦初ゴールをマーク。更に、ルヴァンカップ第6節ホームのサンフレッチェ広島戦では、「スーパーゴール」が決まる。コーナーフラッグ付近のエリアでDF蜂須賀孝治選手のスローインを受け、「何も考えずに打てば何かが起こると思った」と角度のないところから右足で蹴りこみ直接ゴールを決めた。「運よく(ゴールが)入りました」と照れ笑い。試合の解説に訪れた元日本代表ストライカーの佐藤寿人さんも「10年に一度くらいのゴール。世界に配信されるゴールですね」と絶賛するほどだった。こうしてシンデレラボーイは、サポーターを魅了し、スタジアムをあっという間に熱狂の渦に巻き込んだのだった。

加藤千尋選手

(提供:ベガルタ仙台)

 

 そして、J1第15節ホーム大分トリニータ戦では、1-1の場面で後半から途中出場すると、MF富田晋伍選手のクロスに、打点の高いヘディングで合わせて勝ち越しゴールを奪った。相手と駆け引きしながら、味方が作ったスペースに入り込み仕留めた。「そこにうまくボールが来たので、タイミングを合わせてシュートを打ちました。勢いもあったので入って良かったですね」。先発では手堅く試合を進め、途中出場ではチームの攻撃を勢いづける。いずれの出場パターンでも結果を出せることを証明して見せた。

加藤千尋選手

(提供:ベガルタ仙台)

 

 公式戦4ゴールで波に乗る加藤選手だが、けして浮かれる様子はない。「目に見える結果で自分の価値を上げる。そこはぶれていません」。シーズン前に誓った目標は変わらずに、心に留めている。「まだまだ結果を出し続けなければいけないですし、そこにこだわっていかないと上にも行けません」。指揮官や仲間の信頼を受けながらも、自分自身には満足していない。「ルーキーだというのは関係なく、チームを勝たせる選手になっていかなければと自覚しています」。どん欲に結果を追い求める加藤選手がベガルタ仙台を必ず高みへ引き上げる。まだまだ成長期の彼から目が離せない。

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。