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仙台大学付属明成高等学校バスケットボール部 第二の八村を目指して

去る2月6日、令和二年度の宮城県スポーツ賞の表彰式が開催された。

「県民の体育・スポーツの振興を推進し、県内の競技水準の向上と、スポーツに関する県民意識の高揚を図るため、スポーツの分野で顕著な成果を挙げた個人・団体を表彰する」ものとして毎年開催されており、今回の表彰式では以前記事でも取り上げた卓球の張本智和(日本大学高等学校)や体操の南一輝(仙台大学)らも表彰されている。

そんな中、今回注目したいのが功績賞(団体)に選出された仙台大学附属明成高等学校バスケットボール部だ。

 

2019年にワシントン・ウィザーズにドラフト一巡目で指名され日本人三人目のNBAプレーヤーとなった八村塁の出身校としても知られる仙台大学付属明成高等学校、通称・仙台明成高校のバスケットボール部は昨年12月、令和二年度では唯一のバスケットボール全国大会となった全国高等学校バスケットボール選手権大会(ウィンターカップ)で優勝を果たした功績が認められ、今回の受賞に至った。

 

連日連夜報道されている通り、OBの八村はウィザーズのスターターとしてすっかり定着。

元MVPプレーヤーのラッセル・ウェストブルックやオールスターにも選出されたブラッドリー・ビールと共に攻守に渡り主戦力として活躍中である。

 

そんな八村を育てた仙台明成バスケ部が創立されたのは2005年、田臥勇太がNBA史上初の日本人プレーヤーとなった翌年のことである。

 

2009年には創部からわずか4年でウィンターカップ優勝。

八村を擁した2013年〜2015年には三連覇を果たしており、決して歴史の長くない明成バスケ部だが、実はウインターカップの優勝は今回で通算6回目という驚異的な実績を誇っている。

 

その立役者とも言えるのが部の創立以来一貫して指導にあたっている佐藤久夫コーチである。

男子jr.日本代表ヘッドコーチも務めていた佐藤コーチは自身も宮城県出身。

母校である仙台高校でも指揮をとり、複数回の全国制覇を含めた好成績を残している。

その指導法は書籍やインタビュー記事としても様々な媒体で目にすることが出来るが、言葉の端々から感じられるのは選手一人一人と向き合う姿勢だ。

ともすれば目先の勝利に固執してしまいがちなスポーツの世界。それも三年間という限られた時間の中であれば尚更であるが、佐藤コーチは常にその先を見据えて、選手一人一人に将来どのような選手になりたいのか、そのためにはその瞬間その場面でどのような行動が必要なのかを考えさせ、自ら実行させる指導を徹底している。

その際たる例が八村である。

 

八村はNBAプレーヤーになりたい、という夢を持って明成高校に入った。しかし高過ぎる身体能力ゆえに、日本では全力を尽くさなくても試合をこなせてしまっていた。

だが、そのままアメリカに渡れば通用しなくなってしまう。そこで佐藤コーチは渡米後に必要になるであろうアウトサイドでのプレーやより強力なライバルとの競争に勝つためのハングリー精神など、一つ一つ具体的に八村にイメージをさせ、経験を積ませていき、夢を具体的な目標に変えていったのである。

 

現在、仙台明成には八村に続きたい、という思いを抱いて入部してくる海外にもルーツを持つ部員が増えているという。

確かにウインターカップでベスト5にも選ばれた山内ジャヘル琉人、今大会は怪我で欠場になったものの、チームの主力の一人である菅野ブルース、そして決勝ショットを鎮めたエースの山﨑一渉など、主力だけを見ても今の仙台明成で海外にもルーツを持つ選手が如何に活躍しているかは容易に見てとれる。

 

中でも「八村に続く逸材」として注目されているのが山﨑一渉だ。

プレースタイルや性格は決して八村には似てはいないため、佐藤コーチ自身は「八村二世」に仕立て上げようとは思っていない。

それでも八村と同じ背番号「8」を託されて一年時から試合に出場しており、「最後は一渉に決めてほしい」とコーチに言わしめる選手である。

前回大会では惜しくも準々決勝で敗退。八村世代が達成した三連覇の再来が期待されていたものの、既にその夢は叶わないものとなった。

しかし、その経験が山﨑をもうひとまわり成長させた。

「気持ちでは一歩も引かないプレーをします」という大会前の宣言通り、エースとしての自覚が芽生えた山﨑はクラッチタイムの決勝ショットを決めきり、二年生で唯一、大会ベスト5にも選出された。

 

去年も三年生の層が厚かった仙台明成だが、主力には山﨑一渉や菅野を含め二年生も少なくなかった。

「優勝した翌年のチーム作りは難しい」と佐藤コーチは語るが、今年はそんな山﨑らが三年生になり、否が応でも周囲からの期待がかかる勝負の年となるだろう。

今年3月に開催され、新チームでの初戦となった東日本大震災復興記念イベントでは盛岡市立高校と対戦。

山﨑一渉は38得点と期待通りの活躍、加えて怪我からの復帰戦となった菅野ブルースが39得点と、二人だけで実に77得点を叩き出しており、幸先の良いスタートを切ったと言える。

今年は追われる立場となった仙台明成バスケ部。

将来のNBAスター候補たちに、引き続き注目したい。

 

Photo by KYODO NEWS

安藤悠太
安藤悠太

東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。