
東京オリンピックで注目すべき宮城県にゆかりのある選手3人
Column
GYMNASTICS
日本は自他ともに認める体操王国である。
1960年のローマオリンピックで男子団体総合で優勝してからというもの、オリンピックの同種目では1976年モントリオールオリンピックまで五連覇を達成。その後も幻となった1980年モスクワオリンピックの一回を除けば、現在に至るまでこの種目において日本がメダルを逃したのは1996年アトランタ大会と2000年シドニー大会の2回のみである。
前回2016年のリオデジャネイロ大会では2004年アテネ大会以来の団体金メダル獲得となり、当然東京オリンピックでもメダルが期待される。
それゆえ、国内での代表争いも熾烈を極めているのである。
体操競技には男子の場合、床・鞍馬・跳馬・吊り輪・平行棒・鉄棒の6種目があり、これら全てを一人でこなしその合計得点を競う「個人総合」と、この中の1つの種目に絞って戦う「種目別」という区分がある。
選手がこのどちらを選択するかによっても、準備の仕方が全く変わってくるのも体操競技の特徴の1つである。
体操競技の日本の代表枠は団体戦メンバーの4人を含む最大6人。団体選手以外の2枠を、個人総合、種目別の選手で争う形になる。
実は前回のリオ大会までは、団体は1チーム5人制だったが、今大会から4人制に変更され、代わりに種目別出場選手の出場枠が追加されている。
このことによって従来は団体選手の中に1人は含まれていた種目別スペシャリストが今大会では団体枠に入れず、団体選手は全ての種目を満遍なくこなせるオールラウンダーな選手で固められ種目別スペシャリストは残りの枠をかけて戦う形となった。
そんな熾烈極める代表選考レースで最近になって頭角を現し始めたのが、仙台大学の南一輝である。
南は健康のために、という理由で小学2年生の頃体操教室に通い始めた。
小中学生の頃は目立った成績もなく、高校に入っても2年までは無名の選手だった。
しかし3年になると一気に伸びて中国大会で優勝。
そのままの勢いで高校総体で日本一となる。
その後、監督からの誘いがあったこと、得意種目である床が強いことなどを理由に仙台大学に進学。
入学後しばらくはオールラウンダーとして6種目を続けていたが、仙台大学監督の鈴木良太からの勧めで18年より床のスペシャリストとして一種目に絞ることに。
2019年6月に全日本体操競技種目別選手権に出場すると、それまで大会6連覇中だったリオ大会団体金メダリストである白井健三を破り見事初優勝。
続いて出場したオリンピック代表選考を兼ねる種目別のワールドカップでも優勝を果たして一気にその名を上げた。
2020年12月、コロナウイルスの影響により延期となっていた全日本体操競技種目別選手権で再び優勝し、本格的にオリンピック代表候補の一角となった。
そんな南が現在挑戦中の技が「リ・ジョンソンハーフ」である。
「リ・ジョンソン(後方抱え込み2回宙返り3回ひねり)」というG難易度の南の得意技に更に「ハーフ(半ひねり)」を加えたH難易度の技で、成功すれば世界初となる。体操では世界大会で初めてその技を成功させた選手の名字が技名に採用されることが多いため、「ミナミ」の名が技名につく可能性もあるのだ。
余談だが、南が2019年に日本選手権で優勝するまで6連覇していた白井。
現在床で3つ跳馬で3つの計6つもの技に「シライ」の名が付けられている、というエピソードだけをとっても、白井が如何に突出した選手だったかはお分かり頂けるのではないだろうか。
そしてそんな白井を下した南が更に難しいこのH難易度の技を成功させなければならない最大の理由が、オリンピックの出場権争いである。
実は現在オリンピック出場にあたっての最大のライバルとなっているのが、言わずとしれた内村航平なのだ。
2019年に日本選手権で12年ぶりに予選落ちした内村は今季から種目を鉄棒一本に絞り、オールラウンダーから一転、種目別スペシャリストとなった。
そのため、内村も従来の団体枠ではなく、残り2枠を狙わなくてはならないのである。
そしてそんな内村が2020年12月の日本選手権で優勝した際に成功させたのが、鉄棒で同じくH難易度とされる「ブレットシュナイダー」だった。
つまり南は、これに匹敵する難易度の技を代表選考レース中に完成させる必要があるのである。
12月の日本選手権では「リ・ジョンソン」を余裕をもって成功させ、新技の成功にも自信を見せる。
実際、南のインスタグラムには既に「リ・ジョンソンハーフ」の着地に成功している動画が既に複数アップされている。
日本選手権後の柴田町表敬訪問では新技について「大きな武器になる。金メダルを取って多くの人を笑顔にしたい」と既に世界一を見据えている南。
次の勝負は4月以降に開催が予定されているオリンピック出場をかけた国内選考会。
金メダルを撮るために、体操王国日本での代表権獲得を目指す。
Photo by KYODO NEWS
東京大学文学部卒業、早稲田大学スポーツ科学学術院修士課程修了(優秀論文賞受賞)、フランスレンヌ政治学院欧州政治コース修了。学生の頃よりフリーのライターとして活動開始。ニュース記事やコラム、インタビュー記事の編集・執筆から海外での学術書執筆まで幅広く対応。国立のスポーツ機関で10年ほど国内トップアスリートの支援や草の根レベルのスポーツ支援に従事。現在は愛してやまないスポーツの新メディア立ち上げに関わることができ幸せです。宮城のスポーツシーンが盛り上がるよう、東京から記事を届けます。