仙台スポーツ
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FOOTBALL

受け継がれるバトン。マイナビ仙台レディース、2021年WEリーグへ

 東日本大震災発生から間もなく10年を迎える。東北地方を中心に未曾有の犠牲と被害を出したこの震災によって、失われたサッカーチームと新たに生まれたサッカーチームがあった。前者は「東京電力女子サッカー部TEPCOマリーゼ」(以下マリーゼ)、後者は「ベガルタ仙台レディース」(以下仙台L)である。

 日本女子サッカーのトップリーグ「なでしこリーグ」所属のマリーゼは、福島県双葉郡楢葉町・広野町にある「Jビレッジ」を拠点としていた。2009年、10年とリーグ3位の成績を上げ、女子サッカーの強豪として現在はタレントの丸山桂里奈さんや鮫島彩選手(現大宮アルディージャVENTUS)など、多くの代表選手を輩出した。しかし、東京電力福島第一原子力発電所事故によりすべてが変わってしまった。当時、開幕を控えて宮崎県でキャンプ中だったチームは、活動休止を余儀なくされた。Jビレッジは直ちに事故対応の拠点となった。同年秋にはマリーゼの「休部」が発表され、事実上チームは解散となった。

マイナビ仙台レディース マリーゼから来たメンバー

 一時的に他チームに所属する選手もあれば、母校に身を寄せ一人で練習していた選手もいた。マリーゼのメンバーがもう一度チームとして活動するため、選手の受け入れ先として名乗りを上げたのがサッカーJ1のベガルタ仙台である。2011年11月、女子チームを新設し2部リーグに相当する「チャレンジリーグ」に参戦することが発表された。仙台に新たな女子サッカーの灯がともった瞬間だった。

 初代監督はベガルタ仙台OBの千葉泰伸氏。マリーゼ時代から選手を支え、「仙台で共にサッカーをしよう」と選手たちに熱心に声をかけた正木裕史氏(現浦和レッズレディース)もコーチに就任した。当初、マリーゼからの選手は18人。更にセレクションや移籍によって4人の選手を迎え、22人で一年目を戦い抜いた。ベガルタ仙台同様、仙台Lの選手もチームカラーのベガルタゴールドのユニフォームに身を包んだ。

 2012年4月15日のホーム開幕戦、ユアテックスタジアム仙台には信じられない光景が広がっていた。ゴールドのユニフォームを着た観客がゴール裏のスタンドを埋め尽くし、選手たちを熱烈に迎えたのだ。その数は6000人を超え、サポーターは「サッカーを続けてくれてありがとう」というメッセージを掲げた。あふれる涙をぬぐって、ウォーミングアップを始めた選手もいた。「一年目のメンバーが集まると今でもこの横断幕の話になる」と多くの選手たちが振り返る。震災で傷つき、葛藤を抱えながらも立ち上がり、サッカーを続けることを決断した選手たちを支える言葉となっている。この年、仙台Lはサポーターの大きな後押しを受け「20勝2分」と無敗でチャレンジリーグ優勝、1部昇格を果たした。

マイナビ仙台レディース ユアスタ、サッカーを続けてくれてありがとう

※チームより提供

 仙台Lでは数人のプロ契約選手を除いて、大半はアマチュア選手として、平日の昼は地元の協力企業で仕事をし、夕方から練習を行った。小売店の店頭で接客を行う選手もいれば、放送局でディレクターを務める選手もいる。地図の制作会社で、図面が引けるようになった選手もいた。それぞれが社会人としてのスキルを磨きながら、職場のバックアップを受けてサッカーを続けてきた。週末の試合会場には、会社の上司や同僚、その家族までがスタンドに駆けつけ、選手の名前が書かれた横断幕や応援フラッグがスタジアムを彩った。

マイナビ仙台レディース スタジアムいっぱいの横断幕

 「ベガルタの妹たち」は、仙台で地域の人やサポーターに愛されてきた。地元の高校女子サッカーの名門、常盤木学園高等学校から入団する選手も増えた。その一人、DF市瀬菜々選手はベガルタの名を背負って、「FIFA女子ワールドカップ フランス2019」にも出場した。70人を超える選手たちが杜の都で躍動した。2020年はリーグ戦7位でフィニッシュ。皇后杯もベスト4まで進んだ。上位進出は叶わなかったが、エースのFW浜田遥選手は得点女王まであと一歩のリーグ2位。キャリアハイの15得点を挙げる大活躍だった。

「勝つことで、宮城や福島に元気を伝えたい」。選手たちは9年間、東北の希望の星になるべく奮闘し続けた。その根底に流れるのは、マリーゼからベガルタへとチームが引き継がれ、仲間とサッカーを続けることができたことへの感謝の思いだ。

マイナビ仙台レディース 皇后杯 集合写真

※チームより提供

 今度はベガルタからマイナビへとバトンがつながれる。2021年、チームは「マイナビ仙台レディース」として生まれ変わる。ベガルタ仙台から株式会社マイナビへと経営権をバトンタッチし、引き続き仙台市を拠点として、秋に開幕する日本女子初のプロサッカーリーグ「WEリーグ」に参戦する。

WEリーグ公式Webサイト: https://weleague.jp/

 マイナビ仙台レディースの初代監督となるのは、Jリーグチームや日テレ・ベレーザやINAC神戸レオネッサなどを率いた経験豊富な松田岳夫氏だ。就任にあたって松田監督は「選手たちが魅力あるプレーを繰り広げ、仙台市、宮城県そして東北から明るい話題を全国に発信できるよう、優勝争いをするチーム作りを目指していきます」とコメントしている。女子サッカーの強豪チームを指揮し、数々の栄光に導いたその手腕に大きな期待がかかる。

 チームのプロ化に伴い、選手たちにとってはより競技に集中しやすい環境が整っていく。これまでアマチュア選手が仕事をしていた日中の時間にトレーニングを行うことができ、空いた時間を体のケアやキャリアを磨く時間に充てられる。プロとしてより一層厳しい競争に勝ち抜いていくため、個人の高い意識も求められるだろう。新しい挑戦に「この仲間たちと優勝したい」と浜田遥選手は意気込む。「子供たちにも夢を与えられる存在に。マイナビに入りたいと思ってもらえるようなチームにしたいです」と頼もしく抱負を語った。

マイナビ仙台レディース 浜田選手 プレー写真

※チームより提供

 新チームにはマイナビベガルタ仙台レディースからのメンバーが20人、更に代表クラスの有力選手の加入が続々と発表されている。日テレ・東京ヴェルディベレーザからFW宮澤ひなた選手、MF原衣吹選手、ちふれASエルフェン埼玉からMF長野風花選手、DF西澤日菜乃選手、セレッソ大阪堺レディースからFW矢形海優選手、日体大FIELDS横浜からGK福田まい選手が移籍加入する。チームは2月に始動し、秋のWEリーグ開幕へ準備を進めていく。

 ユニフォームなどのチームカラーも長く親しんだ「ベガルタゴールド」から、マイナビのコーポレートカラーである「マイナビブルー」へと変わる。チームのルーツ「マリーゼブルー」を思わせるような、美しい水色のユニフォームとなるだろう。かつて仙台Lはマリーゼの記憶を残すため、ユニフォームの裾に水色の星をつけた。今後発表される新ユニフォームについて、株式会社マイナビの中川信行社長は「ベガルタの味が残るようなユニフォームに仕上げたい」と話している。

 「マリーゼとベガルタの魂を胸に灯し続け、チームのためにできることを常に考えて行動したいと思います」と浜田選手。マリーゼ、ベガルタとして戦った歴史も大切に、マイナビ仙台レディースはWEリーグという新しい世界へと船出する。仙台には2021年もこれまでと変わらずに、ボールを蹴る先に愛する仲間がいる喜びがあふれている。

村林いづみ
村林いづみ

フリーアナウンサー、スポーツキャスター。2004年からラジオでベガルタ仙台のトーク番組を担当し、2007年よりスカパー!や DAZNで中継リポーターを務める。ベガルタ仙台レディースは2012年のチーム発足時より取材を開始。ヒーローインタビューと勝利の祝杯を何より楽しみにしている。