仙台スポーツ
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FOOTBALL

指導者人生29年のマイナビ仙台レディース・松田岳夫監督 進化を止めない名将が選手に授ける『ひらめき』

指導者として来年30年目を迎える松田監督

 この秋に開幕する日本女子サッカー初のプロリーグ、WEリーグに参入したマイナビ仙台レディースは松田岳夫監督を招聘した。松田氏は日テレ・ベレーザ監督として2005年から4連覇を達成し、皇后杯は3度制覇。2015年から指揮を執ったINAC神戸レオネッサでは皇后杯優勝2回と、選手を磨き勝利に導く、確かな手腕を持つ。Jリーグで男子チームの指導経験も豊富な松田監督へマイナビは熱烈なラブコールを送り、初代監督就任が実現した。

 2021年は松田監督自身にとっても運命を感じる「特別なタイミング」だったという。「今回こういう形でマイナビにお世話になるのは、熱心に誘ってもらったのもそうだし、自分の中で指導者のスタートが女子だったというところ。そして女子のプロリーグが始まる初年度だということ。自分自身としても指導歴が来年で30年、年齢も今年還暦を迎える。いろんなタイミングが集約されている気がして、決断をしました。このチャンスの中で何ができるか、自分自身にとってもチャレンジだと思っているので、すごく楽しみな年になるなと思っています」。

練習場にはいつも松田監督の声が大きく響き渡る

 

 選手の良さを引き出し、個々の力を着実にチームの結果につなげていく。松田監督には長い指導歴の中で貫いてきた信念がある。それは「選手をけして型にはめないこと」だという。2月の就任会見でも語られたこの言葉、その真意を改めて聞かせてもらった。

「監督として『こういうサッカーをやりたい』という理想はあるけれど、あくまでもやるのは選手。その選手が『何をできるかでどういうサッカーをするかが決まる』というのが一番大事なこと。型にはめたくないし、選手にもマンネリ化して欲しくない。トレーニングも常に刺激を持って欲しい。サッカーは楽しくあるべきだし、楽しく厳しくやっていけば、緊張した中でもやれることが増える。そういうことは常に考えるようにしています」

 こうした考えのルーツは指導者としてのスタート、29年前にさかのぼる。「僕が最初に指導したのが今の(日テレ・東京ヴェルディ)ベレーザ。その頃は、澤(穂希さん・元なでしこジャパン)がまだ中学2年生かな。当時僕がコーチで入った時に、現ベレーザ監督の竹本(一彦)さんがそういう指導をされていました。そこに対してリスペクトし、一緒にできたと思います。それから東京ヴェルディの全カテゴリーを指導しました。女子だけでなく、小学生から高校生、最後は(男子の)トップチームも見ることができた。18年間ヴェルディで指導する中、やはり選手の個性を大事にするということを学びました。そこは指導者としては原点です」。

 原点にこだわりつつ、練習内容は時代や率いる対象に合わせ進化させる。2月のチーム立ち上げから新チームの選手一人一人に目を配り、個性を見極めてきた。目指すのは「攻守においてアグレッシブに、主導権を握るゲームをすること」だ。松田イズムを浸透させるべく、トレーニングでは「ポゼッション」を重視する。しかし目的は単にボールをつなぐことではないと松田監督は強調する。

「(ポゼッションは)ゴールを取るための手段。浜田(遥)や宮澤(ひなた)のスピードは武器になる。ボールを握っていれば彼女たちを生かすチャンスも増えていく。そういう意味でのポゼッションです」。ただボール回すだけのチームに脅威はない。チームとしての強み、選手の特長を生かすためにボールを握りたい。

自主トレーニングにもとことんつき合う松田監督

 

 松田監督の指導を受ける中、今年なでしこジャパンに初選出、4月8日のパラグアイ戦で代表デビューしたFW浜田遥選手はこう話す。「頭を使い考えながらサッカーをすることが増えました。どういう意図があってこの練習をしているのだろうと自然と考えるようになりました。松田さんが日頃から楽しく、考えるメニューを組んで下さっているからだと思います」。ピッチ上でこれまでにないほど頭をフル回転させているという。そこにも一つ、松田監督の狙いがある。

「実際のゲームは本能でやるべき。サッカーは頭で考えて判断するのも大事だが、ぱっとひらめくことも大事。考えている間に時間はどんどん過ぎ、プレーも遅くなってしまう。頭を経由しないでできるプレーを増やすために、今頭を使ってトレーニングしている、そのような感じです。同じプレーは二度とないけれど、似たようなシチュエーションの中で自分がどうすべきか瞬間でひらめいたり、気づいたりすることは多い。イメージを持ちながらトレーニングすることによってやれることが増えていきます」。この日々を積み重ねて、秋には今とは違う表情のチームに出会えるのかもしれない。

 9月のWEリーグ開幕を前に4月23日、いよいよ「プレシーズンマッチ」がスタートする。6月まで約2ヶ月間続くプレシーズンでは全チームがホームとアウェー、計4試合を戦う。マイナビにとってもリーグの中での「現在地」を見極める貴重なゲームとなる。

「各チームで(選手の移籍など)動きがあった中、自分たちのやろうとしていることがどれだけ通用するか。選手一人一人の力がリーグの中でどの位置にあるのかというのは、このプレシーズンでわかる。足りないことを伸ばすというよりは、良かったことを高めていきたい」。

プレシーズン開幕も間近。選手たちを更に磨き上げる。

 

 マイナビは初戦で三菱重工浦和レッズレディース(浦和L)とのアウェーで対戦する。「浦和Lは去年(なでしこリーグ1部で)優勝しているし、あまり選手の出入りはなかった。強い相手に対して、何ができるか試すいいチャンス。大事な機会にしていきたい」と松田監督。

 名伯楽が選手たちに仕込んだひらめきの種が、ピッチの至るところで花開く時を楽しみにしている。

 

Photo by 土田有里子

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。