
体操 床の新星 仙台大学 南一輝
Column
OLYMPIC
新型コロナウイルスの影響により歴史上初めての延期となった東京オリンピック・パラリンピック。年が明けて2021年に入ったことで間もなく2度目の五輪半年前を迎える。既に出場権を獲得した選手、これから佳境を迎える選考レースに最後の望みをかける選手と置かれた状況は様々。オリンピック・パラリンピック大会本番の試合だけでなく、そこに至るまでの背景も知っていると応援により熱が入ることは間違いない。
これから2回にわけて宮城県にゆかりのある選手たちを紹介していく。第1回目はオリンピックでの活躍が期待されている3選手を取り上げる。
©ChinaImages via ZUMA Press/共同通信イメージズ
世界の卓球シーンでは男女ともに中国という巨人が君臨している。近年安定的に好成績をあげている日本卓球界にとっても、中国の壁は厚く高くそびえたっている状況だ。前回2016年のリオデジャネイロ大会では男女全ての種目で中国が金メダルを獲得した。日本は男子シングルスで水谷が銅メダル、男子団体で銀メダル、女子団体で銅メダルを獲得しているが、中国勢との力の差を改めて感じた大会でもあった。
しかし現在、その壁を少しづつではあるが確実に打ち破りつつあるのが張本だ。両親ともに中国の元卓球選手という家庭に生まれ、仙台市で育った張本。両親は英才教育を施すつもりはなかったというが、幼少期より頭角を現し、中学進学の際には将来のトップアスリートを育成するJOCエリートアカデミーに入るため東京へ移住した。
そんな張本はリオ大会があった2016年、ジュニアの世界卓球選手権でシングル史上最年少優勝を果たし注目を集めると、翌年以降参戦したシニアの大会でも次々と最年少記録を打ち立てていく。チキータやフリックを得意とし、前から攻めて行くスタイルの張本は卓球のゲームそのものを変え、2018年には史上最年少で世界ランキング3位にまで上り詰める。こうすると当然世界のライバル選手たちも張本対策を取り始め、2019年に入ると一旦快進撃がストップしたかに見えた。しかし同年12月に開催された中国・成都でのワールドカップでは準決勝で世界ランキング4位の馬龍を撃破、決勝では同1位の樊振東に敗れたものの互角の戦いを繰り広げたことで復活を印象付けた。2020年に入っても調子を維持し、新型コロナウイルスの影響で活動が制限される中、11月に開催されたワールドカップでは3位入賞を果たしている。
年齢的に若い張本にとって、ライバルたちとの一番の差はフィジカル面だった。五輪が1年延期されている間にフィジカル面を向上させることができていれば、東京大会は張本が歴史に名を刻むための大会となっている可能性は大いにある。
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なでしこジャパンにとって、前回のリオデジャネイロ大会は悪夢のような大会だった。2011年ドイツワールドカップ優勝、続く2012年ロンドンオリンピックと2015年カナダワールドカップではともに準優勝と好成績を残し、2016年も間違いなく優勝候補の一角であったチームは、まさかの予選敗退という結果に終わった。
敗因の一つとして挙げられているのが、世代交代の失敗である。
それまで圧倒的エースであった澤の引退。更にチームの主力の多くは30歳を超えていた。
もちろん当時の佐々木則夫監督も黙って手を拱いていた訳ではなく、むしろ積極的に若い世代にチャンスを与えていたのだが、結果は前述の通りである。
あれから4年、現在の高倉麻子監督の元に招集されている顔ぶれを見ると、そのほとんどが20代で構成されている。
実は今のなでしこジャパンのメンバーの中には、2014年に開催されたU-17のワールドカップで優勝経験のあるメンバーが複数名選出されている。世代別とはいえ、世界大会で優勝経験があるだけに期待も大きい。
中でも長谷川は、FIFAの公式サイトにも特集を組まれるなど、世界的にも注目を集める選手である。出身は宮城県仙台市、幼少期に埼玉県に引っ越しているが、自身のルーツとして思い入れがあると語っている。長谷川の主なポジションはインサイドハーフまたは左サイドハーフだが、チーム状況に応じて、センターバックやフォワードの仕事をこなしたこともある。どんなポジションでボールを受けても、自分の間にボールを置けるのが長谷川の強みである。並々ならぬ運動量と卓越したテクニックでなでしこジャパンの復活を担う。
KYODO NEWS
射撃競技は本場欧州勢が優勢を誇っている。イタリア、ドイツ、ロシアなどに加え、イギリスや東欧勢も力を持っている。これらの国に五輪の場においては中国、韓国、アメリカ合衆国が加わってくる。
一方で日本はというと、マイナースポーツと言わざるを得ない国内の状況を反映し、1992年バルセロナ大会を最後にメダルから遠ざかってるのが実情。しかし、射撃は他の多くのスポーツと違い、若さよりも経験がものを言う競技とも言われ、過去のメダリストを見ても年齢層が高い。その点、前回出場経験のある秋山には他の選手をリードできる要素がある。
秋山が競技を始めたのは警察官になったことがきっかけだった。宮城県警に所属する秋山は東日本大震災では機動隊の指揮を執った。しかし行方不明者の捜索が思うように進まず、肉体的にも精神的にも極度の疲労とストレスに苛まれ利き目が見えなくなり、結果的に手術も余儀なくされた。ただ、震災を経て、競技に対する考え方、人生観も変わったと本人は語る。競技くらい頑張れて当たり前、マイナスな出来事があっても、神様が与えてくれた試練だとプラス思考に捉えるようになったと。
なにより精神の安定は射撃という競技にとって非常に大切なものだ。姿勢や引き金を引く技術と同様に、トップの選手たちは呼吸を調整して引き金を引くその瞬間を探っている。東京大会で射撃場技を見る際にはぜひ秋山の呼吸を感じ取って欲しい。
支えてくれている人たちのため、そして今も復興のために戦っている被災地に少しでも良い話題を届けるために東京大会でメダルを目指す。
東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。