
体操 床の新星 仙台大学 南一輝
Column
PARALYMPIC
藤井郁美選手(左)、藤本怜央選手(右)
新型コロナウイルスの影響により歴史上初めての延期となった東京オリンピック・パラリンピック。開催までついに4ヶ月となった。
既に出場権を獲得した選手、これから佳境を迎える選考レースにかける選手と置かれた状況は様々。オリンピック・パラリンピック大会本番の試合だけでなく、そこに至るまでの背景も知っていると応援により熱が入ることは間違いない。
2回にわけて宮城県にゆかりのある選手たちを紹介していく。第2回の今回はパラリンピックでの活躍が期待されている2チーム5選手を取り上げる。
車いすバスケットボールの強豪と言えば、やはり欧米である。
前回のリオパラリンピックでは、男子はアメリカが金メダル、銀メダルはスペイン、銅メダルはイギリスで4位がトルコ。女子は金メダルがアメリカ、銀メダルがドイツ、銅メダルがオランダとなっている。
一方、日本はというと、女子はそもそも出場権を獲得できず、男子も9位という成績に終わっている。実は前々回大会であるロンドン大会でも男子は9位で、順位だけを見れば全く変わっていない。
当然、男女ともにメダルからは程遠い成績に見えるが、近年の日本代表チームの戦績には目を見張るものがある。
好例が2018年に行われた男子の世界選手権である。こちらも順位こそ9位に終わったが、予選ではトルコを下し、決勝トーナメントではスペインに破れたもののその点差僅か2点。
更に2019年の「アジア・オセアニアチャンピオンシップス」では4位という結果に終わったものの、当時の世界ランクで3位と4位であったオーストリアとイランを撃破している点も見逃せない。
一方、女子も2019年は格上を相手に確かな手応えを感じた一年だったと言える。2月の「2019国際親善女子車いすバスケットボール大阪大会」ではイギリスを相手に敗れはしたものの6点差まで迫り、8月の「日本生命WOMEN’S CHALLENGE MATCH 2019」ではオーストラリアを撃破。11月〜12月の「2019アジアオセアニアチャンピオンシップス」では1勝5敗という成績ながら確かな手応えと課題を得た。
そんな快進撃を続けている日本代表チームの中心にいるのが、仙台市を拠点として活動中の「宮城MAX」に所属している藤本怜央と豊島英、そして藤井郁美の三名である。
藤本は2004年のアテネパラリンピックから2008年の北京パラリンピック、2012年のロンドンに2016年のリオパラリンピックと代表に選ばれ続けており、リオ大会ではキャプテンも務めた文字通り男子日本代表の大黒柱である。所属する宮城MAXでも11年連続で得点王を獲得している藤本は、代表戦でも得点でチームを牽引する。
そして現在の男子日本代表キャプテンが豊島だ。豊島も2012年ロンドン大会から代表に選ばれ続けており、経験は十分。藤本がオフェンスの要だとすれば、豊島はディフェンスの要としてスピードを活かしたスティールや相手をリングに近付けないアグレッシブなディフェンスでチームを支える。
女子日本代表の鍵を握るのはキャプテンであり、やはり「宮城MAX」の一員である藤井郁美である。
2012年ロンドン、2016年リオとパラリンピック出場を逃してしまった女子日本代表の中にあって数少ない2008年北京パラリンピック経験者でもある藤井は、後方に下がりながらのフェイダウェイシュートが武器。どこからでもシュートを決める得点力は相手にとって脅威となる。更に東京大会ではキャプテンとしてチーム内のコミュニケーションにも気を配り、チーム力でメダルを狙う。
男女ともに上り調子の車いすバスケットボール。悲願のメダル獲得まであと一歩だ。
「ONE TEAM」が流行語大賞にも選ばれるなど、日本中がラグビーワールドカップに湧いた2019年。ジェイミージャパンの快進撃の裏で、実はもう一つのラグビー世界大会である「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」が開催されていたのをご存知だろうか。
車いすラグビーは2000年のシドニー大会から公式競技として採用されてされて以降、上位はアメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの寡占状態であった。
そして近年そこに風穴を開けつつあるのが実は日本なのである。
日本が初めてパラリンピックに参加したのが2004年のアテネ大会。当初こそ参加国8チーム中8位という結果に終わったが、2008年北京では7位、2012 年ロンドンでは4位と着実にステップアップし、2016年リオ大会ではついに銅メダルを手にしている。
更に2018年の世界選手権では初の決勝進出を決め、ホスト国であるオーストラリアに62-61で勝利し初優勝を果たした。
冒頭の「車いすラグビーワールドチャレンジ2019」ではリベンジを狙うオーストラリアに準決勝で敗れ、決勝進出こそ叶わなかったものの銅メダルを獲得。安定した強さを誇っている。
そんなメダルが有力視されている車いすラグビーにおいて将来の日本代表の核になるであろう選手が東北で活動する車いすラグビーチーム「Tohoku Stormers」の中町俊耶と橋本勝也だ。
大学1年まで野球部の投手だった中町の武器は何と言ってもその左腕から放つ正確なロングパスである。走っている選手に対しても、どこに投げれば取りやすいパスになるのか考えなくても感覚的に分かるという。2019年の国際大会でもそのパスがチームを救う力となった。
一方の橋本は2018年、16歳の時に史上最年少で日本代表に選ばれた将来のエース候補である。待ち望まれていたハイポインター(障害の軽い選手)である橋本は高校生ながら攻守の要となるポジションを担い、長いリーチと高い運動能力で勝負どころでの出場機会を目指す。
チームはこの大会で金メダルを本気で狙いにいけるポジションまで成長してきた。パラリンピックが一年延期になった分、その間に若手がどこまで成長できるかが勝敗の鍵になるのは間違いないだろう。
Photo by KYODO NEWS
東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。